旅行帰り
「かーれーしー君。たっだいまー!」
そんな声を聞いて顔を上げると、両手に大量の紙袋を持った彼女が居た。
「ねーぇー。なにその『騒がしいやつが帰ってきた』みたいな表情。私、悲しいんですけどー?」
「可愛い可愛い彼女が、2泊3日の研修を終えて自分の家に帰らず、彼氏君の家に来たってのに。酷いと思います。おこです。」
相変わらずのマシンガントークに圧倒され、虚脱感に襲われながらも、彼女が帰ってきたんだなと実感する。
「なんだか、幸せそうだね。そんなに私が帰ってきたのが嬉しかったの?」
ドヤ顔の彼女がうざ可愛い。でもなんだか癪だ。
「ぇー?なになに、『うちに真っ先に来たのは空港から、うちの方が近かったからだろ』って?それは言っちゃダメだめだよ〜?長旅で疲れたのー。あ、あとこれ、お土産ね。」
なんだか単純だな、と思いながら立ち上がってお土産を受け取る。中身を見ると柑橘系の入浴剤だった、それもお高めのやつだ。
「ふふん、いいでしょ?あと、同じメーカーのシャンプーとボディーソープ、あとリンスも入ってるから…ね!」
丁寧に紙袋の中身を取り出し、説明文を読む。
「じー。」
なんだか期待の眼差しを向けられているような気がする。まあ、分かりきったことなんだが。入浴剤の小袋を一つ取り出して、さっき溜まった湯船に中身を入れる。
「むふふ、分かってるね。彼氏君。先に入れ、でしょ?シャンプーとかも持っていって使うね〜?あ、こら、ため息つかないの!」
ルンルンで彼女が風呂に入ったのを見て、台所へ向かう。
「ふんふふんふふ〜ん。……おっ、私の分のご飯も作ってくれたの?えっ?『軽くしか食べてないだろ?』って、なんで分かるの?まさかエスパー?」
「何そのジト目。『なんかまた私がアホなこと言ってるなー』って思ってるでしょ!あっ、でもなんだか、そのジト目で見られるの癖になるかも。」
アホなことを言っている彼女は放っておいて、料理を皿に盛り付け、テーブルに運ぶ。ちなみに、テーブルは足が低く、こたつにできるタイプのものだ。
さっきまで聞こえていた、ドライヤーの音が止み、とっ、とっ、っと床を踏む音が聞こえる。振り返ろうとして……
「ぎゅー。」
柔らかな感触に前を向くように強制され、たらりと長く綺麗な髪が頭上から落ちてくる。ふわりと柑橘の香りが鼻腔をくすぐり、彼女のお風呂上がりのぽかぽかとした体温が、身体に彼女の身体の感触を少し誤魔化しながら伝えてくる。
「良い匂いでしょ?」
そう耳元で囁かれる。
「ご飯食べて、お風呂入ったら……入浴剤の匂い、お布団で楽しもっか。」