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DANDY〜笑顔〜  作者: kagari
16/18

タイトル未定2025/11/22 23:35

 若菜は、携帯の画面をながめていた。

 画面には、流花とやり取りした文章が書かれている。

 その内容は、「一緒に、バレンタインのチョコを作ろう」と、流花を誘った文章だが、流花は用事があって行けないとのことだった。

「つまんないな~」

 若菜は思わず声に出して、つぶやいた。

 広い台所では、若菜独りきりだった。

 父親も母親も不在だった。

 高校生活もあとわずか。

 学校に行くのも、数えるほどだ。

 後は、卒業を待つばかり。

 ……シロちゃんがいたら、チョコ作りも楽しいのにな……。

 そう思いながら、若菜はチョコ作りを始めた。



 広い台所で、若菜が独りでバレンタインのチョコ作りをしていた頃、流花は指定された繁華街の大手デパートの前に立っていた。

 昼間なのに、頬をなでる風は冷たくて、思わず流花は首をすぼめた。

「白田さん!」

 自分を呼ぶ声に、流花は顔を上げた。

 ニット帽をかぶり、マフラーで顔を半分覆っていたマスターと、七海の横には小柄な婦人がいた。 

 流花の側に行ったマスターは、婦人を流花に紹介した。

「店で料理を作っている、たきさんです」

「初めまして」

 流花は頭を下げた。顔を上げると、笑顔のたきこがいた。

 その笑顔は、とても六十代には見えなかった。

「白田……」

 流花が自分の名前を、名乗ろうとした時だった。たきこは、素早く言った。

「流花さんね」

「はい」

「ツインテールの可愛い子……」

「スイ?」

「そうそう、スイちゃんと一緒にいた。白田さん、大人っぽいわね。とても、高校生に見えないわ」

 たきこの言葉に、流花は照れ笑いをした。

「流花ちゃんって、呼んでも良いかしら?」

「もちろんです!」

「私のことは、たきさんって、呼んでね」

「はい」

「さぁさぁ、顔合わせはそのくらいにして。早く中に、入りませんか?」

 ダウンのポケットに手を突っ込んで、足踏みをしているマスターが言った。

「すみません」

 笑いながらたきこが言うと、マスターはデパートの中に入って行き、その後を追うように、流花とたきこは歩き出した。



 流花がbar「ジェシカ」でバイトをするため、マスターはバイトをする時の服を買いに、流花とたきこの三人で、デパートに来たのだった。

 たきこをつきあわせたのは、これから一緒に仕事をする仲間だったから……と言うのは建前で、実際のところ、女性服のことはよくわからないので、たきこを買い物に誘ったのだった。

 スーツが売られている店舗に着くと、たきこは早速服を選び始めた。

 どんな服装にするか、事前にマスターと話し合っていたので、服の方はあっさりと決まった。

 後は、流花が着せ替え人形のように、試着室に行って服に着替えた。

 試着室の前でマスターとたきこが立っていると、流花が試着室のカーテンを少しだけ開けて顔をのぞかせた。

「マスター」

 流花の声に、マスターとたきこは振り返った。

 流花は、カーテンを開けた。

 そこには白い襟のついた長袖のブラウスに、黒いベストと黒いパンツを履いた流花がいた。

 たきこは思わず、ため息をもらした。

「モデルさんみたい!凄く似合っているわ」

 流花は、恥ずかしそうにうつむいた。

「たきさん、これで良いですか?」

 マスターの言葉に、たきこは太鼓判を押した。

「これなら、すぐにでも仕事ができそうだわ」

 マスターはベスト二枚と、ブラウス二枚、パンツ二枚を購入した。

 レジに行くと、マスターはカードで精算していた。

 カードで支払いするマスターに、流花は疑問を感じた。

 週末にしか営業をしないbarに、そんなに儲けがあるとは思えない。

 しかしマスターは、カードで支払いをしている。

 いったいこれは、どう言うことなのか。

 洋服の買い物が済むと、次は靴屋に行って、黒のローファーを購入した。

 ちょうど、卒業入学シーズンだった為、ローファーはたくさん並べられていて、あっさりと購入することができた。

 ローファーを購入する時、マスターはカードではなく、現金で購入していた。

 靴屋を出た頃には、既にお昼近かった。

 用事があると言うことで、たきこはいなくなった。

 マスターと流花の二人きりになり、ふたりの間に沈黙が流れた。

その沈黙を、マスターが破った。

「白田さん」

「はい」

「この後、何か予定はありますか?」

「いえ、別に」

「良かったら、ボクのマンションに来ませんか?」

「マスターの?」

「ボクの実家で、昔から住み込みで働いている家政婦が、昼ご飯を作って待っています。今日のことを話したら、是非白田さんに会ってみたいと言いだして」

「家政婦さんが、いるんですか?」

「ボクが生まれる前から働いている方で、まちこさんです。おまちさんって、呼んでいます」

「でも、私が行って、良いのかな?」

「是非、来てください!でないと、ボクがおまちさんに叱られます」

 流花は思わず、吹きだしてしまった。

 そんな流花を見たマスターは、ムキになって言った。

「本当ですよ!本当に、叱られるんですから!」

「……わかりました」

 笑いながら言う流花に、マスターはホッと胸を撫で下ろしたのだった。


 マンションに入り、エレベーターに乗ってマスターの部屋に行く。

 流花は、マンションに行くまでの道中、マスターから聞いた言葉を思い出していた。

 まちこはマスターの家で、マスターが生まれる前から、住み込みの家政婦として働いていた。

 現在まちこは、マスターの父親の世話をしながら、実家を出て大門と二人で暮らすマスターの世話もしている。

 流花は、もっとマスターのことを聞きたかったが、マスターはそれ以上のことは教えてくれなかった。

「白田さん、着きましたよ」

 その声で、流花は我に返った。

 マスターの後に続き部屋に入ると、目の前には長い廊下があった。

 奥のリビング兼キッチンから、年長児の男の子大門が走ってやってきた。

「七海、お帰り~」

 マスターのことを、呼び捨てにする大門に、流花は驚き顔になった。

 しかしマスターは当たり前のように「ただいま」と言った。

リビングの中にあるキッチンから、美味しそうな香りが漂っている。

「お姉ちゃん、こんにちは!」

 既にマスターから流花のことを聞いていたのか、大門は元気よく挨拶をしてきた。

 流花はしゃがみこんで、大門の目線に合わせた。

「初めまして、白田流花です。よろしくね大門君」

「るか……流花お姉ちゃん!!」

 大門は嬉しそうに、流花の名前を呼んだ。 立ち上がった流花は、マスターの方を向いた。

「流花お姉ちゃんだなんて、照れるな」

「白田さんが来るのを、大門は楽しみにしていたんですよ。なぁ、大門」

「うん!」

 大門は、大きく頷いた。

 その時、キッチンから痩せ細った婦人が出てきた。

「お待ちしていました。白田さん」

 流花は、婦人の方を向いた。

「家政婦の、おまちさんです」

 マスターがまちのことを紹介すると、流花は自分のことを名乗った。

「お噂は、坊ちゃんとたきちゃんから聞いていました。今日は、会えるのを楽しみにしていたのよ」

「たきさんと、お知り合いなんですか?」

「知り合いも何も、たきちゃんは女学校時代の後輩なのよ」

マスターは、後をつぐように言った。

「おまちさんに、たきさんを紹介してもらい。店の料理を、作ってもらっているんだ」

「そうだったんですか」

「たきちゃんは、料理が得意で。定年まで、イタリアレストランで働いていたのよ。坊ちゃんの監視も兼ねて、たきちゃんを紹介したのよ」

 まちこの言葉に、マスターは苦笑するのだった。

「さぁさ、お話の続きは、食事をしながらしましょう」

 まちこがそう言って、大門をテーブル席に座らせた。

 マスターは、テーブルを挟んだ大門の向かいに座った。

 キッチンに入って行くまちこに、流花は言った。

「あの、何か手伝うことありますか?」

 少し目を見開いたまま、まちこは流花をみつめた。

「……そうねぇ。じゃあ、流しの上にグラスを四つ用意したから、それをテーブルに運んでね。冷蔵庫にビールとオレンジジュースがあるから、坊ちゃんにはビールを、白田さんと大門君と私にはオレンジジュースをグラスに注いでくださいな」

 そう言ったまちこはキッチンに入り、大きな手袋をはめた。

 マスターが慌てて、声をあげた。

「ちょっと、おまちさん!!」

「マスターいいの!」

 流花は慌ててマスターをさえぎり、急ぎ足でキッチンの中に入って行った。

 キッチンの中に入って行くと、まちこに言われた通りグラスをテーブルに運び、冷蔵庫からビールとオレンジジュースを出すと、それぞれのグラスに注いだ。

「白田さんすみません」

 恐縮するマスターに、流花は黙ったまま笑顔で首を横に振った。

 空になったオレンジジュースの瓶を、キッチンに持って行った流花は、マスターの隣に座った。

 それと同時に、まちこが焼きあがったピザを運んできた。

「白田さん、ありがとう。お待たせしました。たきちゃん直伝のピザよ!」

 ピザは二つあり、サラミと玉ねぎとチーズのシンプルなピザだった。

 もうひとつのピザは、同じ具材に生ハムが乗っていた。

 ふたつのピザは、食べやすいように既に切り分けられていた。

 早速、ピザを食べ始めた。

「白田さん、ピザでよかったかしら?」

 心配そうに、まちこが流花に聞いてきた。

「ピザ、大好きです。とっても、美味しいです!」

「そう、良かった!遠慮しないで、たくさん食べてね」

「ありがとうございます……あの」

「なあに?」

「白田さんじゃなくて、名前で呼んで下さい」

「良いの?」

「はい。他人行儀みたいで、落ち着かなくて」

「じゃあ、流花ちゃんって、呼ぶわね。私のことは、おまちさんで良いからね」

「はい、おまちさん」

「ありがとう、流花ちゃん」

 流花とおまちは、昔からの知り合いのように笑い合った。

「大門君、汚れちゃったね」

 流花はテーブルの上に置いてあったティッシュを何枚か掴むと、手を伸ばして大門の口元を拭った。

「流花お姉ちゃん、ありがとう!」

 大門は嬉しそうに言った。



 ピザを食べ終え、しばらく大門の相手をした流花は、マスターと一緒にマンションを後にした。

 リビングでは、大門が落書き帳に絵を描いていた。

 落書き帳をのぞき込んだまちこは、大門に聞いた。

「大門君、何を描いているの?」

「流花お姉ちゃん!」

「そう……大門君は、流花お姉ちゃん好き?」

「うん、大好き!!流花お姉ちゃん、また来ないかなぁ」

「そうね。また、皆でご飯を食べたいね」

 ふと、絵を描いていた大門の手が止まった。

「どうしたの?」

「七海は、お姉ちゃんのこと好きかなぁ?」

「う~ん、どうかな?坊ちゃんが、流花ちゃんのこと好きだと、大門君は嬉しい?」

「うん!嬉しい!」

 大門は、また絵を描き始めた。



 流花と一緒にマンションを出て、バス停まで流花を見送るマスターは、手伝わせたことを謝った。

「白田さん、手伝わせて、すみませんでした」

「ううん、良いんです。それに、もうじきマスターの店でバイトをするんだから、ちょっとした予行練習になったかな?」

「そのことに関して、ボクは全く不安を感じていません」

 バス停に着き、時刻表を見ると、バスが来るまで三十分あった。

「バスが来るまで、一緒に待っていますよ」

「でも、大門君が……」

「おまちさんがいるから、大丈夫です」

 そう言ったマスターは、バス停のベンチに腰を下ろした。

 流花も七海と同じように、ベンチに腰を下ろした。

「おまちさんが作ったピザ、美味しかったです」

「おまちさんに、伝えておきます。きっと、喜びます」

「マスター」

「ん?」

「私、ずっと考えていたんです」

「何をですか?」

「マスターと大門君の間柄を」

「それで、どんな間柄ですか?」

「大門君は、遠い親戚の子で、何か事情があってマスターが引き取った」

「大門は、親戚の子ではありません」

「はずれ?」

「ですね」

「マスターはバツイチで、大門君をマスターが引き取った」

「ボクは、バツイチではありません。一度も結婚をしていません」

「またまた、はずれ?」

「ですね」

「マスターが住んでいる部屋の前に、大門君が捨てられていて、それでマスターが大門君を育てている」

 流花の言葉に、マスターは大きな声で笑った。

「凄い想像力ですね!!」

「けっこう、真剣に考えたんだけどな。これも、はずれ?」

「ですね」

「ふたつの指輪の意味もわからないし、マスターは謎の人です」

「降参ですか?」

「マスター、楽しんでいませんか?」

「楽しいですよ。白田さんは、楽しくないですか?」

「大門君との間柄を、教えてください」

 流花がそう言った時、流花が乗るバスが見えてきた。

 マスターは、黙ったままバスをみつめていた。

流花はつぶやくように言った。

「私のこと、名前で呼んでほしいです」

「白田さんのことを、名前で?」

「はい」

 マスターは流花を、じっとみつめた。

 バスがすぐそこまでやって来て、流花は反射的に立ち上がった。

 バスはウインカーを点滅させ、ゆっくりスピードを下げ、バス停に寄って来た。

「……流花って、呼んでも良いですか?」

 突然のマスターの言葉に、流花は目を見開いてマスターをみつめた。

「はい!」

 笑顔で返事をした流花に、マスターはやさしく微笑んだ。


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