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当たらぬ蜂には刺されぬ

「アイリーンもう頃合いだ。タイミングを見計らってあの女とは疎遠になれ」

「は?」


 今日もシャーロット相手にイカサマで大金を持ち帰った彼女は帰って早々沈痛な顔をした父から予想外の忠告を受けた。

 

「ど!どうして!だってあの女が王妃になればずっと贅沢な暮らしを送れるのに!」


 父だって母だってあれだけ喜んでいたのに一体どういう心変わりなのか。まだまだ欲しい物だって沢山あるし、綺麗なドレスを着て宮廷に出入りして、誰に媚びへつらう必要も無く逆にこれから大きな顔が出来るのに。

 

「兄上がやって来てな」

「伯父様が?」


 父の話はこうだった。今日学校内でローズマリーが王家の影から警告を受けた。イカサマ賭博については目を瞑るが派閥の鞍替えをしようものなら容赦はしないと。


「それにラドリス公爵家はシャーロットを養子に迎える予定は無いと表明した。つまりこれ以上あの女との付き合いが続けばあの女の派閥に鞍替えしたと見做される」

 

 今この家が傘下に入っているラドリス公爵家と王家の仲はそこそこで、適度の距離感を保ってお付き合いをしましょうというものだ。

 その公爵家がシャーロットとは距離を置くと宣言している以上こちらも従わなければならない。それが派閥というものであり、そうする事で弱小貴族は拠り所を得ているのだから。

 

 王家の影から警告を受けたという事はあの女は王家から目の敵にされている。欲を優先してシャーロットにくみすれば報復をすると言っているのだ。


 あくまで自分が彼女と付き合っていたのはお金の為。火の粉が降りかかるようであれば手を引かざるを得ない。


「分かりました……。疎遠になってみましょう……」


 とは言ったものの今日まで我ながら随分彼女に気に入られてしまった。どう言い訳して会う頻度を減らせば良いものやらと一晩中頭を悩ませていたが、天の助けなのか案外チャンスは丁度良く訪れた。

 

「結婚式の準備で忙しいから暫く会えないわ」


 帰り際に向こうから言って来てくれたのに有り難く便乗し、身振り手振りで気にしないよう意思表示する。


「いえいえ!結婚式は一生に1度の事ですから!どうぞ気にせず専念なさってください!」


 上機嫌な後ろ姿を見送りながら縁を切れたと一安心する。正直後ろ髪はまだ惹かれるが借金は完済出来たし、少しだけど蓄えも出来た。貰った物を売りながらであれば10年くらいは借金無しに暮らせるだろう。

 

 王家に目を付けられて無事だった者など居ない。最後に稼がせてもらったし、もう二度と会う事も無いだろうなと思いながらアイリーンは金貨の入った袋を抱き締めて家路を急いだ。

 

 シャーロットはやっとヒロインらしくなったと湯船の中で鼻歌を口ずさむ。

 婚約が発表されてからアパルトメントには、沢山のお茶会や遊びの招待状が連日ひっきりなしに送られて来ていて目を通すだけでもてんてこ舞いだ。

 

 そうそう、ヒロインとはこういうものなのだ。皆からチヤホヤされて良い男に囲まれて、王妃様なんて皆から好かれて毎日綺麗なドレスとアクセサリーとエステでこの可愛い顔を維持して幸せに暮らすのだ。

 

 この国の貴族に関する知識が皆無な彼女は、取り敢えず家格の高い家のお誘いから順に受けていこうかと思っている。それでも中々の数だ。

 招待状の中にはネヴィル家の派閥に入っていた者や表面上は王家に忠誠を誓っていた家まで含まれていたが、優秀な影が既にリストアップ済みである。彼等の将来はそう遠くないうちに暗いものになるだろう。


「それにしても婚約発表するのが遅いのよ、あの親父」


 お風呂から出て寝巻に着替えたシャーロットはベッドに寝転がりながら悪態を吐く。ジョエルがあの場で婚約破棄をした時点で自分との婚約は決まっているのに何を勿体ぶっていたのやら。これだから頭の固い頑固親父は嫌なのだ。


 でもこれでやっとジョエルと結婚出来る。誰よりも華やかなウェディングドレスを着て、幸せそうな自分をキャロラインが恨めしそうに見ると想像するだけでワクワクしてしまう。


(豪華なドレスと指輪は外せないわよね。あとエステにも行ってうんとお肌のコンディションを整えておかなくちゃ!)


 明日を楽しみにしながらシャーロットはベッドに潜った。


 翌朝からは今までの暇が嘘のような忙しさだった。

 式については担当に自分の希望を伝えるだけで後は決めてくれるから問題は無いが、大変なのが結婚式に呼ぶ友達を作る為の社交だった。

 

 やれ茶会だサロンだスポーツ観戦だとあっちこっち行き、家に帰れば手紙の確認と返事。侍女に返事の代筆してもらっても体力が追いつかなくて大変だった。


 でもその分良い事もあって案外楽しかった。お茶会でマリアに侮辱されたと悲しげに表情を歪ませれば皆同情してくれたし、流石悪名高きキャロラインの親戚だと糾弾してくれたのはスカッとした。やはりおかしいのはあの人達の方なのだ。

 

 シャーロットは信じていた。結婚式は自分の理想が詰め込まれた素晴らしいものになると。

 

 しかし国王夫妻が彼女の結婚式の為に費用を出すなどあり得ない。ドレスも指輪も全部何もかも、元々キャロラインの為に用意されていた物を流用出来る部分は全て使い回しをしている。

 人の婚約者を取るような人間にはお古で充分だ。国王夫妻とキャロラインの考えは非常によく似ていた。

 

 そして彼女は連日次から次へと多くの貴族達から褒めそやされるに従って、あの日自分をキラキラした瞳で見詰めてくれていた、しがない男爵令嬢の事などすっかり忘れ去っていった。

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