君が死ぬタイムリミット—時空警察—
この日は、雲一つない青々とした空だった。陽気な太陽の光が部屋に差し込んでいた。温かい空気が肌に触れ春の訪れを感じさせる。今日から時空警察の研修生になるんだ。心臓の拍動がいつもより早く感じられた。鼓動が耳につく。表情が緩み、微笑む。ワクワクとドキドキ。ウグイスの「ホーホケキョ」という鳴き声でさえ近くから聞こえたのに遠く感じた。鏡の前に立ち制服に着替えた私が映っている。前髪を整え、机の上にあるスマホを持つ。歩いて部屋のドアノブを回す。音を立ててドアを閉める。階段を降りていく。階段が急だから慎重にゆっくりと。リビングのドアを開けると、お母さんとお父さんがいた。
「優香、俺は今日から君の担任になるんだ。だから驚くなよ。」
「そうなんだ。私は中等部からレオと通っているけど…」
何!?え?嘘でしょ?お父さんが教師なのは知ってる。まさかこの学園に勤務することになったなんて…
「この学園の名前は私立シュトゥンデ学園。時空警察になるための学校であり、魔法使い学校。だからこそ俺の職場にふさわしい。」
彼は真剣な眼差しで語る。職場は決められないはずだけど…
「そっか。」
「優香の恋人とも一緒のクラスだから。中学の時みたいに保健室登校になるなよ。」
「保健室登校にはなってないって。
レオと一緒のクラスかー。」
「……よほど嬉しいんだな。」
お母さんは弁当を作っている。卵焼きのいい匂いがする。
「始業式なんだから遅れないようにね。」
彼女は心配そうに言って弁当を作り終える。
「そういえば……高校から神のお告げによって来る人がいるんだっけか。」
「まぁ、確か同じクラスのはずだ。」
「私やレオも神に呼ばれてきたけど‥‥‥とくにそんな私たちが必要とされる場面なんてなかったと思うけどなー。」
そもそも近頃はQOLだかで私も学校に通うはめになった。ほんとはもっと働いてお金を稼ぎたいのに。おかげでレオからすごい喜ばれたが。
「いつになったら公欠しないで済むの?」
「高校からだな。時空警察に入るための試験に合格しなければならないからな。」
そろそろ学校にいく時間だ。
「行ってきます!」
と学校へ出発する。
お父さんのスマホに電話がきた。学校からだ。
「はい。霧島です。え?時空警察が壊滅状態に陥った?はい。……はい。」
空気が張り詰める中、電話が切れた。
「お父さん、どうしたの?」
「時空警察が壊滅状態に陥って、休校になるそうだ。優香を連れ戻さないと。」
一方その頃時空警察は撤退しつつあった。腕に切り傷を負った者。首を切られ亡くなった者。激しい銃撃戦に巻き込まれた者。そんな戦場の中、コツ…コツ…とローファーの音がする。クナイを持った制服を着た少女は襲撃してきた軍から
「美玲さん、君も仲間だったなんて」
「違いますよ。貴方達のような過激派の仲間ではありません。」
クナイで少女は軍の人の首を切り、血吹雪が飛ぶ。悲鳴を出せないまま倒れる。次々と軍人の首を切っていった。その影には哀愁が漂っていた。無線に通信が入る。
「時空警察が撤退した。美玲、そちらの様子は?」
「……片付け終わりました。」
掠れた声で伝え終わる。無線が切れる。雨が降ってきた。その場から離れようとした。すると世界が割れて、別の場所に飛ばされる。
「ここ、どこだろう?」
確か私は学校にいく途中だった。お父さんが担任になるなんてびっくりしたけど。なんだか別のところに飛ばされたようだった。家々の屋根や壁が壊れている。崩れている。誰もいない。
「ん?」
張り紙がある。どれどれ……
「要注意!追っている神がいます。この姿を見かけたらこちらまで―時空警察」
時空警察が追っている神って誰なんだろう……張り紙はあるけど姿が映った写真がないし変だな……。こっちの世界ではなかった張り紙だし。にしても寂れていてなんだか不気味だな……。
「すみません。少しよろしいでしょうか?」
なんかすごい涼しげな顔をしている。
「はい!あの、わたし飛ばされてここにきたんですけど、あなたは?」
勇気を振り絞って返事したけどどうなんだろう。正直、初対面の人に気さくに話しかけられるなんて羨ましい。わたしのような人見知りには難しい話である。銀髪の髪にすらっとした顔立ち。美人だ。圧倒されながら話を聞いた。
「わたしもです。ここは戦場となったところですね。時空警察と。」
何やら無線機を持っていた。少し声のトーンが低い。この子はどうして知っているんだろう。わたしと同じ制服を着てるってことは……
「あなた、お名前は?」
「水瀬美玲です。貴方は……霧島優香さん、ですか?」
えっ。初対面のはずなのに。会ったことあったっけ?小さい頃のことなんてほとんど覚えてないからなー。
「そうだけど……なんで知っているの?」
「わたし、予言ができるんです。」
落ち着いて言っている。予言かー確かアルティナという神がいたけど……まあ、偶然でしょ。って——え?予言?めっちゃくちゃ凄いじゃん。ほわぁ。
「す、凄いね!何年生なの?」
「一年生です。わたしはこの世界の住人なのですが、一緒に再建を手伝いませんか?いずれ虐殺の神から学校へ依頼することになってますし。まぁ、どの学年でどのクラスにするかはわかりませんが……。」
淡々と言っていた。そんな彼女に引き込まれたような気がした。
「そうなんだ!学校が楽しみー!」
「わかりました。とりあえずこの世界について説明しますね。時空警察が追っていた神がいるようなのですがその最中、別の組織に衝突したようですね。」
ん?追っている神がいるのは張り紙があったからわかるけど……。
「何で知っているの?」
彼女は声のトーンを変えずに
「その衝突した組織が……虐殺の神をご存知ですか?」
わたしは首を縦に振る。
「確か、如月愛って名前で自分の軍を持っているって聞いたことがあったけど。もしかして……。」
実はスパイなんじゃなかろうか。
「はい。その軍のメンバーです。」
「えっ。てことは——敵?」
も、もしかしてわたし、やばい?せっかく仲良くなれそうだと思ったのに。
「違いますよ。今回衝突したのは過激派の人達です。わたしはその人達の処分を命じられてさっき終わらせたところです。」
よかったー!こ、これで新しい友達が!
「とりあえず、衝突の影響で色々と影響が出ているようです。」
あーだからわたしはこの世界に飛ばされたのかな。というかどうやって帰ろうかな?確か……転移魔法があったはずだけど使えるかな。
「とりあえず、元の世界へ帰るね!またね、美玲さん!」
「はい。また。」
家をイメージして……よし行ける!
〜1ヶ月後〜
クラスメイトにようやく会えるぞー!
「いってきます!」
入学式を仕切り直すことになったらしい。つまり、わたしの青春はここからだー!校門の横にシュトゥンデ学園と書いてある。ここだよここ!桜並木が美しい。アスファルトの上を歩きクラスと席を張り紙から確認する。わたしは左側らへんだ。相変わらず年季が入っており、今度父さんからペンキ塗りをするらしいことを聞いた。学校の時計が大きくおしゃれだった。教室に入ると既に生徒がたくさんだった。黒板には
「おはようございます。各自席についてください。」
と書いてある。教卓の上には山積みのプリントなどがある。後ろにあるロッカーはガラ空きだ。席には美玲さんが座っている。
「おはよう!」
「おはよう」
なんだか心の距離が近くなった気がした。先生が入ってきて
「席につくように。わたしの自己紹介をします。わたしは霧島直樹です。皆さんこの1年間よろしくお願いします。それと時空警察に関してですが、もう既に立て直したそうです。安心してください。時空警察の戦ったところは元々荒廃した世界だったようです。」
なんか……すごい爽やかだな。
「そのため、君たちにとって成長の糧になると思い、実習を始めようと思います。内容は、その世界の復興です。虐殺の神から頼まれたので。」
教室がざわつき始める。
「どうして私たちに—— 」
「なんで邪神のいうことを聞かなくちゃいけないの?」
時空警察とは時空間の管理と神のお告げによって行動する者を指す。今回は虐殺の神からか……。
「班わけを始めます。まず、第一グループは水瀬さん、霧島さん、レオさん、氷室さんです。」
その後も班わけを発表する。レオと一緒のグループになれるなんて。氷室さんは確か時の牢獄の管理者のはず。
「以上です。中等部の人達と協力しつつ、上手くやってください。」
ホームルームが終了した。先生の力により全員、美玲ちゃん出身の世界へ移動する。
「にしても神のお告げによって高校からきた人って誰なんだろう。」
「わたしですよ。優香ちゃん。」
えっ!
「神のお告げによって来たのはこの班全員なんだよ!美玲ちゃんで全員そろったね!」
美玲ちゃんは驚き、隼人くんはやっとかという表情をしていた。最強の班になりそうだなー。嬉しい。
「俺の名前は氷室隼人。
とりあえず、どうするの?先生が俺たちに丸投げしたけど。」
隼人くんはそう言って魔法を使ってこの世界を調べていた。他の班は早速仲良くなっているようだった。
「まあ、まずは仲良くしろってことじゃない?その後に説明とか来そうだけど。僕の名前はレオ・デイヴィスだよ。よろしくね。」
穏やかに言う。相変わらずレオは頼りになるなー。
「わたしの名前は霧島優香。」
「水瀬美玲です。」
先生が歩いてきて
「まずはこの世界を調べてもらいます。何が起きたのか——どうしてこうなったのかを。」
魔法を使って調べてみると、恩恵が見当たらなかった。神の授ける恩恵がないなんて……。次に住人を探すもこの周辺にはいないようだった。別の世界に飛ばされたのかな。調べて終わると
「さて、そろそろ教室へ戻りましょう。授業を始めます。実習はこの3年間を通してやり遂げてもらいます。」
高校から来た人達にも親切な設計だなー。
「授業ではまず、魔力の測定を始めます。魔力測定用のペンを渡すので紙に自分の名前を書いてください。そうすれば段階ごとにわかります。ただし、他人の名前を書いても意味はありません。段階は上からSS、S、A、B、C、D、E、Fです。」
書いてみる。するとペンが淡く光り、浮かび上がったのはSだった。やったー!あとはレオのライバルになるだけ!必ず勝ってみせる!燃え上がる闘志心に胸が熱くなった。さすが……中等部の頃学年5位のわたし!
「優香ちゃん、わたしはCでした。」
他の人達もほとんどCかBだった。
「俺はSだった。」
そっけなく隼人は言った。確か……学年3位。
「僕は……何も表示されないね。」
「レオはかなり強いからねー。わたしはSだったよ。」
レオは学年一位。壁が厚いよ!
放課後
わたしのお父さんである先生に会いにいく。職員室に着き、ノックする。
「優香さん、ちょうどよかった。少し別室に移動しよう。」
三階に移動するために階段を登り空き部屋にはいる。
「優香、地獄の神から依頼が来た。以前に虐殺の神から聞いたと思うが、三年前如月愛の妹、戦争の神、如月いのりが何者かに殺された。そして、今年の入学式の日に逮捕できそうだったんだが、襲撃にあったんだ。その間に皆犯人に関する記憶を消されてしまい、さらに証拠や顔写真が消えてしまったんだ。今回の依頼はその犯人の逮捕だ。残った痕跡は神であることとレオさんの写真のみ。つまり、レオさんが関与しているのではないか、と疑われているらしい。」
「レオは犯罪を犯すような人ではないと思います。」
なんだか……凄いことになってきた。……貴方が関わってないと信じて。
「わたし達地獄の使者ですよね。時空警察に任せなくていいんですか?」
「まぁ、優香だけが持つ魔法が必要なんじゃないか。優香は時間を操れるからな。」
「それと……わたし、レオのライバルになりたいんです。だから……指導して欲しいんです。もし、魔法使い学校ではなく、時空警察学校だったら、落ちこぼれだったと思うんです。……騙されやすいから。」
「優香、安心してくれないか。……俺が君を神にしてみせる。」
「え——」
先生はわたしをじっと見て瞳の奥にはわたししか映っていなかった。