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DANDY〜笑顔〜  作者: kagari
18/18

タイトル未定2025/11/23 00:26

 日に日に暖かくなってきた三月の初め。

 若菜と流花が通う高校では、講堂で卒業式が行われた。

 式を終えた生徒たちは教室で、高校生活最後の別れを惜しんでいた。

 卒業生たちは別れを惜しみながら教室を出て、校舎から少しずつ出てきた。

 若菜は、流花と肩を並べて校舎から出てきた。目を真っ赤に腫らした若菜を見た流花は言った。

「もぉ、スイったら泣きすぎ!」

「だってぇ、いろんなことを、思い出しちゃったんだもん、シロちゃんは、泣かなったの?」

「うるっときたよ。でも、スイが泣いているのを見たら、泣けなくなっちゃった」

「え~私のせい?」

 思わず流花は笑い声を上げ、若菜は口を尖らせた。ふと、流花は笑うのをやめた。

「スイ、今日の夜、barに来てね」

「もちろん!だって、シロちゃんのウエイトレスデビューだもん!それに今夜は、私たちの卒業パーティだしさ。絶対に行くよ」

「北神さんたちも、来てくれるかな?」

「赤井さんに来るように言ったから、来てくれると思うけど……」

「けど?」

「北神さんは、来るかなぁ?最近北神さん、誰とも話をしていないみたい」

 若菜の言葉で流花は黙り込み、七海が言った言葉を流花は思い出していた。『北神さんに、海外出張の辞令が出たそうです』

「スイ……北神さんに海外出張の辞令が出たんだって」

「ほんとに?」

 驚いた若菜は、思わず立ち止まり、流花をみつめた。

 流花は、黙ったまま静かに頷いた。

 顔を上げた流花は、小さな声を上げた。

「あっ……北神さん?」

「えっ?」

 若菜と流花そして亮は、離れた場所からみつめあった。

 亮はゆっくり歩きだし、ふたりの側に立った。

「卒業おめでとう」

「ありがとうございます」言いながら若菜と流花は、軽く頭を下げた。

「北神さん」流花が言うと、亮は黙ったまま流花をみつめた。

 亮に声をかけた流花は、恐る恐ると言うように、亮に言った。

「海外出張の辞令が出たそうですね」

「……知ってるんだ。マスターから、聞いたのね」

「……はい」

「良いわね、マスターがなんでも教えてくれて。私には、何も教えてくれなかったわ」

「……海外に行くんですか?」

 それまで黙っていた若菜が言った。

「辞令よ。行くしかないじゃない」

 ため息をついた亮は、冷ややかな目で、流花を見ながら言った。

「良かったわね。邪魔者がいなくなって」

「そんな……マスターは、北神さんのことを心配しています」

「見せかけだけのやさしさなんて、いらないわ!」

 若菜と流花に背を向け、歩き出そうとした亮に、若菜は叫ぶように言った。

「黙ったまま、いなくなるんですか?」

 若菜の言葉に、亮はゆっくり振り向いた。

「今夜マスターの店で、卒業パーティをやるんです。ちはるさんから、聞いていますよね?」

「聞いたわ」

「来てくれますよね?」

 若菜は亮の背中に言葉を投げたが、亮は何も答えず、足早に若菜と流花の前から離れた。



 Barジェシカの開店準備が終わり、流花はそっと息をついた。

流花は午後からずっと店内で、自分のやるべき仕事をマスターから教わっていた。

 流花は、今夜初めてbarジェシカで仕事をする。カウンターの中で流花は、マスターと肩を並べてグラスを磨きながら、そっと息をついた。

「緊張していますか?」

「……ちょっと」

「ボクやたきさんがいるから、大丈夫ですよ」

 マスターの言葉に顔を上げると、マスターはやさしく微笑んでいた。



 Barジェシカでは、若菜、ちはる、馬場、赤井のいつものメンバーが集まっていた。

 赤井は自分の向かいに座っている、ちはると馬場に言った。

「来ていませんね、北神さん」

 その言葉に、ちはるが言った。

「ぱっつんを捕まえようとしたけど、なかなか捕まらなくて。ラインで、今日のことは送ったから、今日のことは知っているはずだけど」

 ちはると赤井の会話を、赤井の隣に座っていた若菜は、黙ったまま聞いていた。

 沈黙をやぶるように、飲み物を乗せたお盆を両手にしていた、流花の声が聞こえた。

「お待たせしました」

 飲み物を運んできた、バーテン姿の流花に、歓声が上がる。

「おぉ~かっこいい!似合っているよ」

「恥ずかしいから、やめてください」

 照れながら流花は、飲み物をそれぞれの目の前に置いた。

 飲み物が全員に行き届いたころ、オレンジジュースとコーラをマスターが運んで来て、オレンジジュースのグラスを、流花に手渡した。

「皆で乾杯をしましょう」

 マスターの言葉に、馬場は言った。

「じゃあ、乾杯の音頭を、マスターお願いします!」

「えっ、ボクがですか?」

「だって此処は、マスターの店だし」

「いや……でも……」

 戸惑うマスターに、流花はそっと言った。

「お願いします。マスター」

「……はい。わかりました。それでは……水田さん、白田さん。ご卒業おめでとうございます。今夜は、楽しんでください。乾杯!」

「乾杯!!」

 あちこちから、グラスが重なる音が鳴り響いた。

「では、料理をお運びします」

マスターはそう言う、と厨房に向かって歩きだした。

 流花も、それに従って歩きだした。

 やがてマスターと流花は、厨房から前菜の料理を運び、テーブルに並べた。前菜の料理が並ぶと、マスターは流花に言った。

「白田さん、今夜はもう良いですよ。テーブル席に座って下さい」

「まだ、仕事中です」

「今夜は、白田さんも主役なんですよ。仕事は、いいから」

 しばらく黙り込んでいた流花は、にっこり笑った。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

流花は若菜の右隣に座り、若菜の左隣に座っている赤井に言った。

「赤井さん、お邪魔してすみません」

「お邪魔なんて!何を言うんですか」

「邪魔じゃないなら、今夜はスイを独り占めしちゃおうかな」

「えっ、そっ、それは、ちょっと……」

 流花と赤井の会話に、若菜は大爆笑をした。

 テーブルを挟んだ向かいの席では、馬場が自分のサラダを、ちはるの皿の上に乗せていた。

「ちょっと、何してんのよ!」

「俺は、野菜が嫌いなんだ!」

「子供みたいなこと、言っているんじゃないわよ!」

 言いながらちはるは、サラダを馬場の皿に戻していた。



 メインの料理を食べ終えた時、椅子から立ち上がった流花は、厨房に向かった。

 厨房の中では、料理人のたきこがデコレーションケーキにクリームを塗っていた。

「わぁ、凄い!」流花は、思わず歓声を上げた。

「今夜のデザートよ」

「たきさん。仕事初日なのに、甘えてしまってすみません」

「いいのよ、そんなこと」

 流花は厨房の隅に置いてあった、大きなごみ袋に気が付いた。

「ゴミ、裏のコンテナに置いてきましょうか?」

「お願いしちゃって、良いかしら?」

「はい!」

 明るく返事をした流花は厨房の裏口から出て、コンテナにゴミ袋を入れ、コンテナのふたを閉めた。

 ふたを閉め顔を上げると、barジェシカの建物をじっとみつめている亮に気が付いた。

「北神さん」

 流花の声に、亮は流花の方を向いた。流花は亮に近づいた。

「北神さん、皆さん中で待っていますよ」

「バーテン姿……ずっと、マスターと一緒なのね」

「誤解しないで下さい。ずっとって、わけじゃありません。私のバイト先が、たまたまマスターの店だった……それだけです」

「それだけって、私にとっては、凄いことなのよ」

「北神さん。このまま黙ったまま、皆と別れるんですか?」

 流花の問いに、亮は何も答えなかった。

「皆、心配しています。北神さんだって、本当は黙ったまま皆と別れたくないんでしょ?だから昼間、スイと私の所に来てくれた。そして今も」

 亮は、黙り込んだままだった。

「さぁ、早く行きましょう!」

 流花は亮の腕を掴むと、強引に店の中に入って行った。



 店内では若菜たちが、食事をしながら、話に花を咲かせていた。

 亮を連れた流花が、皆がいるテーブル席に着くと、皆は話をするのをやめ亮の方を向いた。

「亮さん約束の時間に遅れたので、店に入りづらくなって。今まで店の外にいたんですよ。さぁ、亮さんどうぞ」

言いながら流花は、亮を馬場の隣に座らせた。

「私、手を洗って来ます」

 流花はそう言うと、厨房に入って行った。

 流花がいなくなると、赤井が声を張り上げた。

「馬場さん!ちはるさんと北神さんに挟まれて、両手に花ですね!」

「まぁな。モテる男は、つらいぜ」

 この会話がきっかけとなり、また賑やかさを取り戻した。

 厨房では、たきこがデコレーションケーキの仕上げをしていた。流花が手を洗っていると、マスターが厨房に入って来た。

「北神さんが来たから、もう一度乾杯しましょう。たきさんも一緒に!」

「わ、私は、良いですよ!」

 慌てて言うたきこに、手を洗い終え、タオルで手を拭きながら流花が言った。

「そうですよ!一緒に、乾杯しましょう。私、飲み物の用意をします。ビールとオレンジジュースで良いですね?」

「お願いします」

マスターが流花に言った。

 厨房から出てきた流花は、ビールのグラスを亮の目の前に置いた。その後を追うように、デコレーションケーキと取り皿とフォークを乗せたワゴンを押しながら、たきこが厨房から出てきた。

 たきこの後ろには、マスターがいた。マスターはデコレーションケーキを、テーブルに置いた。流花とたきこは、取り皿とフォークを配り歩いた。

「すご~い」

 たきこが作ったイチゴのデコレーションケーキに、歓声とため息が入り混じった。

「ご存知の方もいると思いますが、改めてご紹介します。料理人のたきこさんです。料理は、たきこさんにお願いしています。このケーキも、たきさんが作ってくれました」

 マスターの隣に立っていたたきこは、照れながら言った。

「料理を作っている人間が、こんなおばちゃんですみません」

 たきこの言葉に、笑い声と拍手と歓声が上がった。そんな光景を見届けながらマスターが言った。

「北神さんが来てくれたので、もう一度乾杯をしましょう。さぁ、たきさんも一緒に!」

マスターはオレンジジュースのグラスを、たきこの手に手渡した。

「馬場さん、乾杯の音頭をお願いします」

 唐突にマスターに振られた馬場は、慌てながらも椅子から立ち上がった。

「え~っと。亮ちゃんも来たことだし。もういっかい、乾杯!」

「乾杯!」

 二回目の乾杯が終わり、切り分けられたケーキが運ばれた。ケーキを一口食べた亮の頬に、涙が流れた。

 テーブルを挟んで、亮の向かいに座っていた流花がそっと声をかけた。

 「北神さん」

 亮はフォークを、皿の上にそっと置いた。

「こんなに楽しい気分になれることは、もうないのかもしれない」

 亮の言葉に、誰もが黙り込んだ。

 涙をぬぐった亮は、言い続けた。

「四月になったら、私は海外の支店へ出向します。本社に戻って来れるのは、数か月……一年後かも」

 亮の海外出張のことを知らなかった、ちはると馬場と赤井は、揃って息を飲んだ。

亮は静かに言った。

「マスターと別れたくない……でも今は、皆さんとも別れたくありません」

 しばらく沈黙が流れたが、ちはるが亮の方を見ながら言った。

「待ってるから。ぱっつんが帰ってくるの、待ってるから!」

「ちはるさん……」

 赤井も、ちはると同じように言った。

「そうですよ!ずっと待っているから、仕事頑張ってください!」

「赤井さん……ありがとう」

 馬場は亮をいたわるように、亮の背中を優しくたたいた。

 若菜は、すねるように言った。

「私とシロちゃんの卒業パーティだったのに、北神さんの送別会になっちゃった。北神さんに、美味しいとこもってかれちゃった!」

「若菜ちゃん、二次会はふたりでお祝いしよう」 赤井の言葉に若菜は、真っ赤になった。

「北神さん。北神さんは、私の憧れなんです。海外に行っても、頑張ってください。そしてまた、此処に帰って来てください」

 流花の言葉に、亮は不思議顔になった。

「私が……憧れ?」

「はい。仕事ができる亮さんに、憧れています。だから、上を目指してほしいです」

 ちはると馬場は、若菜と赤井を冷やかし。

 若菜は真っ赤になって抗議して、赤井は終始笑顔でいた。

 亮は流花を、真っ直ぐみつめて言った。

「白田さん……ありがとう。白田さん……昼間は、酷いことを言って、ごめんなさい」

 流花は笑顔でゆっくり首を横に振り、亮はやっと笑顔になった。

 ずっと皆を見守っていたマスターは、静かに微笑んでカウンターに戻って行ったのだった。


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