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今度はないんだったな

 

「こんなものしかございませんが」


 アイリーンたちは従者らが整えてくれた食堂に料理を並べたが。


 干し肉や硬いパン。

 味はバッチリだが、具のないスープしかなかった。


 味がちゃんとついているのは、メディナが調味料だけは、きっちり持ち歩いていたからだ。


「ほんとうに、こんなものしかないんだな……」


 そんなエルダーの呟きに、やはり、王様のお口には合わなかったか、とアイリーンはちょっと困った顔をしたが。


 エルダーは自分の皮袋からゴソゴソとイモや果物などを出してきた。


「私の食糧を分けてやろう」


「あっ、いえっ。

 そんな恐れ多い……」


 そう言いかけ、ぷっとアイリーンは笑う。


「わずかな食糧を譲り合うとか。

 なんか道に迷って野宿してる人たちみたいですね。

 こんな立派なお城の中なのに」


「そうだな。

 だが、まあ、これはこれで美味いな」


「そうですね、いけますよ、これ」

とエルダーやイワンたちが言うのをみんなニコニコ眺めていた。



「王様は結構気さくな方ですね。

 あんな料理で良いだなんて」


「いつも戦場にいるから、ああいう食事、慣れてるんじゃない?

 そんな悪い人でもなさそうなのに、何故、どんどん領地を広げてってるのかしらね?」


 メディナとそんな話をしながら、アイリーンは王の寝床をできるだけいい感じに整えていた。


 扉が開き、エルダーが現れる。

 この城にいた従者たちと語り合っていたようだった。


「マントに(くる)まって寝るから適当でいいぞ」


「そうですか。

 すみません。


 今度はちゃんと……」

と言いかけ、


 ああ、今度はないんだったな、とアイリーンは思う。


 二度とここに来ることはないだろうし、と先程、言っておられたし。


「お前が謝ることはない。

 こちらの不手際だ」


 妃候補を迎える城がこんなに手入れされてないことの方が問題だ、とエルダーは言う。


「早めに生活に必要な物を届させよう。

 使用人も」


「いえいえ、ここまで運んで来られるの、大変なんで。

 大丈夫ですよ」


 すごい道なんで、とアイリーンが言うと、エルダーは眉をひそめる。


「大変だから、こちらから運ぼうと言ってるんだ。

 お前たちだけで、どうするつもりだ」


「ちょっとずつ運びますよ。

 いい運動になります。


 ねえ?」

とアイリーンとメディナは視線を交わして笑い合う。


「……たくましいな、ここの女たちは」


 長距離の移動で疲れたらしいエルダーは、

「おやすみ」

と言うと、立派な天蓋付きのベッドにごろりと横になった。


 いや、立派なのは外枠だけで、古びたシーツしかない寝床なのだが。



「おやすみなさいませ」

と頭を下げて出たあと、メディナが訊いてくる。


「姫様、ほんとうに一緒におやすみになられなくていいんですか?」


「王様はそんなこと求めてらっしゃらないわよ。

 ……それに、誰かと床を共にすると、私もいろいろ大変だし」


 そうですよねー、と言うメディナの声が装飾品のない、がらんとした石造りの廊下に反響する。


 二人は無駄に長い廊下を戻っていった。




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