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番外編:小林の学園生活記

王都の朝は早い。とくに、教師として派遣される身にとってはなおさらだ。


「うぅ……教師ってこんなに朝早く動くもんだっけ……」


小林は肩を回しながら、王立育成所の正門をくぐった。異世界に召喚されてから数ヶ月、ひょんなことからこの世界の学校の“教育補佐”として任命されてしまった彼は、今日もまた教室へと向かう。



彼の担当は“基礎学術”。本来であれば貴族出身の専門教員が行うべきところを、突然の人手不足により抜擢された形だ。


「小林先生、おはようございます!」


「おう、おはよ。今日も元気そうだな、フィリス」


生徒たちは好奇心の塊だ。特に“異世界人”としての知識や文化を話す小林の授業は、ちょっとした人気コンテンツになっている。


「先生、“自動車”って精霊術の馬車みたいなもんなんですか?」


「それな、精霊術じゃなくて“科学”ってやつの力なんだよ」


教室では、今日も“地球ネタ”が話題に上がる。


「先生、また“電気”の話してください!」


「“カレー”ってどんな味なんですか? 創ってみたい!」


生徒たちとの距離は少しずつ縮まっていった。


「物理法則で“火”が出るって、逆に面白いっす!」


「先生、俺“地球の戦車”の構造図、描いてみたんです!」


そんな好奇心旺盛な生徒たちに、小林はできるだけ応えようと奮闘する。



放課後は別の姿になる。


「先生〜! 今日の野外訓練、同行してくれません?」


「先生、剣術部の見学もお願いします!」


「もはや俺、教師というよりお兄さんポジだな……」


とぼやきつつも、目の前で笑う生徒たちの姿に心が温かくなる。




ただ、人気の裏には苦労もある。


「小林先生、また授業で“空気の分子”の話をしたそうですね?」


学園の上層部からの呼び出しは日常茶飯事だ。


「え、だって“火の精霊術”って、酸素と熱量と燃焼材の話じゃないんですか?」


「その“酸素”がこの世界にあると仮定して話すのは、やめていただきたい」


(俺が間違ってんのか……?)



だが、そんな学園生活の中でも、小林には心の支えがあった。


「先生、また食堂で“ハヤシライス風の謎料理”食べてましたね?」


「だって近い味なんだよ、あれ!」


同僚の一人、養護担当のレイナ先生とは、冗談を交わす仲になっていた。


「今度、先生の世界の“コーヒー”ってやつ、再現してみません?」


「マジか、それ本気でやろう!」


こうして少しずつ、彼の存在は学園の中に根を張り始めていた。



だが、転機は突然訪れる。


「小林先生、魔導科の特別課題に協力していただきたい」


提出された資料を見て、小林は息を呑んだ。


(これ……ノアの“創作魔法”の応用じゃないか?)


学園でも、水面下で“魔法の再定義”が進んでいたのだ。



「よし、やるか……この世界の“教育”に、俺なりの何かを残してみせる!」


チョークを握り、黒板に向かう小林の背筋は、これまでで一番まっすぐに伸びていた。



この世界の子供たちと、彼自身の“今”のために。


異世界教師・小林の学園生活は、まだまだ続く——。

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