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エピソード3

轟音とともに、巨大なモンスターが突進してきた。

その巨体が空気を裂き、洞窟の闇を揺るがす。

楓は反射的に横へ飛び退き、岩の裂け目へと転がり込んだ。


「うわっ……っ! あっぶない……!」


背後を振り返れば、さっきまで立っていた場所が、モンスターの爪によって抉り取られていた。

石床が粉々に砕け、土砂が舞い上がる。


「ーーやっぱ……冗談じゃない……! 真正面からやったら、一撃で終わりだ……!」


震える喉を叱咤しながら、楓は両手を前に突き出す。

体の奥から毒を呼び起こすと、指先から黒紫色の液体が滴り落ち、石をじわじわと溶かしていった。


「これしか……俺には武器がないんだ……!」


一歩、二歩と後退しながら、毒を地面に撒く。

湿った音とともに、石床が煙を上げた。

モンスターが足を踏み入れれば、その肉を蝕むはず。


しかし。


「……避けた!? 嘘だろ……!」


モンスターは巨体に似合わぬ素早さで横へ飛び、毒の範囲を外れる。

そのまま壁を蹴り、反動で楓に襲いかかる。


「く、くそっ……!」


咄嗟にもう一度毒を生み出す。

今度は霧状に散らし、前方へ吐き出した。


「くらえぇっ!」


紫の霧がモンスターの顔にまとわりつく。

次の瞬間、耳をつんざくような咆哮が洞窟に響いた。

モンスターは頭を振り、暴れる。


「ーー効いてる、効いてるぞ!」


楓の胸に希望の灯がともる。

だが、同時に自分の喉を焼くような痛みが走った。


「が……っ! げほっ……! ごほっ……!」


口の中に鉄の味が広がる。

肺が灼け、視界が赤黒く揺れた。

自分の毒を扱うたび、その毒が体の内側まで蝕んでくる。


「……くそ……! こっちも削れてるじゃないか……!」


それでも止められない。

止めれば即死。

動かなければ、飲み込まれる。


「来いよ……! 俺はまだ立ってるぞ!」


血を吐きながら叫んだ。

声が震えているのに、それでも必死に強がる。

モンスターはその挑発に応じるように、再び楓へ突進した。


毒の霧を突破し、赤い眼光が迫る。

牙が光り、爪が振り下ろされる。


「やば……っ!」


避けきれず、楓の肩に爪がかすった。

肉が裂け、熱い血が飛び散る。


「ーーぐああああああっ!」


絶叫とともに、楓は壁際まで吹き飛ばされた。

背中を打ちつけ、肺から空気が強制的に吐き出される。


「ーーはぁ……っ、はぁ……っ……くそ……強すぎるだろ……!」


視界が揺れる。

立ち上がる足が震える。


だが、恐怖の奥に、逆に燃え上がるものがあった。


「ーーでも……俺は諦めない……!」


楓の掌から黒紫の毒霧が立ち上るたび、体の奥で鈍い痛みが走った。

最初は腕の筋肉を刺すような感覚だった。だが、毒を濃く、遠くまで飛ばすたびに、その痛みは全身に波及していく。


「ーーぐ……っ……!」


息が引っかかる。胸が締めつけられ、肺の奥が灼けるようだ。

足元にしゃがみ込み、息を整えようとするが、吐き気が喉を逆流する。


「ーーくそ……まだ、まだやれるはず……」


自分に言い聞かせるも、体が言うことをきかない。

指先に残る毒の痺れが、肩まで伝わり、肩甲骨がひりつく。

膝の力も抜け、床に手をつかないと立てない。


視界が揺れ、岩の輪郭が二重に見える。


「ーーっ……立て……立てよ俺……!」


意識が薄れかける中で、楓は壁に手をつき、体を支える。

毒の霧を再び凝縮する。全身の痛みが増し、指先から胸まで熱く焼けるようだ。


「ーーくっ……あああ……!」


頭が割れそうに痛む。視界に血が滲み、耳鳴りが洞窟全体を支配する。

心臓の鼓動が胸を破りそうに響き、呼吸が浅くなる。

吐き気が頂点に達し、思わず膝をつき、口から泡を吐いた。


「ーーっ……でも……止まったら……死ぬ……!」


意識が揺れる。倒れ込めば、巨大モンスターに踏み潰されるのは確実だ。

しかし、動けば毒が体を焼く。

筋肉の奥に鋭い痛みが走り、肋骨の下で熱が渦巻く。


「ーーくっ……くそっ……なんで……体が…………!」


地面に膝をつき、壁に寄りかかる。

息を整えようとするも、体内の毒が血管を駆け巡り、全身がひりつく。

手の震えは止まらず、毒を凝縮するのも一苦労だ。


「ーーまだ、あと少し……! 耐えろ……俺……!」


吐き気に顔を歪めながら、楓は意識を無理やり集中させる。

頭の奥で、身体の各部が悲鳴をあげる。


肩、腕、胸、腹、足。

全身の筋肉が焼け、神経が炎のように疼く。


「ーーう……っ……あああ……!」


呻きながらも、楓は毒を再び掌に凝縮する。

毒の霧が広がると、全身に反動が跳ね返る。

一歩を踏み出すたび、膝が笑い、足がもつれる。


「ーーあああ…………!」


吐き気が頂点に達し、岩壁に手をつきながら、楓は必死で耐える。

視界に黒い輪が広がり、頭の中が断片的に切れる。


「……?」


楓は自分の体に起こる変化を感じる。

焼けるような痛みがわずかに和らぎ、吐き気も少し収まった。

それでも全身は限界に近く、血まみれのまま膝をつき、息を整える。


――《毒耐性・小から毒耐性・中へ進化しました》


「……えっ……?」


だが、それでも体はまだ焼けるように痛む。

膝をついたまま、楓は何度も息を吐き、呻いた。


「ーーくそっ……まだ完全じゃないのか……!」


立ち上がろうとしたが、膝に力が入らず、背中を壁に押し付けてなんとか体を支える。

毒を凝縮する手が震え、霧が偏ってしまう。

それでも、楓は息を止め、体の奥に炎のように広がる毒を掌に集めた。


「ーー行け……行け楓……! 生き延びるんだ……!」


毒霧を前方に放つと、モンスターの脚がかすめ、わずかに動きを止める。

だが、その反動で体中の筋肉が焼け、頭がガンガンと痛む。

膝をつき、壁に額を押し付けながら呻く。


「ーーうぅっ……くそ……痛い……でも……止まれない……!」


息を整えながら、再び毒を手に凝縮する。

心臓は破れそうに脈打ち、血管がビリビリと痺れる。

手を伸ばすたびに胸の奥が締め付けられ、吐き気が喉を逆流する。


「ーーまだ……まだ……やれる……!」


毒を霧状にしてモンスターに吹きかける。

影が揺れ、赤い眼が一瞬焦点を失う。

その瞬間、楓は床に倒れ込み、息を荒く吐く。


「ーーっ……くそっ……! 体が……言うことを……きかない……!」


吐き気と痛みに全身をよじりながらも、楓は再び立ち上がる。

全身の筋肉が焼けるように痛み、肩から腕にかけて針で刺すような感覚が走る。

だが、目の前のモンスターは容赦なく迫る。


「ーー逃げてる場合じゃない……っ!」


再び毒を凝縮する。

今度は肺と肋骨の奥まで熱が走り、呼吸するだけで胸が痛む。

それでも楓は拳を握りしめ、全身の力を振り絞った。


「ーーこれで……どうだ……!」


毒霧を全力で放つと、モンスターの脚が崩れ、尻尾が鈍く岩に叩きつけられた。

しかし、その反動で楓の体は壁に叩きつけられ、膝から血が滴る。

全身が燃えるように痛み、呼吸は荒く、意識が遠のきかける。


「ーーう、あ……ぐっ……」


吐き気に顔を歪め、壁に額を押し付ける。

血の味が口内に広がり、視界が赤黒く揺れる。

それでも楓は呻きながら毒を凝縮する。


――指先に力を集めるたび、体が悲鳴を上げ、意識が揺れる。

しかし、耐性の効果もあってか、以前よりはわずかに痛みが和らいでいる。


「ーーよし……まだ……いける……!」


毒霧を再びモンスターに叩きつける。

赤い眼が焦点を失い、脚が滑る。

楓はその隙に転がり、壁に背を預けながら膝をつく。

全身の痛みは極限だ。吐き気、筋肉痛、内臓の焼けるような痛み……。


「ーーくそっ……こんなに痛いのに……それでも……やめられない……!」


意識が遠のき、頭が揺れる。

それでも楓の瞳はモンスターを捉え続けた。

限界を超えた痛みによって、理性と本能が交錯する。

生きるために、戦わなければならない――それだけが楓を支えていた。


「ーー終わらせる……っ……俺は……まだ……終わらせるぞ……!」


再び毒を凝縮し、掌から全力で霧を放つ。

体は痛みで震え、膝が笑い、吐き気で前後に揺れる。

しかし、目の前の巨体がわずかに動きを止めた瞬間、楓の体に一瞬の希望が灯った。


「ーーーよし……!」


苦痛の中で、楓は再び立ち上がる。

全身の筋肉が悲鳴を上げ、肺が焼け、意識が揺れる。

それでも、毒の反動を耐えつつ、巨体に立ち向かう覚悟を固めた。


毒耐性・中になったとはいえ、体中の筋肉は痛みに悲鳴を上げ、肋骨や肺の奥まで灼けるような感覚が残っている。

吐き気はまだ収まらず、膝はわずかに震える。


「ーーここまでか……いや……ここからだ……!」


握った拳を再び毒に染め、掌から黒紫の霧を立ち上らせる。

霧は洞窟の暗闇を裂くように広がり、モンスターの巨体を包む。

赤い瞳が、わずかに焦点を失い、動きが鈍ったのを楓は見逃さなかった。


「ーー来い……これが……俺の全力だ……っ!」


毒の霧を脚と頭に集中させる。モンスターが咆哮をあげて暴れるが、楓は膝をつき、痛みに耐えながら距離を取りつつ攻撃を繰り返す。

腕が焼け、肺が痛み、吐き気が襲う。だが、それでも楓の目は決して敵を離さない。


「ーーあと少し……耐えろ……俺の体……!」


毒の霧が巨体を完全に覆い、モンスターの動きはさらに鈍る。

尾の一撃が岩を砕き、瓦礫が飛ぶ。楓は膝をつきながらも、身を翻し回避する。

全身の筋肉が悲鳴を上げるが、毒耐性・中の効果で体の奥の灼熱感がわずかに和らぐ。


「ーーよし……今だ……!」


楓は全力で毒を掌から集中させ、巨大モンスターの頭部めがけて放つ。

黒紫の霧が顔を覆い、皮膚に食い込み、赤い瞳が恐怖に揺れる。

モンスターが一瞬立ち止まり、地響きのような咆哮を上げたその瞬間、楓は全身の力を拳に集め、飛びかかる。


「ーーこれで……終わりだ……っ!」


拳と毒霧が同時にモンスターの頭部を直撃する。

巨体が揺れ、洞窟の壁に叩きつけられ、巨大な咆哮とともに、モンスターは力尽きて倒れ込む。

楓は膝をつき、吐き気と全身の痛みに呻きながら、ゆっくりと立ち上がる。


その時、頭の中に光が走った。


――《経験値が一定に達しました》

――《レベルアップ》


楓は自分の体の変化を感じる。筋肉の痛みが少し和らぎ、体全体の動きが軽くなる。

毒耐性もさらに高まり、呼吸も整いやすくなった。

膝をつき、深く息を吸い込む。体の奥に力が戻ってくるのを実感する。


「やった……か……!」


痛みに耐えながらも、楓は小さく拳を握りしめる。

死闘の果てに得た勝利。

洞窟の闇の中、黒紫の毒霧の香りがまだ残るが、それさえも今の楓には恐ろしくない。


「ーー俺は……まだ、ここで……生きている……!」


吐き気と筋肉痛に苦しみながらも、楓の瞳は鋭く光っていた。

次なる戦いに備えるため、体力と毒耐性の回復を意識し、洞窟内で慎重に息を整える。


全身に残る痛みを感じながら、楓は小さく笑った。


「ーーこれなら……まだ戦える……」


黒紫の毒霧に包まれた洞窟の奥で、楓は立ち上がり、次の一歩を踏み出す。

死闘で得た力、耐え抜いた痛み、そしてレベルアップの実感――すべてが、楓の中で確かな力となっていた。


洞窟の闇の中で、巨体のモンスターの残骸を前に、楓は深く息を吐き、次なる戦いへの決意を新たにする。

毒の力と耐性を体に刻み込み、痛みを力に変え、楓は再び歩き始めた――。

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