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本当にシナリオに縛られていたのは

 祝典の数日後、ネヴィル家でも身内向けのささやかなパーティーが開かれ、キャロラインは家族や使用人達から心のこもったお祝いの言葉を貰っていた。

 今まで王妃教育ばかりで領主としての勉強は受けた事が無いが、父が優秀な補佐を付けると言ってくれたので大変だけれど何とかなりそうだ。

 ルナヴァール領を代行して経営している伯爵も人望のある人だそうで、引継ぎに関しては心配は無い。全ては自分が領民からの信頼を得られるかどうかに掛かっているが。


 あの後国王夫妻からその後の2人の話を聞いたが、予想通り余り上手くいっていないようだ。

 

 今まで知らなかったが、シャーロットはある貴族の令嬢に友人と言う名の金づる扱いされていたらしく、縁が切れるまで賭博やプレゼントで結構な大金を巻き上げられたらしい。

 

 何だか聞いているとポリニャック夫人とアントワネットを彷彿とさせる。

 学校では友人らしい友人が居なかったし周囲から避けられていた分、分かりやすく好意を示されて舞い上がってしまったんだろうか。

 

 そういえばジョエルが最初に彼女に興味を持ったきっかけは、余り表情を面に出さない令嬢達と違って、思った事を素直に態度に表すところが新鮮に映っていたようである。

 彼も彼女から素直な好意を示されて満更でもなかったのが発端だったし、因果は巡るという事だろう。

 

 結婚前から大分お金を使い込んでしまった以上、彼女の暮らしは当初の想定よりも侘しいものになるのは間違いない。

 

 根っからの王子であるジョエルは金銭感覚が桁違いだ。ただでさえ自分に対する慰謝料が嵩むのに、普段の生活からお金に関する食い違いが出てきて苦労しそうだ。下手したら借金回避の為には、折角のドレスやアクセサリーを手放す必要もあるだろう。

 果たして高価な物に囲まれて虚栄心を満たしていたシャーロットに耐えられるだろうか。


 加えて2人の間から仮に子どもが産まれても、その子には王位継承権が無い。不幸な子が産まれて来ない為の措置として、シャーロットは閉経するまで避妊の薬を食事に盛られるそうだ。

 

 これから2人は寂れた土地で監視されながらひっそりと暮らしていく事になる。表舞台に立とうとしても誰も相手してくれず、時折訪れてくれる友人達だけを慰めにして。

 もしジョエルが奮起してリッテル領を盛り上げたら、また違ってくるかもしれないけれど彼とは赤の他人となった今、遠くから眺めているしか出来ない。


「キャロライン!改めておめでとう!」

「王后殿下、来てくださってありがとうございます」


 お忍びで駆け付けてくれた王妃に感謝の言葉を述べる。国王は政務、ミシェルは遅れを取り戻すべく頑張っているみたいだ。


「義理の親子になれなかったのは残念だけど、困った事があったら直ぐに私に相談してね」

「はい、ありがとうございます」


 ルナヴァール領に赴任すれば物理的に離れる事になる。自分にとっては第二の母のような身近な存在だったから、「お義母様」と呼べる未来が無くなった今、少し寂しい。

 それでもきっと助けを求めれば直ぐにでも駆け付けてくれる筈だ。離れていても繋がりは切れていないと思えるのが嬉しい。


 もし自分が本当にシャーロットに嫌がらせをしていたら、今頃は彼女が「お義母様」と呼べる立場になっていたのだろうか。

 ずっと気になっていたがこの際だ、思い切って聞いてしまおうとキャロラインは王妃に顔を向けた。

 

「王后殿下。もし私がジョエル様の言う通り、シャーロット様に嫌がらせしていたとしたら彼女を王家に迎えましたか?」


 嫌がらせが本当にあったならばキャロラインの悪行は他の子息子女にも周知の事実となる。そうなればいっそキャロラインは捨ててシャーロットを選び、爵位の低さも障害を超えて結ばれた世紀の大恋愛と宣伝すれば、ある程度の体裁は保てるのではないだろうか……と思ったのだが。

 

「何を言っているの?あんな子が王妃になれっこないでしょう?」


 王妃は心底意味が分からないというようにキョトンとしていた。


「自分達は堂々と浮気しておきながら全てを婚約者に押し付けて、更には王の命令を無視して勝手な私刑を行って王家に泥を塗ったのは変わらないわ。

 そんな恥知らず、とっとと結婚させた後は適当な身分と土地を与えて政務にも関わらせないようにしていたわ。勿論産まれて来る子どもにも継承権が無いように措置した上で。

 散々勝手な事をした責任は取らせるに決まっているでしょう?」

 

 吐き捨てるように極当たり前の事だと話す王妃の様子に全てのパズルのピースが嵌ったような気がした。

 何故ハッピーエンドルートには後日談がなかったのか。何故あんなにもあっさりとした終わり方だったのか。

 

 またあのルートとベストエンドでは、結婚式の時の国王と王妃の笑い方の違いを指摘しているコメントもあった。もしその笑みが純粋な喜びではなく漸く敵を排除出来る愉悦からだとしたら……。

 

 もしかしてハッピーエンドの「ハッピー」とは知らない方が幸せと言う意味だったのではないだろうか。

 王妃が話していた事をゲーム内の国王夫妻が企てていたのだとしても、ヒロインとジョエルは何も知らない。これからもこの幸せが続くものだと信じきっている。

 

 今思えば他の攻略キャラも、ハッピーエンドルートは本人達は幸せだけれど根本的な解決には至っていないシナリオだったような気がする。

 現に兄のライオネルのハッピーエンドルートでは兄姉が大好きなダイアナが立ちはだかり、ヒロインに敗れたダイアナは修道院行きとなる。

 ヒロインは結婚してネヴィル家の新たな住人となって話は終わるが、恐らくその後のネヴィル家の雰囲気は……言うまでもない。

 

 数多の障害を乗り越えて結ばれるのは多くのお伽噺で定番だが、乗り越え方によっては後に大きなしっぺ返しが待っている。

 恐らくハッピーエンドのシナリオ自体が、製作会社からプレイヤーへのメッセージでもあり、罠だったのではないだろうか。

 

「キャロライン?どうしたの?」

「あ、いえ、流石王妃様だなと思いまして」

 

 不思議そうにしている王妃に誤魔化して自慢の料理を勧める。

 

 あのゲームは全てのルートを達成した後で解禁されるおまけがあった。あれを見られれば確信出来たかもしれないが、自分は既にこの世界の人間で確かめようがない。

 結局シャーロットとなった彼女はハッピーエンドルートを選んだ時点でシナリオの手によって碌な人生を送れない運命にあったのか。ヒロインたる彼女こそがシナリオの操り人形のような気がして、少し哀れだとも思う。


 あのゲームについてこれから先の知識をもう持たない以上、シナリオの事を考えても不毛である。これからは自分の人生を精一杯生きていくしかないのだ。悔いの無いように。

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