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ラナシュ王の地下牢

 

「お前、死んでるんじゃないのか?」

とカロンが言った。


「は?」


「いつもみたいになにかに引っ張られて来てるとかいうんじゃなくて」


 いやいや、そんなまさか、とアイリーンは笑ってみせたが。


 そういえば、いつもより、この地下のじっとりした空気をリアルに感じる。


 頬も髪も手も湿っぽい。


「えーっ!?

 いや、待って待ってっ。


 だって、これから国に帰って、陛下と一緒にラナシュ王と話をしようと思っていたのにっ。


 っていうか、これじゃ、金印見つけても届けられないではないですかっ」


「いや、問題なの、そこじゃないだろう。


 あまりにも、冥府と地下を行ったり来たりしすぎて。

 人として感じるべき恐怖心が麻痺しているのか?」


 そうだ。

 もういつものように地上に戻ることはもうできないのかもしれない。


 だが、急にそんなこと言われても実感はない。


 ここもアイリーンにとっては、見慣れた場所。


 ふだん生活しているエリアの一部でしかないからだ。


「地面に叩きつけられたと言ったか。

 まあ、仮死状態なのかもしれないな」

と珍しく希望を持たせるようなことをカロンは言ってくる。


「どのみち、お前にはどうしようもないだろう。

 とりあえず、川を渡って金印とやらを探しに行ってみるか?」


「そうねえ……。

 でも、今、そんな本格的に冥府に入り込んだら、戻れなくならないかしら?」


「さあ、どうだろうな」

とカロンは他人事のように言う。


 いや、他人事なんだが。


 まあ、どちらかと言うと、今までこんな風に出たり入ったりする人間がいなかったから、彼も今の状況に適応できていないのかもしれない。


 そう思った。



 偉大なるラナシュ王はそのころ、地下牢で永遠のような時を過ごしていた。


 今日も明日も100年前もなにも変わりのない牢獄――。


 だが、そこに、いきなり見目麗しい男が飛び込んできた。


「呪ってくださいっ」

と叫び出す。


「なんだお前は。

 ああ……私の子孫か。


 いや、今、間に合っている」


 男はエルダーと名乗った。


 あの呪われし娘……


 いや、呪ったのは自分なのだが。


 彼女の夫だと言う。


「ほう。

 アイリーンが息をしておらぬのか。


 地面に打ち付けられた弾みで、意識を失い、そのまま寝ておるのではないか?」


「わかりません。

 でも、状況が状況だけに確かめに冥府に下りたいのですっ。


 私を呪ってください」


 覚悟を決めたような若く美しい男に、ラナシュ王はらしくもなく、同情した。


「もともとの原因は私のようだし。

 協力してやりたいのはやまやまなのだが。


 一度に二人も呪うのは力がいるな。

 私が代わりに下りて探してやれればよいのだが。


 私は死神にも見捨てられた身」


 おお、そうだ、とラナシュ王は手を打った。


「そういえば、どこかの地で、冥府に通じる洞穴というのがあるという噂を聞いたな――」




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