クールな彼女
コツコツコツ
人でごった返した街の喧騒、その中の石畳を歩いてこちらに向かってくる足音が、やけに鮮明に聞こえてくる。
「やっほ。待ったかい?」
「「待ってない」って?でも、君のことだから15分前にはここに居たんだろ?」
来た時間までしっかりと当てられてしまい、顔に出てたかと少し動揺していると。クスクスと彼女が笑った。
「さっきのは適当に言っただけだよ。ちゃんと顔には出てなかったぞ、えらいえらい。」
そう言って頭を撫でられるが、全然嬉しくないので少しむくれていると。
「あぁ、ごめんよ。そんなつもりは無かったんだ。ほら、こっちおいで?ハグしよ。ハグ。」
「ほら、ぎゅー。」
人目のある中でのことだったので気恥ずかしかったが、体に当たる彼女の身体の柔らかさと少し冷えた体温にほだされて、堪能するために抱き返した。
数分ほど経ってから離すと、彼女がゆでだこのように顔を真っ赤に染めていた。
「うぅ、はなしてっていったのに…」
さっきまでのクールな姿はどこへやら。そこには、いちゃついているところを他人に見られて恥じらう乙女の姿があった。
なだめるように頭を撫でてあげると彼女もまた、先ほどの自分のようにむくれて、ぽこぽこと胸をたたいてきた。
「もうっ!そんな君にはこうだっ!えいっ、えいっ、えいっ。」
「ふふっ。じゃあ、行こう。明日は休日!いっぱい楽しむぞー!」
「今日は楽しかった。あれ?もう、早く行かなきゃ遅れる。くそっ遅れたら、もう次の電車ないんだから、乗れなかったら責任とってくれよっ!」
彼女に手を引かれながら走り始める。そこでふとある看板が目に入り、思ったことを口に出してしまった。
「「じゃあ、乗れなかったら責任を取ってあそこ行こっか」って、あそこってどこのことだい?」
指を指してやると、彼女がそれを追ってその看板に目を向ける。それを見て彼女が急停止、その後5分ほど駅の目と鼻の先で立ち尽くす。駅から終電が出たのを確認してから彼女が振り向く。その顔は朱に染まっていて、モジモジとしながら口をひらく。
「終電行っちゃったし、責任取ってくれるんだろ?え、「立ち止まったからだろ」って?うるさい。それとも私とは、いや?」
そんな可愛い彼女のお願いを断れるはずもなく、首を縦にふってしまう。
「じゃあ、今度は君がエスコートしてくれ。責任とるんでしょ?これも責任の範囲でしょ。」
諦めて彼女の手を取って歩き始める。そうすると腕に全身を押し当てるように絡めてきて、囁いてくる。
「じゃあ、行こっか……ホテルに。」