王都への道と中央魔導管理院
王都の門をくぐったとき、俺は思わず息を呑んだ。
石造りの街並み。行き交う人々の衣装は色鮮やかで、どこか誇り高い雰囲気がある。
貴族と平民の区別がはっきりと現れた広場。露店が並び、兵士が巡回し、空には白い鳩が飛んでいた。
(……これが、王都)
見とれていた俺に、クラリッサが声をかける。
「見上げている暇はないわ。すぐに魔導管理院に向かう」
「は、はい!」
王都の北区、王城とは別方向に位置する黒い尖塔の建物。
それが——中央魔導管理院。
馬車がその前で止まった瞬間、門の中から黒装束の男女が無言で近づいてきた。
「身分を。目的を」
クラリッサが毅然と答える。
「バルクストン家当主、クラリッサ・バルクストン。中央への面会申請は事前に提出済み。同行者は“異能を有する少年”」
黒装束の一人が、ちらりと俺を見る。
その瞳の奥に、明確な“敵意”ではないが、異物を見る視線を感じた。
(……うわ、これ完全にヤバい機関だ……)
館内に案内される。重厚な石の廊下。魔力を感じる結界。
室内に響く足音すら吸い込まれるような静寂。
やがてたどり着いたのは、大きな鉄扉。
「ここが……?」
「中央の初期接見室。“未登録能力者”が初めて入る部屋よ」
クラリッサが言い終える前に、扉が開いた。
中にいたのは——一人の老女だった。
長く白い髪をきつくまとめ、金属のような冷たい瞳で俺を一瞥する。
「来たか。“異能の少年”と聞いている」
クラリッサが頷くと、老女は立ち上がった。
「私は中央魔導管理院 審問部最高顧問、エルマ・グリフェル。問う、“その力”とは、何か」
(……創作魔法って言っちゃまずいよな)
俺は一瞬だけ迷ったが、すぐに口を開いた。
「俺の力は……“思い描いたものを再構築する”能力です。正確に言えば、この世界にすでに存在する物質を元に、別の形として再編する力」
「……再編?」
「はい。たとえば、石を元にして刃物を創るとか、布を変化させて衣服にするとか。ただし——」
言いながら、俺は少し息を整えた。
「必ず対価が必要です。何かを得るためには、何かを失わなければいけない。元の物質と同じ“量”か“価値”を持つものを使うことでしか、作れません。いわゆる……“等価交換”です」
「……錬金術のようなもの、ということか」
「ええ、まあ、そんな感じです」
エルマはしばし黙ったまま俺を見つめる。
(……うまくいったか?)
だが次の瞬間、彼女の眉がわずかに動いた。
「それを、誰に教わった?」
「……え?」
「その説明は、錬金論の原則に照らしても非常に正確だ。まして、君はまだ……何歳だ?」
「……五歳、です」
「五歳児が、そこまで構造的に“対価”と“物質変換”を語れるとは思えない」
しまった——言いすぎた。
(やばい、疑われた……!?)
だがエルマは、すぐには追及してこなかった。
「なるほど。君の能力については、後日さらに調査を行う。とりあえず“仮滞在”として王都内に留め置く処置を取る」
「……はい」
「当然、“監視者”を一名つける。異能持ちの基本だ」
(……ってことは、自由行動はほぼ制限付きか)
エルマは静かに、しかし明確に言い放った。
「我々は、“未知”を放置しない。君が何者か、そして何を創れるのか——それを必ず明らかにする」
その言葉の裏には、警戒と期待、両方の重みがあった。




