5.夏空の青の先4
営業用のサワヤカスマイルではなくて、いじわるなはかりごとを企んでいる時の方。
あたしの将来に、あのひとがどこまで関わってくるのかは、わからない。
中3の時、みんな急に付き合いだした。同級生同士が多かったけど、あたしみたいに、年上と付き合ってる子もいた。でも、ほとんどはもう別れてる。
だから、先のことなんて、わからないけど。
せんぱいと、たとえ違う道であっても。
また、一緒の道であっても。
あたしは、あたしらしく、あたしのペースで、着実に進んで行きたい。
無理やり背伸びをして生きられるほど、器用じゃないしね。
苦しいことがあっても、つらいことがあっても、負けないでやっていけば、突き抜けたその先に見えてくるものが必ずあると信じていこう。
富士山も戦っている。
青空も戦っている。
わたしも、進もう、凛と、いきたい。
飛行機は、空を駆け抜けて、いつの間にか遥か彼方へ消えて行ってしまった。
さあ、かけがえのない、きらきらとしたこの一日、一日。
今日の日も、明日も、すべてを大切に胸に刻みつけてゆきたい。
「光輝、絶対いけるよ」
あたしは、1学期、光輝が英語の予習で夜更かしして、寝ぼけ眼のまま、朝練に来ていたのを知っている。
苦手な英語の小テストの点が、じりじりと上がってきていて、部活の時、うれしそうに他の1年と結果を言い合いっこしてたのを知ってる。
喜びを抑えて、紅潮していた顔を知ってる。
本当に腐れ縁で。
何でも、わかっちゃうんだ。
もし、せんぱいとは、進む道が違ったとしても、光輝との腐れ縁は、ずっと続いていくんじゃないかな。そんな予感。
練習試合のメンバーのことも、見ている人は見てくれているってことなんだと思う。光輝は、バイタリティーに溢れていて、攻めて攻めて攻めまくるタイプだ。そこを買ってくれているのだと思う。
今日も、サッカーの事ばかり一生懸命話してた。
「それにしても、さ」
光輝がまた口を開いた。
「主将にすっげえプレッシャーをかけられたから、緊張するよ。
失敗しないようにしないと」
「せんぱいが? 」
「そー、弓削先輩。
昼に、指名されたって言っただろ、あれ!
けっこう冗談ぽかったのにさ、弦巻先輩が、乗りに乗っちゃったら、主将も、一緒になって。それもあって、他の奴ら、俺とは組んでくれないんだよ」
続けて光輝は、期待してる、とか、楽しみにしてるとか言われて困った、とぼやいていた。
たこ焼きの恨みだけじゃないと思いたい……。
本当に光輝がやるって決まってしまい、顔では「やれよ」って言いながら、内心言い過ぎたと思ってるせんぱいの様子が思い浮かんだ。まあ、光輝は人前で何かをするのが、苦手ってわけじゃないし、困ってる顔はしながらも、けっこう楽しんでるようなので、逆に良かったのかも。どうしても嫌だったら、断っただろうし。
光輝は何か思いついたように、ぱっと顔を上げて、あたしを見た。
「やっぱり俺、見込まれてるのかなあ!
主将に一目置かれてるんだ。これも、上手くなるための、愛の鞭なのかなあ! 」
へへへ、とうれしそうに、きらきらした目で言う。
「う~ん」
『愛の鞭』って……。
出し物出来たからってサッカーに、関係ないと思うよ。
光輝が、せんぱいのことを、心から尊敬してるってことは、よおく知ってるよ。
あたし達のことを、いつか話したら、すっごく喜んでくれそう。その時まで、内緒でゴメンネ。
遠くに旅館が見えて来た。
よ~し!
日々前進!
あたしたちのセイシュンは続く。