タイトル未定2025/11/22 21:06
日曜日の朝、流花は自分の部屋に掃除機をかけていた。
布団を干すと、食事をするテレビがある部屋に移動し、掃除機をかけようとしたら、部屋には流花の母親が畳に寝転がってテレビを見ていた。
「掃除器かけるからどいて!」
流花は掃除機のコードを、コンセントにつけながら言った。
「掃除なんて、しなくても良いじゃない」
「早くどいて!」
冷たく言い放つと、流花は掃除機のスイッチを入れた。低い音と共に、掃除機は動き出した。
母親はテレビを消すと、ゆっくり立ちあがった。
その時携帯の着信音が、微かに聞こえた。
「あれ、流花の携帯じゃない?」
母親の言葉に、流花は掃除機を止めた。
部屋の中は静かになり、流花の部屋から携帯の着信音が鳴るのが、はっきり聞こえた。
流花は急いで自分の部屋に行った。
流花がいなくなると、母親は足で掃除機を部屋の隅に追いやると、再び畳の上に寝転がってテレビを見だした。
部屋に戻った流花は、充電していた携帯のコードを素早く抜くと、携帯の画面を眺めた。
画面には、見知らぬ番号があった。
流花は恐る恐る、携帯の通話ボタンを押した。
「……もしもし」
「白田さんですか?」
「……はい」
「突然すみません。ジェシカのバーテンです」
「えっ、マスター?」
「水田さんから、白田さんの番号を教えてもらいました。勝手なことをして、すみません」
「そうだったんですか!びっくりした」
「あの、白田さんに話があるので、白田さんの都合が良い時に会ってほしいのですが」
「私と?それは、良いけど」
「いつが良いですか?」
「私は、今日でも良いけど」
「じゃあ、十二時ごろどうですか?」
携帯を切った流花は、慌てて部屋を出た。
テレビの部屋では、相変わらず畳の上で母親が寝転がって、テレビを見ていた。
流花は、部屋の隅に置いてあった掃除機を片づけた。
「あれ、掃除しないの?」
母親の言葉を無視して、流花は自分の部屋に入って行った。
繁華街にあるハンバーガーショップを覗くと、マスターはテーブル席でコーヒーを飲みながら、本を読んでいた。
「マスター」
流花の声に、マスターは顔を上げた。
「突然呼び出して、すみません」
流花は黙ったまま、首を横に振った。
それぞれハンバーガーと飲み物を買ったマスターと流花は、テーブル席に落ち着いた。
今日ハンバーガー屋で、落ち合うことを決めたのは流花だった。
ハンバーガー屋なら、自分で買うことができるからだった。
「こんなところで、良かったですか?」
「ボクは、好きですよ」
しばらくの間マスターと流花は、黙ったままハンバーガーを食べた。食べ終わった後、流花は切り出した。
「マスター、話ってなんですか?」
「実は、店を手伝ってほしいんです」
「店?マスターの店を?」
「ボクとたきさんの二人で、店を切り盛りするのが大変になってきたので、白田さんに手伝ってもらえると助かります」
「あの、たきさんって?」
「あっ、たきさんは厨房で料理を作っている方です」
「そうなんだ!」
「お客様の注文を受け、料理を運んだり、お皿を下げたり、会計をしたり、ウェイトレスを白田さんにお願いをしたいです」
「私が……」
「お酒を扱う店ですから、学校を卒業してからで構いません」
「どうして、私なんですか?」
「家庭教師のバイトをしていると聞いた時、是非白田さんにお願いをしたいと思ったんです」
「それで」
「仕事は、週末だけです。ボクの勝手で、休むときもありますし。白田さんの都合が良い時だけでも構いません」
「でも、ウェイトレスなんて、私にできるかしら?」
「お願いします」
頭を下げるマスターに、流花は慌てて言って頭を下げた。
「わかりました。よろしくお願いします」
しばらく向かい合って頭を下げていたマスターと流花は、顔を上げると顔を見合わせ笑い合った。
笑いを収めた流花は、真っ直ぐマスターをみつめた。
「あの、聞いても良いですか?」
「どうぞ」
「マスターは、なんて名前なのですか?」
「[[rb:麻生七海 > あそうななみ]]です」
「七海……さん」
「女みたいな名前で、恥ずかしいんですけど」
「どんな字を書くんですか?」
「七つの海です」
「素敵な字!」
「そうですか?白田さんにそう言ってもらえると、嬉しいな」
思わず照れ笑いをした流花は、さらに質問を続けた。
「マスターに、子供がいましたよね」
「えっ、どうしてそれを!」
「マスターの住んでいるマンションの名前を教えてもらった後、スイとマンションまで行ったんです。その時、マンションから男の子と一緒に出てきたマスターを見たので」
流花の言葉に驚いたマスターは、じっと流花をみつめた。
「……そうだったんですか」
「勝手なことをして、すみません!」
「少しも気が付きませんでした。それなら、声をかけてくれれば良かったのに」
「だって……」
「大門は……あっ、子供の名前です。大門は、施設にあずけられそうになったところを、ボクが引き取ったんです」
「マスターの息子さんじゃ……」
「違いますよ。言ったでしょ、ボクは独身だって」
「じゃあ、大門君って……」
流花がそう言った時、マスターは突然立ち上がった。
「すみません、タバコが吸いたいので、場所をかえても良いですか?」
「あっ、はい」
七海は歩きだし、流花はマスターの広い背中をみつめながら歩いた。




