タイトル未定2025/11/22 20:39
日曜日の午後、繁華街は人々で溢れていた。
待ち合わせ場所で有名な場所で、赤井は既に若菜を待っていた。
真っ赤なコートを着た若菜は、小走りに赤井の側に駆け寄った。
「遅れてごめんなさい!」
若菜はぺこりと頭を下げた。
長いツインテールの髪が揺れる。
「俺が、早く来すぎたんだよ」
顔を元に戻すと、笑顔の赤井がいた。
「じゃあ、行こうか!」
「はい。あの、何処へ行くんですか?」
赤井は何も答えず歩きだし、若菜は慌てて赤井の隣を歩いた。
赤井が若菜を連れて行った場所は、ショッピングセンター内のゲームコーナーだった。
いろんなゲームがあり、既に大勢の客で賑わっていた。
赤井と若菜は、ユーフォーキャッチャーのコーナーを、練り歩いた。
「若菜ちゃん、好きなキャラとかある?」
「う~ん……あっ、あれ可愛い!」
若菜は、有名なキャラのぬいぐるみを指さした。
「あっ、アレね!任せて!」
幸いゲーム機の前に客はいなく、すぐに遊ぶことができた。
赤井は財布からコインを投入口に入れ、慣れた手つきでレバーを操作した。クレーンがゆっくり動き、若菜のお目当てのぬいぐるみを、簡単に取ることができた。
「はい、若菜ちゃん!」
ゲーム機の備え付のビニール袋にぬいぐるみを入れた赤井は、得意げに若菜に渡した。
「わぁ、ありがとう」
声を上げながら、若菜は受け取った。
赤井は、周囲をきょろきょろ見渡しながら言った。
「次は、そうだなぁ、よ~し。あれ、いってみよう!」
若菜の腕を掴んだ赤井は、目に留まったゲーム機に向かって、歩きだした。
若菜を連れて行ったゲーム機は、大きなお菓子を取るユーフォーキャッチャーだった。
「さすがに、これは無理でしょ」
笑いながら言う若菜をじろりと見た赤井は、無言のままコインを投入口に入れた。
慎重にレバーを動かす赤井を、若菜は息を飲んでじっくりみつめた。
少し危ないところもあったが、お目当てのお菓子を取ることができた。
赤井は、立て続けにもうひとつお菓子を取った。
「若菜ちゃんは、ゲームやったりしないの?」
「たまにやったりするけど、全然ダメ!」
「そっか。あっ、次はアレ!」
赤井は若菜の腕を持ちながら、レーシーングカーのゲームコーナーに行った。
「負けた人が、今夜の夕飯おごりね!」
「え~!」
赤井は素早く座席に座り、渋々ながら若菜も隣の座席に座った。
ゲームコーナーでひとしきり遊んだ若菜と赤井は、同じショッピングセンターの中にある服屋の店舗を見て歩いた。
意外にも赤井はお洒落でファッションセンスがあり、若菜の好みを見抜くと、若菜の服のコーディネートをして若菜の服を選んだ。
赤井が選んだ服に、若菜はすっかり満足して服を一着購入した。
「本当に、この服で良かった?」
不安気に聞く赤井に、若菜は満面の笑みで答えた。
「凄い気に入った!短大の入学式の服を買う時、赤井さんにつきあってもらおうかな?」
「えっ、良いの?」
「もちろん!」
「やったぁ~」
赤井は人目を気にせず、大きな声を張り上げた。
夜になっても繁華街は明るかったが、赤井が若菜を連れて行った場所は薄暗い場所だった。
隠れ家的でレトロ調な家の前に立つと、若菜は赤井に聞いた。
「本当に此処が洋食屋?」
「うん、そうだよ。さぁ、行こう」
赤井は若菜の背中を押しながら、店の中に入って行った。
洋食屋は暖炉が灯っていて、店の中は暖かだった。
数人の客が、声を潜めて談笑していた。
智 (さとし)君、いらっしゃいませ」
「こんばんは」
「可愛い彼女さんですね。智君、隅に置けないなぁ」
店のオーナーは笑いながら言い、メニューを赤井と若菜に手渡した。
「赤井さん、常連さん?」
「この店は、父親の友人の店なんだ」
「それで、こんな素敵なお店を知っていたのね!」
若菜は、ため息交じりに言った。
メニューを見た若菜は、値段に少しひるんだ。
高校生には、荷が重い値段だ。
「あの、赤井さん……」
「えっ?」
「ゲームに負けたから、私がおごるんですよね?」
「あっ、ああ!あんなの、冗談だよ!」
「冗談?」
「ああやって言えば、本気になるでしょ。俺が払うから、遠慮しないで好きなの食べて」
「いえ、自分の分は払います!」
「いいよ、そんなの」
「ダメです!」
「……じゃあさ、俺の誕生日の時、ご馳走してよ。それで良い?」
「……はい」
「俺、大食いだからね。安くて、腹一杯になる店をリサーチしといた方が良いよ」
赤井の言葉に、若菜は思わず笑ってしまった。
「遠慮しないで、好きなの選んでね」
赤井は、メニューを広げながら言ったのだった。
食事が終わり食後のコーヒーを飲んでいると、店のオーナーが若菜と赤井の目の前にムースを差し出した。
「サービスです。どうぞ」
「ありがとうございます!」
若菜と赤井は、揃ってお礼を言った。
ムースは、小ぶりながらもしっかりした味だった。
「美味しい!」
若菜は思わず声を上げた。
そんな若菜を見た赤井はそっと微笑み、若菜に切り出した。
「若菜ちゃんを初めて見た時可愛いなぁ、こんな可愛い子が彼女だったらなぁって、思ったんだ」
若菜はスプーンを手にしたまま、赤井をみつめた。
「若菜ちゃんが、マスターを好きなことは知っている。でも、諦めきれないんだ。マスターが好きでも良いよ。今日みたいに、また会ってほしい」
若菜は、持っていたスプーンをゆっくり置いた。
「マスターは私の気持ちを知っているのに、いつも微笑むだけ。昨日北神さんとマスターの店に行ったんだけど、そこに常連客の女二人がいて、マスターは女性客の会話に合わせていた。私の扱いと同じだった。どんなにマスターを想っていても、マスターには届かない。凄く自分が惨めに思えた」
「マスターを、諦める?」
「……わからない」
そう言った若菜に、笑顔はなかった。
店を出るとオーナーが若菜と赤井を見送ってくれた。
赤井は振り返ると、オーナーに言った。
「美味しかったです」
「智君、また来てください。お父さんによろしく」
「はい」
「ごちそうさま、おやすみなさい」
若菜は、頭を下げながら言った。
黙り込んだまま歩いていた若菜は、そっと切り出した。
「今日は、楽しかった」
「本当に?」
赤井は、嬉しそうに言った。
「こんなに楽しい日曜日を過ごしたのは初めて!」
「俺も楽しかったよ」
「マスターとは、こんなに楽しく過ごせないと思う」
「また、誘っても良い?」
「もちろん!」
赤井は思わず、ガッツポーズをした。
「でも、まだマスターのことが忘れられない。こんな私でも良いの?」
「マスターのこと、好きでも良いよ。俺は、若菜ちゃんが好きなんだから!若菜ちゃん……」
赤井は不意に立ち止まり、若菜は赤井を見上げた。若菜の肩にそっと触れた赤井は、若菜の額にそっとキスをした。




