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OBOSHIMESHI

作者: てこ/ひかり
掲載日:2026/03/18

「喰らえッ! 豪炎舞拳!」


 少年の甲高い叫び声が、好天の下に轟く。快晴だった。雲ひとつない空に、巨大な蜥蜴型の怪獣がふわりと舞った。少年に殴られたのだ。怪獣と少年。その体格差は、まるで象と蟻、いやシロナガスクジラとミジンコほどはあるだろう。しかし勝ったのは少年の方だった。


 家の窓から、学校の中庭から、オフィスの屋上から、闘いを固唾を飲んで見上げていた観客たちは、揃って叫び声を上げた。決まった。少年の必殺技が決まったのだ。少年の突き上げた拳から放たれた炎が、蜥蜴怪獣の躯を焼き尽くし、さながら隕石のような、巨大な黒炭を空に造り上げる。


 黒焦げになった怪獣の下敷きになって、逃げ遅れた34人が死亡した。だが、怪獣を倒さなければ被害は数万人を超えていただろう。燃え盛る街を見下ろし、少年が満面の笑みを浮かべ、得意げに鼻の下を擦った。


 少年は能力者だった。拳から炎を放つ能力。今時、別に珍しいものではない。最新の調査では、実に日本人の10000人に1人は能力者だった。


 能力者の出現で、社会は変わった。


 変わらざるを得なかった。電気系能力者のおかげで、もはや電力の心配をする必要はなくなり、インフラ会社は軒並み倒産した。『瞬間移動』『高速移動』の能力は、公共交通機関の存在意義を破壊し、(能力者たちに頼むことで)人々は1秒もあれば地球の裏側に出没できるようになった。


 パワー強化型の能力は指一本で鋼鉄に穴を開けられたし、その気になれば数分で山を更地にすることも可能だった。回復系能力が医療従事者を絶滅させたのも記憶に新しい。


 宗教も次第に変貌した。目の前で本物の奇跡が起きているのに、どうしていつまでも、何千年経っても起きやしない奇跡を待っていられようか。人々は科学よりも魔法を信奉し(当たり前だ。サイコキネシスなんか、小学生でもできる)、能力者たちが新たに神と崇め奉られた。能力者が現れると同時に、おまけみたいに怪獣も出没するようになって、なおさら人々は能力者に縋った。


 事態を重く見た政府は、能力に目覚めた人間に自制を促し、あわよくば支配を試みたが、次の日出没した蜥蜴怪獣に国会ごと踏み潰された。無政府状態になった人々の間では、金銭の取引に代わって、原始的な物々交換が流行し始めた。そりゃそうだ。能力さえあれば、わざわざ賃金を稼いだり(高い)税金を納めなくとも、自分で世界を如何様にも変えることが出来るのだから。勉強よりも仕事よりも、大事なのは能力だ。新世紀、能力者の能力者による能力者のための、弱肉強食社会が幕を開けたのだ。


 しかし……一体どうして、突然人間が特殊な能力に目覚めたのだろう?


 科学者たちは……失礼、元科学者たち(現代では妄想家とか偏執狂と呼ばれる)は、頭を悩ませた。進化と呼ぶにはあまりにも突然変異過ぎる。それも、1人や2人の話ではなく、世界中で、今この瞬間も、それまで何の変哲も取り柄もない一般人が、奇想天外な能力に目覚めているのだ。


 魔法は実在したのか? 

 科学は死んだのか? 

 これが、宇宙の意思、神の思し召しとでも言うのだろうか?


 答えはしばらくして分かった。数年後、能力者の数が1000人に1人まで膨れ上がった頃、地球に一隻の宇宙船がフラフラとやってきた。これが人類史上、宇宙人とのファースト・コンタクトであったが、数々の奇跡的な能力を目の当たりにしてきた人々に、今更深い感動などなかった。


 やがてUFOから銀色のスーツを身に纏った宇宙人たちが降りてきた。意外に小さい。背丈は、大きく見積もっても小学生くらいだろうか。能力者がすかさず彼らの前に歩み出た。


「何だテメー? 何しに来たんだ?」

 相手が弱そうだったからだろうか、拳から炎を出す能力者の青年が、威圧的に尋ねた。彼は此処ら一体を統治している能力者だった。今ではそれぞれの地区を、縄張りみたいに、それぞれの能力者が支配していた。炎の能力者が、己の拳を彼らの鼻先に突きつけた。


「地球を侵略するつもりなら、残念だったな。返り討ちにしてやるぜ。俺の『能力』で……」

「……君たちが『能力』と呼んでいるものは、我々が授けたものだ」

 宇宙人が流暢な日本語で答えた。それから周りを見渡して、嬉しそうに頷いた。


「随分と逞しく、思ったよりたくさん育ったようだな。嬉しいぞ。これでしばらくは食べるものに困らない」

「何言ってやがる?」

「『ジェミリアゴン』の分量が良かったようだ」

「何だって?」


 後から分かったのだが、『ジェミリアゴン』と言うのは、たびたび地上に出没していたあの怪獣の総称だった。あの蜥蜴怪獣も、結局は宇宙人の差金だったのだ。彼らは『飼料』として、あの怪獣を定期的に地球に送り込んできていた。


「何だか分からんが、この街で勝手なことはさせねえ! とっとと出て行かねぇと」

「いただきます」


 青年が口上の途中だったが、宇宙人はお構いなしに、彼の体に齧り付いた。その巨大な口。明らかに体と口の大きさが釣り合っていない。能力者の拳が、ゴリゴリと音を立て、骨ごと宇宙人の胃のなかに収まった。

「うむ。これは美味い。『炎味』が効いてるな」

 宇宙人が満足げに目を細めた。あまりに一瞬の出来事すぎて、青年も、周りにいた信徒たちも、何が起きたのか理解するのに数秒かかった。


 遅れて悲鳴が上がる。宇宙人による能力者の踊り食いが始まり、そこからは阿鼻叫喚だった。何のことはない。数年前、人々が突如目覚めた『能力』は、魔法でも、進化でもなかった。『品種改良』だったのだ。


 我々は家畜だった。


 ある者は巨大化し、またある者は空を飛び。宇宙人が、人類を美味しく食すため、『能力』を与え味を調整していた。宇宙人の味の好みは良く分からないが……ある者は筋肉を増強され、またある者は毎日卵を産み……。

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