5.夏空の青の先2
光輝は、そこで、またうなだれた。
「あずちゃんのコントも見てみたいけどねー」
真弓先輩が、うふふ、とあたしに笑いかけながら、さらっとそんなことを言う。
「真弓先輩、ほんと、無理です。かんべんです!! 」
あたしは、もうチーズフライどころではなく、泣きそうになりながら、光輝に向き直った。
「わかった、買い物は付き合うから、あたしは出ないでいいにして?
ね? ね? 」
人前で、しかも、せんぱいもいるのに、コントだなんて、本当に無理だよ!サイアクだよ!
あたしの必死さが伝わったのか、光輝の顔が、ぱあっと明るくなった。
「まじ? 良かった~。
みんな練習でグロッキーになってて、寝るって言ってるからさ」
そう、この合宿は、とにかく基礎的な体力つくりなどが中心で。何部なのか忘れそう。
スタミナアップのため、走り込みや、ストレッチ、そして、筋トレに時間をかけたりって感じで。
ゲームらしいゲームと言ったら、一昨日の紅白戦だけ。あとは最終日に他の学校との練習試合が決まったらしいけど、ボールコントロールや、パス練習など、もっとやるのかと思っていたのに。
単調なことを、照りつける日差しに体力を奪われながら、みんな本当にがんばってる。
今日の午後は、やっと待ちに待った休息日だった。
「行く行く、行くよ」
あたしは、こくこくとうなずいた。
「だから、一緒にやんなくていいよね? ね? 」
光輝が頷いてくれたので、あたしは、ほっと胸を撫で下ろした。よかった、やることにならなくて。
あたし達は、昼食の片付けを済ませると。
バスに乗って、離れた場所にあるショッピングセンターへ向かった。
センター内は、とても広く、明るかった。
あたしは、この合宿が始まってからというもの、いつのまにか、山奥へ修行に来ている気分になってたみたい。時間通りに規則正しく動き、禁欲的な生活をしているからかな。それにこわい監督達に緊張しながら過ごしているからかもしれない。
ショッピングセンターの開放的で、近代的な内装は、心地良くてほっとした。
忘れていた文明社会に帰って来たような、目が覚める感じだった。
ショッピングセンターに来る前に、せんぱいへ、光輝と一緒に出かけることになったと、事情を簡単にメールしたら、わりと早く返信があった。
『この打ち上げの芸だしは、OBの先輩方も何人か残っていくから、適当なことはできないし、へたに見てる人が引くようなことをすると、大阪に帰ってからも、きつい練習が特別に待ってたりするから、がんばれ』
と、いうような内容だった。
だから、前もって(練習以上に?)気合いを入れて真剣に考えてるんだ。こういうことに熱心に取り組む大阪人のDNAには、すさまじいものがある。光輝、で大丈夫なのかなあ。なんか、面白いこと、言おうって考えてるのかなあ。
あたし達は、広い店内で、書店に入った。何かいい本はないかと、探してみる。
あいにく、その手の書籍の並ぶコーナーにはあまり本が置いてなかったけど、宴会芸用の本が見つかり、光輝は即買いした。
休憩できるベンチを見つけて、買った本から、簡単だけれど、本格的に見えるマジックというのを探し出した。
「これなんかいいんじゃないの? 」
あたしが選ぶと、光輝は小道具を1つ2つ買っていた。
何とか形が見えて来て、光輝はやっとほっとできたみたいだった。