突然の宣告と暴走
軟禁されてから二週間。
石の壁、冷たい床、定刻に出される変わり映えのない食事。
それでもノアは、いつか自由になる日を信じていた。
だがその希望は、突然突きつけられた現実によって踏み潰された。
—
「ノア・セラン。謁見の間へ」
低く響く衛兵の声。鋼の籠手が扉を叩く音が、空気を鋭く切り裂いた。
ノアは無言で立ち上がった。足が重い。けれど歩かないわけにはいかない。
—
王城の廊下を歩くたび、視線を感じる。
床に敷かれた赤い絨毯すらも、今日はまるで断頭台へ続く血の道のように思えた。
(何かが、変だ)
胸の奥で、警鐘のような鼓動が鳴っていた。
—
謁見の間。
あの日、王と笑い合った場所。今は空虚な空間に変わっていた。
王座には誰もおらず、かわりに中央に立っていたのは、あの貴族だった。
冷たい目、癖のある白髪、唇の端を吊り上げるような嘲笑。
ノアの記憶に残るあの男だった。
—
男は長々と演説を始めた。国の秩序、治安、威信……
言葉は重く、まるで鎖のようにノアを締め付ける。
音は聞こえていた。けれど、意味が脳に入ってこない。
「よって、ノア・セランを——処刑に処す」
—
瞬間、世界が止まった。
耳鳴りがした。空気が凍りついたような静けさ。
鼓動が、遅れてやってくる。
(処刑……って、今言った?)
—
「すみません、話聞いてなかったんでもう一度お願いします。
なんか僕が処刑される以外、頭に入ってこなくて……」
渾身の冗談を絞り出した。けれど、返ってきたのは容赦ない一言だった。
「そこだけ分かっていればよい」
—
(おいおっさん! なんだその言い草!)
心の中で叫び、次の瞬間には口に出ていた。
「こんな宣告されて平然としてられるか!
泣くぞ!? 俺みたいな、いじらしくて愛されキャラの少年が泣いちゃうんだぞ!?
それでもいいのか!?」
「心があるなら思い直せ! 末代まで祟ってやるぞ! いや……お前が末代かもな!」
—
突如、背後から伸びた手がノアの口を塞いだ。
「ノア、もう黙ってて……!」
振り返ると、そこにはフィーネ。
怒っているようで、何かを必死に堪えているような表情だった。
その手に触れた瞬間、ノアは我に返った。
(……柔らかい、じゃない。今はそんなこと言ってる場合じゃない!)
—
静寂。謁見の間には誰一人として声を発する者はいなかった。
その冷たい空気が、ノアの背をじわじわと凍らせていく。
(ああ……もう、ここには、あの王様はいないんだ)
最後に残ったのは——
「……終わったな」という、吐息のような独白だった。




