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夢で生きる  作者: 中田あえみ
第九章
28/34

つ づ き 2 (ジョージ視点)

早朝のマラソン式典に、紀恵が現れたのは嬉しい驚きだった。

偶々、開会式に(紀恵をイメージした)人生の話をしたので、少しは俺の本気を見せられたかな。俺も初めて実感したが、自分は他人の事を気に掛ける立場上、例の古武術にすっかり頼り切ってることが分かった。でも、紀恵はスマートに俺に警告をくれる。本当にすごい奴だ。


その

後二人でテレビを見ていたが、案外紀恵はチャンネルをコロコロ変えるのが好きで、二度びっくり。俺は仕事なので、ずっとマラソン中継を眺める立場なのだが、もう一つ他のテレビを、かちゃかちゃと色々なチャンネルに変えていたのは紀恵だ。


そしてじっくり、彼女の薬指を見る。職場にいるときは同じ場所にいるわけでもないので、昼間にしか拝めない、彼女の美しい細い指。

それに大きなサファイヤが載っかっているのは、流石に違和感はあるが、それだけの存在感を示してもらわないと、贈った意味がない。


紀恵に贈る指輪を考えてると兄上に言ったら、さらりと父上からあのサファイヤを貰って来た。手直しすれば、十分似合うと母上が言ったとか。兄上が意中の方に上げるのでは、と聞いたら、先日(結婚は)断られたばかりだと言うので、それ以上刺激しないことにして、有難く頂戴した。


まだ紀恵は、指輪自体の値段にこだわってるみたいだが、いつの日か、それ自体の美しさに気付いてくれるだろう。指輪そのものの価値に、気づいてくれて、理解してくれる日を、俺は待ち望んでいる。俺だって、好き好んで贅沢しているわけではないが、世界中に流れるニュースで、わがブルテリア王国の王族が、百均を着ていたら、国家の経済破たんを疑われる。我々は公人として、ある程度プライベートを犠牲にせざるを得ない。

生まれた時から、俺たちや貴族階級は何となく受け入れる事を身にはついているけど、一般市民としては、冗談じゃない、と拒否したいものなのだろう。


でも紀恵は、絶対に王族に向いていると思う。あの責任感、自由な考え方、そして独立心。檻の中に入れるには忍びないけど、俺が檻から出られないんだから、仕方ない。それでも俺が紀恵を必要なんだから、仕方ない。


婚約発表の前に、紀恵のご両親を再度お呼びした。

「お嬢さんをください」

とだけ日本語。その時は通訳を下がらせ、俺、紀恵とご両親でテーブルを囲み、俺は直立不動で「幸せにします」(日本語)と宣言。流石にお義父上はピクリと眉を上げたが、静かにうなづき、お義母上は大喜びで、とにかく承諾を貰った。


紀恵も涙ぐんでいたのには、びっくりした。本音を聞き出そうとしたが、怒られそうなので無意識に尋ねるのは止めた。その代り、

「どうしたんだよ、もっと喜んでくれるかと思ったのに」

と愚痴ると、彼女は、

「何かびっくりしたのと、安心したので、気が遠くなった」との事。俺ってもしかしてまだ信用されてない?


イングリッドには、婚約発表前にメールで報告した。

分かってるかと思うが、イングリッドが俺の元カノだ。いや、まだ紀恵には言ってないけど、薄々気づいてるとは思う。


ご両親には、紀恵はこれから俺の離れで、つまり王宮で暮らしてもらう事を説明して、保安上の事や、教育面でのことも絡めて、しぶしぶ納得してもらった。お義母上が最初はカンカンだったが、何とかおさめた。


なので、別々の部屋(一番遠い距離の部屋)だが、寝る前と起きてからは、紀恵の顔が見れる。


一緒にフィニッシング・スクールのプライベートレッスンを受けて、先生を見送り、いよいよ寝る段に、

「お休み」

そして軽く彼女の髪にキスをし、手にも口づけてそれぞれの部屋に戻るけど、本当に後ろ髪をひかれる思いだ。

婚約発表の時は、氏名を含むプロフィールを公表したので、彼女の周りは一層騒がしくなった。だから、尚更気を付けなければならない。


夢の続きを見るために。


会社ではキリリとPCの前に向かってるし、プロジェクトも辛い役割を割り当てられているのに、俺には愚痴もこぼさない。本人は田中咲子の方がいいお嫁さんだと言っているけど、俺にとっては、紀恵の方がよほど出来たお嫁さんになると確信している。


だから、俺もしっかりしないと。

ニールと日本語の勉強を始めて半年、何とか買い物くらいは出来そうだ。

結婚前に一度、紀恵と一緒に日本に遊びに行きたいと思ってるから、一層勉強に力が入って来た。


「ジョージ、明日何時ごろ起きる?私、朝一でミーティングがあるから、六時半には起きて、ジムに行きたいんだけど」

「じゃあ、先に行っていていいよ。車は二十四時間使えるし、食事も出来るから、遠慮しないで周囲に頼めばいい」

「うん……」

遠慮している。

俺は、側にいる使用人の一人に、彼女の事を頼んだ。こういう事は、まずは俺がサポートすべきなんだよな、よし。出来るだけリラックスして、ここに住んでもらわないと。


彼女もお休みと言って、自分の寝室へ引っ込んだ。

彼女も夢の続きを見てくれているだろうか。いや、考えるには及ばない。彼女の意識に入って、一緒に同じ夢を見よう。

それくらいは許してくれよ、紀恵。



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