言うは一時の勇気。言わぬは一生の後悔
「俺……今日亜美ちゃんに告白しようと思うんだ」
突然だけど、俺は今まで臆病と優しさを混同していたんだなって思う。相手の心を気遣って、思ったことを言わないことにする。
それを優しさって言って。本当はただ臆病なだけなのに。だってそうだろ? ……こいつ、鼻毛出てるんだもん。
「お前は相談乗ってくれたし、だから最後まで見届けてほしくて」
俺をまっすぐに見つめる綺麗な瞳。形の整った目や鼻が正確な位置に配置されており、整えられた眉毛やさらさらと綺麗に流れる髪が清潔感を――鼻毛出てる。
ダメだ。こいつの清潔感がすべて鼻毛にスポットライトを当てている。
言いたい。でも言えない。何故なら勇気がないから。人生において同調と肯定しかしてこなかったつけが回ってきたのかもしれない。
人に誹謗中傷出来る奴なら、簡単に指摘できるんだろうなあ。アンチコメント送ってる下等生物に憧れたのは初めてだ。
「今日ならいけると思うんだ。自信に満ちてきてる」
いけない。昨日のお前ならいけた。
自信に満ちるな。こいつの鼻に手を突っこみたい衝動に駆られる。
―――――。
「……大丈夫だよ。お前ならいけるよ」
いけない。大丈夫じゃない。俺は笑顔で嘘をつく。心にないことを平気でいう。
優しい嘘。残酷な嘘。ついてはいけない嘘。
「インフルとか流行ってるし、マスク付けたらどう?」
「いいや。顔を隠すべきではないと思う」
付けてくれ……男らしさを捨ててくれ。男らしいのがお前の魅力なのはわかったから。
「LINEとかは?」
「もっとないだろ」
知ってた。でも鼻毛出して告白するほうがない。一番ない。だから気付いてくれ。
「おーい優紀来てくれ……ってあれ? 優紀は?」
ノンデリの優紀を呼びつける。あいつなら勝てる。あいつなら言ってくれる。
「さあ。あいつ他クラスに行ってるんじゃね?」
なんやねんあいつ。あいつこそマスク付けろ。ノンデリの癖に肝心な時にいねえのかよ。ざけんな。
「よし!! じゃあ行くから、応援していてくれ」
俺の肩をグッと掴み、緊張で強張った顔を近づけてきた。鼻毛出てる。一本の毛でこいつの決意が終わる。俺の臆病でこいつの青春が終わる。
そんなことあっていいのだろうか。そんなときだった。
「お。優紀じゃん」
来た!! 他クラスに行っていた優紀が帰ってきた。そして俺たちの元に来るや否や。
「お!! めっちゃ鼻毛出てるじゃん!! おい!! こいつめっちゃ鼻毛出てぶへっ!!!???」
討伐完了。
俺は優紀を用済みと判断するや否や、亜美ちゃんに聞こえる勢いで騒いでいる優紀をぶん殴った。
親友を裏切らずにいれたこと。親友の背中を押せたこと。あとこいつをぶん殴れたこと。
それらを同時に成せて、本当に気分がよかった。
「あ、まじ? あっぶね」
気付いた彼はすぐさまトイレへいって鏡を確認した。そして自分の鋏を使い、毛の処理に成功。
俺は意識のない優紀を掃除用具入れにぶち込むと、告白現場に向かった。
「好きです!!付き合ってください」
「はい――よろしくお願いします」
ハッピーエンド。
よかったな。俺は親友の恋の成就を見届け、安心して教室に戻った。
満面の笑みで戻った俺は優紀に掃除用具入れから奇襲されボコボコにされた。




