タイトル未定2025/11/21 00:41
婦人と別れたマスターは、マンションの部屋の鍵をそっと開けた。
ドアを静かに閉め靴を脱ぐと、部屋の中にそっと入って行った。
長い廊下の床に小さな明かりが灯っていて、マスターは部屋の入り口のすぐ側の部屋のドアを小さくゆっくり開けた。
部屋の中には常夜灯のオレンジ色の明かりが、部屋の様子を浮かび上がらせていた。
ベッドには、年長児の男の子が静かに眠っている。
マスターは男の子の側に行き、床の上に両肘をつくと、男の子の髪の毛を愛おしそうに撫でた。
男の子の部屋から出たマスターは、リビング兼キッチンに入って行った。
リビングの電気をつけ、暖房を入れる。
リビングが温まるまでの間、マスターはざっとシャワーを浴びて、再びリビングに戻って行った。
リビングはすっかり温まっていた。
マスターはキッチンに行き、お湯を沸かした。お湯が沸くまでの間、換気扇の下でタバコ
を吸った。
お湯が沸くとキッチンにある棚からウイスキーとグラスを出してホットウイスキーを作り、リビングのソファーでタバコを吸いながらホットウイスキーを飲んだ。
……酷いことをしたかな……。
亮に携帯の番号を教えず、店の電話番号を教えたことを、少しだけ反省した。
しかし、亮に携帯番号を教えたら……どうなるかは、目に見えている。
だからこそ、敢えて店の電話番号を教えたのだった。
ホットウイスキーを飲み終えたマスターは自分の部屋に行き、ベッドに上がるとあっという間に眠ってしまった。
「七海!起きてよ、七海!」
身体揺さぶられながら、マスターは目を覚ました。
目を開けたものの、すぐ布団をかぶってしまった。
「もう~起きてよ!七海!」
男の子は言いながら、布団をはぎ取った。
マスターは目をこすりながら、携帯に手を伸ばした。
携帯の画面には、七時の文字があった。
「……七時!なんでこんなに早く、起こすんですか!」
そう言いながら、マスターは布団をかぶろうとした。
しかし男の子は、それを許さなかった。
「ダメぇ~起きなさい!」
マスターはベッドに座った格好で、うつむいたまま頭をかき、男の子の方を見てから言った。
「……昨夜は遅くまで、仕事だったんです。今日は、日曜ですよ。ゆっくり寝かせてください」
「おまちさんが、朝ご飯を作っているよ!」
「朝ご飯……いりません。もう少し、寝かせてください」
「ダメッたら!ダメ!」
男の子の容赦ない襲撃で、マスターは渋々起き上がった。
キッチンでは、男の子が言っていた『おまちさん』が、朝ご飯を作っていた。
おまちは六十代中盤の小柄な婦人で、シャキシャキした態度が、年齢より若く見せていた。
「おまちさん!七海、起きたよ!」
「あら、大門君ありがとう」
大門は嬉しそうに大きな目を細め、テーブル席にちょこんと腰掛けた。
そこへ、パジャマ姿のマスターが大あくびをしながらリビングに入って来た。
その姿を見たおまちが声を上げた。
「坊ちゃん!なんですか、パジャマのままで」
「今日は、休みなんですよ。自由にさせてください」
「子供みたいなことを、言うんじゃありません。大門君が見ています。早く顔を洗って、着替えてください」
おまちに急き立てられるように、マスターはリビングを出て行った。
顔を洗って、トレーナーにジーパン姿のマスターがリビングに入り、テーブル席に座っている大門の隣に座った。
「さぁさ、朝ご飯にしましょう」
言いながらおまちが、マスターの向かいに座った。
朝ご飯が済むと、おまちは後片付けをして帰って行った。
「大門、公園に行きますか?」
「うん!」
マスターと大門は、マンションの側の公園に行くと、サッカーボールをけり始めた。懸命にボールを追いかける大門を、優しく見守るマスター。その姿は、親子そのものだった。




