タイトル未定2025/11/22 21:11
午前中で授業が終わり、大半の生徒たちは教室を出て行ったが、教室にはまだ数人の生徒がいて、教室の中はざわついていた。
しかし若菜と流花のまわりは、静けさが漂っていた。
若菜と流花は机を挟んで、お互いをみつめあっていた。
沈黙を破ったのは、若菜だった。
「何……それ……マスターが私にシロちゃんの携帯番号を聞いたのは、シロちゃんに店を手伝ってほしいからなの?」
「うん」
「ずるい!」
「ずるいって!」
「だって、店を手伝うってことは、ずっとマスターの側にいるってことでしょ」
「そう……だけど」
「あぁ、良いなぁ」
「バイトとはいえ、仕事だよ。緊張するなぁ」
「シロちゃんって、ホント責任感強いなぁ。マスターに会える~ってノリで、バイトすれば良いじゃん」
「そんな気持ちで、仕事なんてできないよ」
「相変わらず、真面目だなぁ」
「いい加減な気持ちで、やりたくないだけ」
「そう言うのを、真面目って言うんだよ。……あのね、シロちゃん」
「ん?」
「なんでもない!帰ろっか」
「うん」
教室を出た若菜と流花は、肩を並べて廊下を歩いた。歩きながら、流花は思い出したように、若菜に聞いてきた。
「スイさぁ、さっき何か言おうとしたよね?」
「あぁ、なんでもない」
「そう?」
赤井とつきあうことを、流花に打ち明けようとした若菜だったが、遂に言うことができなかった。
同じように流花も、マスターと暮らしている大門は、『施設に預けられそうになったところを、マスターが引き取った』と言うことを、若菜には黙っていた。
若菜と流花は、お互い隠し事はしないと決めたが、いくら親友でも言いにくいことはある。
帰り道流花と別れた若菜は、繁華街の大手デパートの中にいた。
二月の始めとあってデパートの中は、本格的にバレンタインのチョコで賑わっていた。
ほのかに甘い香りが漂う中を、若菜はゆっくり歩いた。
目の前には、可愛いチョコから本格的なチョコが、ディスプレイされていた。
小さなため息と共にチョコを眺めると、チョコの手作りコーナーを見つけた若菜は、思わず足を止めた。
……手作りかぁ。作ったら、赤井さん喜ぶかな?……。
「スイじゃん!」
その声で、若菜の思考が止まった。振り向くと、片手に大きなバッグを下げたちはると馬場がいた。
「ちはるさん、馬場さん」
若菜に近寄ったちはるが、聞いてきた。
「学校の帰り?」
「はい。ちはるさんたちは?」
「営業よ」
「大変ですね」
「仕事は大変だけど、この甘いチョコに癒されるんだよなぁ」
「あぁ、なんかわかる気がする!」
「チョコ、赤井に渡すの?」
「そのつもりだけど……」
「だけど?」
「マスターにも、チョコを渡したい。そう言うのって、赤井さんに失礼ですよね」
「な~に言ってんの!マスターにチョコを渡したいなら、渡せば良いじゃん」
「でも……」
言葉を濁す若菜に、馬場が言った。
「マスターを好きな若菜ちゃんを、赤井は好きになったんだ。マスターにチョコを渡したくらいで、赤井は若菜ちゃんを軽蔑したりしないよ」
「そう……かな」
「そんなに、深く考えこまなくても良いじゃん!バレンタインって言うイベントを、楽しもうよ!」
明るく笑い、自分を励ます馬場を見た若菜は、少しだけ笑顔になった。




