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監視者と“仮”の日常

王都での生活は、想像していたよりも静かに始まった。


中央魔導管理院の仮滞在許可を得た俺は、王都内の“観察対象者用”の下宿施設に暮らすことになった。


といっても、実質的には小さな屋敷の一室で、食事付き、警備付き。


ただし——常時監視者付き。


「ノア・セラン、5歳。中央魔導管理院より任命された監視者、フィーネ・クラウスです。今後よろしくお願いします」


そう名乗って現れたのは、長い黒髪を高く束ね、鋭い視線と端正な顔立ちを持つ年若い女性だった。


(うわ、冷たそう……でも顔立ちはめっちゃ綺麗……)


最初の印象は、完全に“クール系美人”。


「質問はあるか?」


その一言に、つい俺の口が軽くなった。


「えーっと……彼氏、いますか?」


数秒の沈黙の後、フィーネは冷静に言い放った。


「……性に興味あり。年齢に対して早期傾向。報告対象」


「ご、ごめんなさい。今後はふざけません……!」


(冗談が通じない……!)


食事の時間も、読書の時間も、散歩の時間も、必ず数メートル後ろを歩くフィーネ。

だが、必要以上に干渉してくることはなかった。


「今、何を考えている?」


「……昼ごはんのメニューです」


「報告不要」


(ですよね)


とはいえ、監視されながらの生活はやっぱり疲れる。

自由はあるようで、ない。


だが、ふとした瞬間、彼女がじっとこちらを見つめているのに気づくことがあった。


(……気のせい?)



そんなある日、俺は王都の図書塔に通されることになった。


「“異能育成のための適性調査”として、文献閲覧の許可が出た。君に知識を詰め込む機会と捉えてくれ」


それはまるで、「君の能力を観察するための材料を探せ」と言われているようなものだった。


俺は、その図書塔で——

かつて見たことのない、“魔法があった頃の記録”に触れることになる。


王都中央図書塔——そこは、一般の市民には開放されない“制限区域”に近い場所だった。


フィーネと共に通されたのは、重厚なドアに囲まれた地下の閲覧室。

「魔法」「禁術」「失伝技術」といった分類の本が、膨大な量で並んでいた。


(うわ……これはテンション上がる……)


本好きとしての血が騒ぐ。


だが、その中でも俺の目を引いたのは、金具で補強された古い革表紙の一冊だった。


『術理再考 —— “構成魔術”の記録より』


(構成……?)


ページをめくると、そこにはかつて存在したという“構築魔術”の理論が細かく書かれていた。


「魔術の基本は元素変換、しかし“創出”に至るには対象物の意義・概念の理解が必要」


「記号と意味を紐づけ、思考の中で完全に再現できる場合のみ、“存在化”が成立する」


(……これ、俺の“創作魔法”の説明そのものじゃん)


その瞬間、背筋に冷たいものが走った。


俺が無意識にやっていた創作魔法は、かつて“存在を消された魔術”と酷似していたのだ。


「……君、読みすぎだ」


背後から声がかかる。


振り返ると、フィーネが壁に寄りかかりながら、こちらをじっと見ていた。


「それ、貴族階級の研究者ですら解釈に苦労する内容だぞ」


「……なんか、読めちゃって……」


正直に言う。嘘は、彼女には通じない。


「君の“力”、まだ全部を言っていないな?」


ズバリと見抜いてくる。その瞳に、わずかな揺れが見えた。


だが——その揺れは、敵意ではなかった。


「私は、魔法を使う者を疑う立場にある。でも……それと同時に、君がどんな世界を見ているのかを知りたいとも思ってる」


フィーネの声は、冷たさの奥に、何か感情のこもったものを含んでいた。


(……この人、思ったより“ちゃんと見てくれてる”)


「俺……まだよく分かんないんです。自分の力がなんなのか。けど……知りたいんです」


「なら、見せてくれ。君の“創るもの”を」


それは、挑戦であり、許可でもあった。


——図書塔に響く静けさの中、

一歩、俺はまた前に進むことを決めた。



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