創るという証明
スプーンを創って見せた翌日。
俺は内心、こう思っていた。
(……これはフラグ立っただろ)
監視者との信頼関係が芽生えて、力も認められて、次に来るのは当然——
「これからは君を信じて、少し自由にさせてあげる」とか、
「私が君を守る」とか、
あるいは——「特別な任務のためにスカウトが来る」とか!
そんな王道パターンをちょっとだけ、期待していた。
——が。
「本日の課題:図書塔整理補助および文献複写作業、午後からは記録魔導式の練習。休憩は一回、食事は監視下で」
「……えっ、なんか……俺、雑用扱いされてません?」
「当然だ。“異能持ち”の仮滞在者である以上、価値を示す必要がある。優遇措置はまだ早い」
(あ、現実ってこうだったわ……)
そんな淡々としたスケジュールをこなしながら、俺は再び図書塔へ向かった。
—
その日、渡された文献の山はとんでもなかった。
「『古代家具配置記録と呪的構成要素の無関係性調査』……うわ、読むだけで眠くなる……」
完全にハズレ文献ばかり。
期待していた“魔法の歴史的痕跡”なんてこれっぽっちも見当たらない。
(そりゃそうか。都合よくすごい発見なんて……)
そう思っていたとき、隣の書架で物音がした。
「おやぁ〜? これがあの、“異能の坊や”かな?」
くすっと笑うような声。
振り向くと、そこには——
なぜかくるくる巻き髪の中年女性がいた。
身なりは立派だが、肩に小鳥が止まっていて、目元のメイクがやけに濃い。
いわゆる“貴婦人風おばちゃん”だ。
(……だ、誰?)
「私はね、中央魔導管理院の文書局長、エミリア・ブレインズよぉ。よろしくねぇ」
名前はすごい。でも喋り方がなんか怖い。
「君の力、拝見したいわぁ。創れるんでしょう? “何か”。この場でぜひ」
「……い、今ですか?」
「ええ。手軽なものでいいの。たとえば……豪華なティーカップとか」
(そんな細かい装飾の再現……難しい……)
でもやるしかない。俺は再び手を広げ、集中する。
(陶器、薄い、白。金の縁取り、花模様……)
——ぽんっ。
手の中に、ティーカップが出現した。
……が、
「……あらぁ〜。残念。ちょっと、湯呑み風かしら?」
見れば、確かに和風の厚めの茶器に似ている。
(……恥ずかしい……)
「でも大丈夫よぉ。可愛いわぁ。坊や、頑張ってる感じがとっても」
エミリアはにこにこしながら去っていった。
(これ……もしや“有力者フラグ”かと思ったけど……ただの癖強いおばちゃんだった!?)
—
その夜。
「本日の観察報告:能力の正確性は継続観察を要す。対象はやや自信過剰傾向」
フィーネの報告内容をチラッと聞いて、俺はがっくりうなだれた。
(……ま、まあ……王道展開ばかりじゃつまらんよな……)
ふと見れば、机の上に、あの木のスプーンがまだ置いてあった。
フィーネが、捨てずに取っておいてくれていた。
(……うん。これはこれで、悪くない)
“創る”という日常の中、少しずつ、俺の世界は形を持ち始めていた




