召喚勇者と巻き込まれたおじさん
(……これは……王道の展開の気がする)
そう思った矢先、王が手を振ると扉の奥から5人が現れた。
—4人の若者と、1人のいかにも場違いな中年おじさん。
「彼らは、先日異世界より召喚された勇者たちじゃ」
堂々と王が紹介する。
前に出てきた若者たちは、それぞれ胸を張って自己紹介を始めた。
「俺は風間レン。剣を扱う勇者です」
「私は天野ひかり。精霊術を司る力を持ってます」
「弓道部出身の森川大輝です。遠距離戦なら任せてください」
「計略と戦術が専門の如月まことです。頭は多少、回ります」
それぞれが確かな自信と誇りを込めて名乗る中、最後に残ったおじさんは、一歩前に出たものの、少し照れくさそうに頭を掻いた。
「え、えーと……小林です。会社員でした。特技は……雑用とか……すみません」
(あ、完全に巻き込まれた枠だ)
そう確信したノアは、なぜかふと口に出してしまった。
「え、じゃあそのおじさん、追い出したりしないんですか?」
その一言に——空気が凍った。
「なんて非道なことを……!」と王妃が眉をひそめる。
「どうしてそんな酷いことを言えるのですか……?」アリシアは今にも泣き出しそうな顔をしている。
周囲の侍女や護衛たちも「まさか…」とヒソヒソと囁きあっている。
(うわ、やば……空気おかしい……!)
慌てて勇者たちに助けを求める
「い、異世界召喚ものでは王道の展開なんですよね!? ほら、おじさんが最初追放されて……!」
しかしレンが冷たく言い放つ。
「そういうの、フィクションだから。現実とは違う」
「おじさんがかわいそうです」ひかりが静かに呟いた。
空気が最悪に凍りついていくその中で——
「いやあ、わかるわかる! 俺も同じこと考えてたよ!」
と、朗らかに笑ったのは、あの中年おじさん・小林だった。
「最初俺が追放されてさ、実はすごい力秘めてて、あとで見返してやるぞーって、な? 王道だよなぁ?」
その一言で、場の緊張がふっと緩む。
(このおじさん……わかってる……!)
ノアの中に、一気に親近感がわいた。
やっと空気が戻りかけたそのとき——
「この者、今後はノアの保護者とする」
国王の言葉に、場が再び沈黙。
「ええっ!? フィーネか、せめて勇者パーティーの紅一点のひかりがいい!!」
ノアは思わず叫んでしまった。
「おいっ……俺だってアリシアちゃんみたいなかわいい子の世話したかったんだよ!」
「なに言ってんだこのオヤジ!!」
ノアと小林、まさかの口論勃発。
「ふっはっはっはっ!!」王が大爆笑し、王妃は顔を覆って肩を震わせ、周囲もみな失笑する。
王道を思わせては裏切られる、そんなやり取りの中——
ノアと小林は、奇妙な縁で繋がれていくのだった。




