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なんでまだ生きてるんだろうな

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/17

何度か、人に「一緒に死のう」と言われたことがある。


不思議なことに、そのどれもが冗談ではなかった。


夜の帰り道だったり、自分の部屋だったり、

あるいはコンビニの駐車場だったり。


場所はばらばらなのに、言葉だけはいつも同じだった。


「一緒に死のう」


その言葉を聞いたとき、怖いとは思わなかった。

むしろ、少し安心した気さえした。


ああ、やっと自分の役割が来たのかもしれない、と思った。


誰かの最後を一緒に背負うこと。

それが自分の役割なのかもしれない、と。


だから、毎回こう答えた。


「いいよ」


言葉にすると、いつも相手は少しだけ驚いた顔をした。


もっと止められると思っていたのかもしれない。

もっと狼狽えると思っていたのかもしれない。


でも、止める理由が見つからなかった。


生きる理由が見つからない人に、生きろと言うのは残酷だ。

自分もそう思っていたから。


だから、受け入れた。


もしも人が本当に終わりたいなら、

その最後くらいは一人じゃない方がいい。

そんなふうに思っていた。


何度か、本当にその瞬間の近くまで行ったことがある。


夜の海だったこともある。

人気のない山道だったこともある。

冷たい風が吹く橋の上だったこともある。


そのたびに、空気は妙に静かだった。


世界はいつも通り動いているのに、

そこだけが切り離されたみたいだった。


そして、決まって同じことが起きた。


相手が、踏みとどまる。


「やっぱりやめよう」


最初にそれを聞いたとき、正直なところ少しだけ驚いた。


でも、怒りはなかった。

失望もなかった。


ただ、少しだけ不思議だった。


あれほど苦しそうにしていたのに。

あれほど終わりたがっていたのに。


どうして最後の一歩だけ残っているんだろう。


二回目も、三回目も、同じだった。


誰かが「死のう」と言う。

自分は「いいよ」と言う。

そして本当にその場所まで行く。


でも最後には、相手が踏みとどまる。


「やっぱり怖い」

「まだ無理だ」

「もう少しだけ生きてみる」


そう言って、世界に戻っていく。


そのたびに、自分は置いていかれる。


置いていかれる、というのは変かもしれない。

だって自分も生きているのだから。


でも、感覚としては確かにそれだった。


彼らは世界に戻る。

自分は最初から世界に戻るつもりで来ていない。


だから、毎回少しだけ宙ぶらりんになる。


帰り道を歩きながら、いつも同じことを考える。


どうして自分は、まだ生きているんだろう。


あれほど「いいよ」と言ってきたのに。

あれほど終わりに近い場所まで行ったのに。


なぜか、自分だけが残っている。


もしかしたら。


本当に追い詰められていたのは、

相手じゃなかったのかもしれない。


彼らは、最後の一歩の手前で踏みとどまれる。

怖いと言える。

やめようと言える。


でも自分は、たぶんそれを言わない。


もし相手が踏み出していたら、自分も踏み出していた。


止めなかったと思う。


むしろ、背中を押していたかもしれない。


それでも、なぜか世界は毎回自分を生かす。


相手が最後に怖くなることで。

相手が最後に思いとどまることで。


まるで、自分をこちら側に縫い付けるみたいに。


だから、ときどき思う。


自分は死にたい人間なのか。

それとも、死ねない人間なのか。


あるいは。


誰かの「最後の一歩の手前」に立つためだけに、

なぜかずっと生かされている人間なのかもしれない。


もしまた誰かが言うだろう。


「一緒に死のう」


そのとき自分は、きっとまた同じことを言う。


「いいよ」


そしてきっと、また最後の瞬間に相手が踏みとどまる。


その帰り道で、自分はまた考える。


どうして自分は、まだ生きているんだろう。


世界はその答えを、まだ教えてくれない。

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