タイトル未定2025/11/21 21:01
カウンター席にいた男性客が、精算をして店を出て行った。
店の中は、ちはると馬場のふたりだけになった。
マスターが厨房に入って行くと、厨房はサンプルのチョコの甘い香りがしていた。
「マスター、よくできていますよ!」
言いながら料理人のたきこが、サンプルのチョコをマスターに差し出した。
マスターはサンプルのチョコをつまんだ。
「よく研究されていますね。これなら、店でも出したいです。後は、チョコのデザインですね。お洒落なチョコなら、女性にも受けますね」
サンプルのチョコと言うことで、ただの黒い塊だった。
「ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます」
亮は礼を言った。
「たきさん、オーダーお願いします」
マスターはメニューをたきこに見せ、料理名を指さした。
「かしこまりました」
たきこは、冷蔵庫に向かった。
マスターは亮と若菜に言った。
「お疲れ様でした。ゆっくりしていってください」
「私も良いの?」
驚き顔で、若菜が言った。
「北神さんもいるし、十時まで良いですよ」
「やったぁ!」
若菜は笑顔で声をあげた。
亮が厨房を出て行くと、若菜はマスターを振り返った。
「あの……」
「ん?」
久しぶりに見るマスターのやさしい表情に、いつになく若菜は舞い上がっていた。
「あの……パパ……父からのお土産、迷惑でしたよね?すみません」
「いえ、そんなことないですよ」
笑顔で言うマスターを、若菜はじっとみつめた。
先に厨房を出た亮は、カウンター席に座っていた。
少し遅れて、若菜は亮の隣に座った。
若菜がカウンター席に座った頃、マスターはカウンターの中に入った。
亮と若菜はマスターからメニューをもらい、カクテルとオレンジジュースと料理をオーダーした。
マスターが厨房に入って行くと、若菜は亮に切り出した。
「料理人のたきさん、初めて見たわね」
「私も、初めてです」
「知人の紹介」
「そう言って、いましたね」
「知人って、どんな人なんだろ?」
「さぁ……親類とか近所の方とか?」
「本当に、謎の人よね!」
若菜がため息交じりに言うと、若菜の背後からちはるの声がした。
「ねぇ、料理人ってどんな人だった?」
言いながらちはるは、若菜の隣に座った。馬場は、亮の隣に座った。
「どんなって、六十代くらいの小柄で華奢な人だったよ」
若菜の言葉に、ちはるは吹きだした。
「誰よ、料理人がマスターの彼女だ、奥さんだって言ったのは!」
「俺だよ!」
馬場は、ふてくされて言った。
「たきさんが、マスターの彼女?奥さん?そんなわけないじゃん!」
若菜は、笑いながら言った。
「でも、もしかしたら……」
尚も引き下がらない馬場に、ちはると若菜は笑い続けた。
厨房から戻って来たマスターはカクテルを手際よく作り、オレンジジュースを出した。
「マスター、席こっちに移動したから!」
「はい」
マスターは、ちはるたちがいたテーブル席の片づけを始めた。
「ぱっつんは、何か成果あった?」
「成果?」
ちはるの問いが、亮にはわからなかった。
「ボケ?マスターとの成果に、決まっているじゃない!」
「マスターの心の鍵は、硬いです」
亮の代わりに、若菜が答えた。
「やっぱりね」
ちはるは、軽いため息をついた。
「女がいるから、硬いんだよマスターは」
「まだ、言っているよ!」
馬場の悪態にちはるは、ぴしゃりと言った。
……子供がいるから、マスターは何も行動しないんだわ……。
マスターと一緒にいた子供を、偶然流花と見てしまった若菜は、胸の中でそうつぶやいた。
「お待たせしました」
マスターが厨房から亮と若菜の料理を運んできて、亮と若菜はちはると馬場と話をしながら料理を食べた。マスターはカウンターの隅でグラスを磨いていた。
店の入り口のドアについている鐘が鳴り、客が入って来た。
ちはると若菜は、何気なくそっと振り返った。客は、二十代前半の女性二人組だった。
女性客はきちんと化粧をして、綺麗に着飾っていた。
グラスを磨いているマスターの前のカウンター席に座ったとたん、甘えるように言った。。
「マスター会いたかった~」
「私も~」
「お待ちしていましたよ」
グラスを磨きながらマスターが言うと、女性たちはキャーキャー歓声を上げ、カクテルをオーダーした。
カクテル作りの準備をしているマスターに、女性たちは話しかけてきた。
「マスター。店が終わったら、遊びに行こう!」
マスターは黙ったまま、カクテルを作りだした。
目の前でシェイカーを振る姿を、女性客はうっとりみつめていた。
やがてカクテルが出来上がり、マスターはカクテルを差し出した。
「お待たせしました」
女性客たちは、カクテルを飲みながら切り出した。
「ねぇ、マスター遊びに行こうよ!」
「何処に、遊びに行くんですか?」
「知ってるくせに~遅い時間に行くとこって言ったら、ひとつしかないでしょ」
「う~ん……一晩に二人は、体がもちませんね」
「じゃあさ、一人ずつだったら良いの?」
「試してみますか?」
マスターは、ニヤリとした。
「も~マスターのエッチぃ~」
女性たちは、嬉しそうに声を上げた。
亮たちは、信じられない光景を目の当たりにしたと言うように、マスターたちのやりとりを眺めていた。
「若菜さん、そろそろ時間です。行きましょう」
亮の声に、若菜は我に返った。
「おい、俺たちもそろそろ行こうか」
馬場の声に、ちはるは顔を上げた。




