魔導観測部構想と姫の声
王城の空が明るみ始めたころ、ノアは王宮の使者に導かれ、再び玉座の間を訪れていた。
玉座の前には、王、王妃、アリシア姫、そして数名の側近と文官が並んでいる。
緊張と期待が入り混じる空気が漂っていた。
「ノア・セラン。そなたに、ひとつ相談がある」
王の低く響く声が場を静めた。
—
「先日、そなたが披露した“創作魔法”によって構築された術式。
その内容は、我が王国の魔法体系の枠を超え、新たな“理”を提示するものであった」
王は一冊の報告書を手に取る。
「この成果を基に、我らは“魔導観測部”という新たな機関を立ち上げるべく、議会に提案したいと考えている。
魔法の再評価と、体系化の研究を目的とした機関だ」
王妃が静かに続けた。
「ですが、このような革新的な構想は、多くの反対意見と不安を伴います。
だからこそ、貴方のような“創造”の担い手の存在が、必要なのです」
—
ノアはゆっくりと息を吸い、言葉を紡いだ。
「俺でよければ、お手伝いさせてください」
王は満足そうに頷いた。
「そなたの一歩が、新たな時代を開く扉となるだろう」
—
謁見が終わり、ノアが一人玉座の間を後にしようとしたとき。
「ノア様……少し、お話しできませんか?」
アリシア姫が、控えめに声をかけてきた。
—
城の中庭。噴水の音が心地よく響く静かな場所。
「……私、嬉しかったんです」
「え?」
「ノア様が、王の提案を“恐れず”受け入れたこと。
あの力が、“人を壊すもの”ではなく、“人を導くもの”として使われるのを、初めて見た気がします」
ノアは照れたように頭をかいたが、その胸の内では、嵐のような感情が渦巻いていた。
(……俺だって、怖いんだよ。何が正解かもわからない。
でも、誰かが始めなきゃいけないんだ。この世界で“魔法”が嫌われたままでいいはずがない。
信じたいんだ。俺がこの力で、誰かを笑顔にできる未来を)
「そんな立派なもんじゃないですよ。ただ、俺は……誰かに笑ってもらえる魔法を作りたかっただけで」
アリシアは優しく微笑む。
「それは、とても素敵な“志”です」
—
しばらく沈黙が続いたあと、アリシアがぽつりと漏らした。
「……私も、何か創れる人になりたいです。
ノア様のように、“未来”を信じて」
(……信じてくれる人がいる。この気持ちだけは、何よりも力になる)
ノアは彼女の真剣な眼差しに、静かに頷いた。
—
その夜。ノアは書斎で小さなノートにこう記した。
《未来の魔法は、人と人を繋ぐ“希望”でありたい》




