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俺は知っている

——俺は、知っている。


異世界に転生するとき、そこには絶世の美女な女神が現れるのだ。


透き通るような金髪、澄んだ瞳、慈愛に満ちた微笑み。


転生者の運命を導くその姿は、神聖にして完璧。まるで絵画の中の存在のような——


(……まあ、実際は“なんかかわいくない女神”だったけどな)


見た目はほぼ完璧。だけど顔が普通。普通すぎて神々しさゼロ。

しかも説明不足、転生先は魔法が衰退した世界、おまけに赤子スタート。


あの時の俺の落胆は、今でも鮮明に思い出せる。


——俺は、知っている。


転生者には、たいていチート級の能力が与えられるのだ。


不死身。時間停止。スキル全習得。

異世界をぶっ壊せるレベルの圧倒的な力。運命を変える覇王の道。


(……実際は、“創作魔法”っていう、想像力頼りの不安定スキルでした)


出せない。創れない。マナ足りない。

ようやく3年かけて塊ひとつ。戦闘向きでもない、便利グッズも作れない。


期待は裏切られる。それが俺の“転生”だった。


——そして、俺は知っている。


物語の中で屋敷に拾われた平民というのは、たいてい……


「嫌味な貴族にいびられ、下働きとしてこき使われ、最終的に“お前ごときが!”って言われるポジション」なのだ。


だから俺は、警戒していた。


この領主の屋敷での生活。

親切な笑顔の裏に、どんなトラップが仕掛けられているかわからない。


——が、現実は少しだけ、予想と違っていた。


屋敷の人たちは、俺を“どこの誰とも知らない子”として扱うことはなかった。

あの使用人の女性も、領主のデュランさんも、そしてその息子ライルも——


(なんか……普通に優しいんだけど)


それが逆に怖い。

異世界あるあるを知り尽くした俺にとっては、善意が一番疑わしい。


(でもまあ……今は、乗るしかない。この波に)


俺は今日も、ふかふかのベッドで目覚め、着替え、屋敷の一日を始める。


ライルとの共同生活は、意外と快適だった。


最初は人懐っこすぎるその態度に警戒もしたが、こっちの様子を気にしながら無理に踏み込んでこないあたり、妙に距離感が絶妙だった。


「お前さ、森でひとりで暮らしてたってマジ? なんでマジで?」


「マジです……」


「すげーな! 俺、一晩でも無理だわ。腹へって死ぬ」


とにかく明るい。声がでかい。顔がちょっと父親似すぎる以外は、特に問題はない。


屋敷の人々も、俺を“特別扱い”はするけど、必要以上に詮索してこない。

その距離感に俺は助かっていた。


そして、数日が経ったある日。


デュランさんが、俺を呼び止めた。


「ノア、お主にも専属の世話係をつけようと思ってな。誰かひとり、好きに選んでくれていいぞ」


(……来た。こういうのも“あるある”だよな)


異世界転生モノにおいて、“専属メイド”というのは重要ポジション。

いわゆるいちゃラブフラグや、忠誠度MAXの戦力候補にもなりうる枠だ。


だからこそ、俺は慎重に——しかし冷静に考えた。


(俺は知っている……!)


(こういうのは、見た目派手で自信満々なタイプは実は裏切るやつで、見た目地味で控えめなどじっ子タイプが最終的に最強でデレるというのを!!)


俺は広間に整列した数人の中から、ひときわ影が薄そうな、背も低く、髪は灰色で下を向いたままの少女に目を留めた。


(……間違いない。この子だ。これは当たり)


「この子がいいです」


「……ノアくん、本当にその子でいいのか? いや、その子はな……別に悪いやつじゃないんだが、その……仕事ぶりがちょっと、こう、まあ、こう、な?」


「この子がいいです(2回目)」


「本当に——」


「この子がいいです(3回目)」


ゴリ押した。確信があった。俺の“転生者の知識”がそう告げていた。


——そしてその結果。


彼女は、見た目通りの働きをしてくれた。


・皿は割れる

・水はこぼす

・ベッドは片付けられない

・「す、すみませんっ……!」を1日10回言う


(……あれ?)


最初の三日は、「まあ、そんなもんよな」と余裕だった。

五日目には、「いつか覚醒するだろう」と励ましモードだった。


一週間後——


(あれ? これ、いちゃラブ系メイドイベントじゃないのか……?)


本来なら毎朝の着替えを手伝われて「きゃっ」とか「はわわっ」とか、「お坊ちゃま〜」的なムーブが始まってもいい頃合い。


だが現実は、タオルを取りに行って戻ってこない彼女を、こっちから探しに行く日々だった。


「ノア様〜……! た、タオルが……ぬ、布の山の下に落ちてしまって……!」


(……これはこれで面白いけど、俺が期待してたやつじゃない)


——そう嘆く日々が続くのだった。



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