When I was young,
……幼い頃、私は暗闇が怖かった。
例えば大通りを歩く途中、明かりのない路地裏を見つけた時。真昼でも先の見えないほど真っ黒な暗闇の向こう側に、なにか得体の知れない塊がザワザワと蠢いているような気がして、そんな時いつも私は早足でその場を後にした。このまま立っていたら、路地裏の奥の暗闇に引きずりこまれてしまいそうで、ひどく恐ろしくなったから。
もちろん、実際その路地裏に怪物がいた、とかいうことはなかった。ただゴミや割れた酒瓶が転がっていただけである。年を重ね、高校生になる頃にはすっかり何も感じなくなった。今では怖がってた頃を懐かしむくらいの余裕すらある。
……でも、そんな今だからこそ、ふと思うことがある。どうしてあんなに怖かったのだろう?
あの路地裏はただのゴミ捨て場に過ぎなかったのに、あの頃はどうしてあんなに真っ暗で、恐ろしく思えたのだろう?
それはきっと、まだ幼かったからだとか、不安が見せた幻だとか、色々な理由をつけて説明することができるのだろうけれど、それでも私は、あの暗闇から感じた息遣いを思い出すたびに考えるのだ。
アレは今もいる。路地裏を飛び出して、何処か別の暗闇の中で、誰かが近づいてくるのを待っているのだ、と。
そして私のこんな陳腐な考えは、後に当たっていたのだと思い知らされる。
あの日起きた『悪夢』と……これから踏み入れる『暗闇』の中で。