5.夏空の青の先1
「梓ぁ、俺、打ち上げで手品やるんだけど、今日は、なか日で午後の練習ねえじゃん。
本探しに行くの、付き合ってくんない? 」
第4日目の昼食時。
あたしは、ちょっとうるうる目の光輝からそう期待を込めて見つめられた。
「なんかやれって、突然指名されたんだよ。
全然思い浮かばねーとか思ってたら、たまたま、買い出しの時コンビニで読んだ雑誌に手品のことが書いてあってさ」
光輝はそこで一旦言葉を切って、気持ちをぶつけるようにご飯をわーっとかき込んだ。
「光輝、手品やるの? 」
あたしは目を真ん丸くして、もぐもぐと口を動かしてる光輝を見た。
「えー、楽しみー」
真弓先輩は無邪気にそう言って。
村中くんは、くつくつと笑っている。
光輝は、ご飯を飲み込むと、大袈裟に肩を落とした。なさけなく、はぁと溜め息をついている。
「真弓先輩……。人ごとだと思って。村中も」
「だって、ヒトゴトだ、もーん」
真弓先輩は、ふふふと笑って、漬け物に箸をのばした。
村中くんも、知らんぷりしてる。
でも、口角が上がっていて、笑いをこらえてるのは一目瞭然だった。
最後の夜の打ち上げは、あたしもすごく楽しみにしていた。
光輝が、手品ね。
練習で疲れきってる中、そんなことも考えなきゃならないなんて、気の毒だけど。あたしは、光輝の様子を気にしつつも、目の前の料理を味わっていた。
今日のお昼は、大根ときのこの中華風サラダ、ほうれんそうとベーコンのごまピーナツ和え、スープ。 そしてメインは、ささ身のチーズフライで、千切りキャベツが添えられていた。
ささ身のチーズフライは、大好物。そのため、ひそかにあたしのテンションは高めだった。
光輝には悪いのだけど、あたしは外側さくさくで、中はチーズとろりのフライに至福を感じつつ堪能していた。
「梓も、俺の話より、飯かよ。
幸せそうな顔で食ってやがって……。はぁ、なんだかもう」
光輝は箸でキャベツをつつき出しだ。ぶつぶつと文句は続いている。
「芸だしを張り切ってる奴らは、合宿前からネタを考えてたんだ。
今の所、俺と組んでくれる奴はいなくて。村中達も仲間に入れてくんねえし」
光輝はちらっと村中くんを見た。
「しょうがないだろ、光輝は多分ついて来れねえよ」
村中くんにあっさりと拒絶され、光輝はまたぶつぶつと続けていた。
「先輩ら、絶対笑いには厳しいだろうから、一人漫談とかありえねーし」
そこで、はっとしたように、チーズフライを口に運び、幸せに浸っているあたしを見た。
「一緒にコントするってどうよ? 」
チーズフライに陶然となっていたあたしに、急に話の矛先を向けられ、ぎくりとした。
「え?ああたしぃ~!?
むむむ無理だよ!そんなの!! 」
あたしは、チーズフライをお皿に戻し、お行儀悪くも、箸を持ったまま必死になって手を振った。絶対、絶対出来ないよ!
「だ、よ、なあ」