タイトル未定2025/11/20 23:19
業務を終えた亮は、待ち合わせ場所に向かっていた。
途中で若菜と会い、肩を並べて歩いた。
待ち合わせ場所には、既にちはるがいた。
亮は驚いた表情を、ちはるに向けた。
「何よ?なんか文句ある?」
「早いですね」
「時間より、早く来ちゃダメなの?」
「そんなこと、ありません」
「じゃ、行くわよ」
そう言ったちはるは颯爽と歩きだし、亮と若菜はちはるを追いかけるように歩きだした。
ちはるは、若菜に聞いてきた。
「ねぇ、barが開いているのは、週末だけなのね?」
「シロちゃんが、マスター直々に聞いたから間違いないよ」
「シロちゃん?ああ、スイの友達ね。シロは、どう言ういきさつでマスターから聞いたのよ?」
「バイト帰りに偶然マスターに会って、そこで聞いたんだって」
「偶然?ふ~ん。マスターのこと、他に何か聞いていない?」
「マスターのこと?ううん、別に聞いていない」
「な~んだ」
ちはるは面白くなさそうに言った。
若菜は、ちはるに嘘をついた。
マスターのことは、亮やちはるに知られたくなかった。
……高校生と言うだけで、自由にマスターの店に行くことができない私は、ハンデを背負ってる。何もマスターのことを、あれこれ言う必要はないわ……。
隣で歩いている亮をそっと見ると、亮は無表情のまま歩いていた。しかし嫉妬をしていることは、手に取るようにわかった。
マスターの店barジェシカに着くと、店の明かりが灯っていて、店の開店を告げていた。
今度はちゃんと営業していたので、誰もがほっと胸をなで下ろしていた。
先頭を切って歩いていたちはるが、黙ったまま店のドアを開けた。
ドアを開けると同時に、鐘の音が低く鳴った。
時間が早いせいかカウンターの隅に男性客一人と、テーブル席に男性客二人と女性客一人しかいなかった。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中にいたマスターの声が、心地よく響く。
ちはるは若菜の腕を掴むと、マスターに向かってつかつか歩きだした。
カウンターを挟んでマスターの前に立つと、ちはるはまくし立てるように切り出した。
「こんばんは、マスター」
「こんばんは」
「スイが、マスターに旅行のお土産を持ってきたのよ。ほら、出しなさいよ」
「う、うん」
若菜はちはるに言われるまま、バックから土産の紙袋を出した。
「パパとママが旅行に行った時マスターへって、買って来たの」
言いながら若菜は、マスターに土産を手渡した。
「わざわざ、すみません」
土産を手にしたバーテンダーを見たちはるは、バーテンダーに言った。
「どんなお土産?マスター見たい!」
「水田さん、開けても良いですか?」
「はい!」
バーテンダーは、ゆっくり紙袋を開けた。袋の中から出てきたものは、奇妙な顔をした人形だった。その姿に、誰もが息を飲んだ。しばらくの間誰も口を聞くことができなくて、静まりかえった。
その沈黙を、ちはるが破った。
「何、これ?」
自分の父親が買って来た土産なので、若菜は答えようがない。マスターは手にした人形に、じっと見入っていた。
「……厄除けの人形かな?」
ひとこと言ったマスターは、カウンターの中の棚に人形を飾った。
「もぉパパったら!マスターごめんなさい!」
顔を真っ赤にした若菜は、頭を下げた。そっと顔を上げると、笑顔のマスターがいた。
「今夜は私やぱっつんと言う保護者がいるから、スイのこと大目に見てよ。テーブル席で、食事したら帰るからさ」
ちはるは、マスターが口を挟む前にテーブル席に向かって歩き、テーブル席に腰を下ろした。
「すみません」
亮が慌ててマスターに謝った。
「北神さん、気にしないで下さい。水田さん」
「はい」
「わざわざ、お土産をありがとうございました。お礼を言っていたと、ご両親に伝えてください」
「はい!」
笑顔で返事をした若菜はちはるのいるテーブル席へ行き、若菜の後を追うように亮もちはるがいるテーブル席に向かった。
食事が済んだ頃、亮はテーブル席から立ち上がり、カウンターの中でグラスを磨いているマスターのところに行った。
「マスターお話ししたいことがあるんですけど、良いですか?」
不思議そうな顔をしたマスターは、カウンター席に座るよう亮に勧めた。カウンター席に座った亮は、マスターを真っ直ぐみつめ、ゆっくり切り出した。
「仕事のことなんです」
「仕事?」
「弊社では、barに合ったチョコレートを商品化するプロジェクトを立ち上げました。是非そのプロジェクトに、協力をお願いしたいんです」
「barに合ったチョコレート」
「はい」
「商品化と言うことは、店の名前を出すんですか?」
「宣伝するにあたり、店の名前は出ると思います」
「barに合ったチョコレートを作るのに、協力するのは賛成です。でも、店の名前を出すと言うのは……」
「店の名前を出すのは、嫌ですか?」
「すみません」
しばらく考え込んだ亮は顔を上げ、真っ直ぐマスターをみつめた。
「店の名前を出さなければ、協力をしてくれるのですか?」
「はい。barに合ったチョコレートは、ボクも興味があります」
「わかりました。私の一存では決められないので、相談してから改めてお願いに伺います」
「よろしくお願いします」
「結果を知らせたいので、マスターの連絡先を教えてください」
「連絡先ですか?」
そう言ったマスターは、何かを考え込んでいた。
やがて奥の厨房に行き、しばらくすると厨房からカウンターに戻って来た。
マスターは、電話番号が書いたメモを亮に渡した。
両手でメモを受け取った亮は、メモに記された短い番号に愕然となった。
「店の電話番号です。週末の夜は店にいますから、連絡があるときは此処にかけて下さい」
マスターの言葉は、亮の胸に冷たく突き刺さった。




