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晩餐【2】(鴨汁の思い出)

ネネが準備していた料理は、下記の料理である。


1)玄米の焼おにぎり(中の具は無し)


2)茄子の漬物


3)鴨汁(鴨肉、ワカメのだし汁、焼ネギ※  

 ※長ネギを鴨の油で少し焼いて、表面が少しだけ焦げているもの


4)ふりもみこがし(麦こがし)※炒った米や麦を挽いて粉にして、お砂糖を混ぜたお菓子


5)お祝いの甘酒


お腹を空かした二人の食欲を満たすには充分な料理だったが、ネネの点前、直ぐに箸をつけるわけにもいかず、二人が遠慮しているとネネが先ず、手づかみで茄子の漬物を一切れ掴み、ヒョイッと平らげてしまった。


シャクシャク ゴックン 『あぁ、美味しいわ。』


『やっぱり、茄子の漬物を食べる時は、お義母さま(ナカ)直伝、木下流の食べ方が一番ね!あれあれ、間違った今は羽柴流。』


礼儀なんか、関係なしで、どんどん食べましょうと、言うかの様にイトに向けてウィンクをしたのを合図に、イトも、吊られるかのように、同じ様に茄子の漬物に手を付けてパックリ、イトが食べるとシノも御供せざるを得ない。そんな感じで3人の初めての女子会が始まった。


イトは茄子の漬物を食べた後、遠慮なく続けて焼おにぎりを一口食べてみた。


(美味しいわ・・あれ・・・)自分でも分からないちょっとした違和感をイトは感じた。


イトの思考が一瞬止まっていた傍ら、ネネはシノに、良かったら、これも飲んでみてと鴨汁を勧めた。


『・・・ハイ。』と返事をしたものの、シノは心の中で躊躇していた。鴨汁は生まれて一度も飲んだ事の無いモノであったからだ。


この時代は、現代と違って肉を食べる者は少なかった。背景には、仏教の伝来が影響している。


化学という概念が存在しなかった時代、仏教は一部の肉以外、基本肉食を禁じていた。


理由の例を出すと、今日本で鶏肉と言えばニワトリだが、ニワトリは朝が来ると鳴くので、朝を呼ぶ鶏として神聖化されており、食べる事を禁じられていた。


牛は農業で手助けをしてくれる動物であり、高貴な生まれの貴族が昔から乗り物として使っているので、食べるなんて持っての他であるという迷信的なものであった。


鴨やキジは、認められていたのだが、そのような背景もあり、教養の高いものほど、肉食を忌避する傾向があったのである。


シノの心中を知ってか知らずか、ネネが自分と秀吉の祝言の思い出を語り始めた。


秀吉とネネは、大恋愛の末、結ばれたという事から始まり、祝言の日に、今の様に秀吉の母ナカが祝言の料理として鴨汁を準備してきた事。


もともと、ネネの母は秀吉を毛嫌いしていたが、鴨汁をみて祝言の日に、鴨汁を出す様な家と祝言をする事は許さないと言って帰ってしまったと告白した。


ネネ本人も、祝言の日に生まれて初めて鴨汁を食べた事、食べる時は今のシノと同じ様子だった筈と言うのである。


鴨の肉は、決して安く手に入る食材ではない。当時ほとんど農家の木下家にとってはきっと何年かに一度しか食べれない高価な食材であったろうと、隣で聞いていたイトは思った。


貧乏に負けず、家族の為に何時も笑顔ではたらくナカの笑顔も浮かんできた。そして帰ってしまったネネの母の事も、仕方が無いな、身分の差というものはそういうものだと諦めに似た当時の両家の人達と同じ立場になった者だからこそ分かる同情するような気持ちで聞いていた。


『只ね、一口食べたら、もう美味しくて美味しくて、虜になっちゃったわ。』


『いやあ、やっぱり、食わず嫌いは良くないってつくづく感じた経験だったわ、お母さんもバカねと思っちゃたわ!』


『まあ、こればっかりは、個人の好き()きだしね、シノちゃん、もし苦手だったら、無理しないでね!』


 ネネが明るく、時にはユーモアを交えると、どんな話しでも爽やかな思いでに変わってしまう、この人は本当にすごい人だと、イトが感心していると、シノが鴨肉を目を瞑って食べた。


シノが勇気を振り絞って鴨肉を一口口に入れ、鴨肉を味わう。

2秒、3秒ぐらいの静寂が流れる。


(あ、ホントだ、本当に美味しい。噛むたびに、肉の味とだし汁がしみ込んだ肉汁が口の中をに広がり、更に歯応えも・・・。)


その後、お椀の御汁にも口をつけ味わった。


ネギの甘い香りが、ネギの具を口に入れるとシャキシャキという歯応えも残っており、ちょうどよい塩分と昆布のダシの甘味が口の中が狭いと言いたげな勢いで口の中を駆け巡るのである。


今、おにぎりを食べたら、、どんなに美味しいだろうと、おにぎりを遠慮した小さな口で、ひと噛み。


美味しい~、鴨汁と一緒に食べる事が前提でのセット食品の様に、おにぎりの塩加減が絶妙である。


塩気が無いわけではない、絶妙なのである。残りの、おにぎりをこの鴨汁に豪快に入れ、お汁ご飯で食べたら、どれだけ美味しいだろう、はしたないと思いながら、いつか一人の時に、やってみたいと思うぐらい美味しかったのである。


静寂のまま、若い花嫁がそのまま言葉を失ってしまうのではないかと、イトが心配し始めた頃、『すごく美味しいです‥‥・ネネ様。』とシノが言葉を発した。


カノジョの声は、シノの動作を観察しているもの以外には聞こえていなかったであろう。


身分の上の者に対する社交辞令の響きが全くなく、驚いた気持ちがそのまま出てしまい、最後に慌てて、ネネの名前を付けたした様に聞こえた。


『でぇ~しょう。シノさん、良ければもっともっと食べて』


シノの声が、低かった分、ネネの声は二人の耳に際立って大きく聞こえた


(言葉は少ないけど、この子は、本当に素直で優しい良い子だ。絶対良いお嫁さんになれる)


ネネは、出会ったばかりの花嫁が、迷いながらも、勇気を出して鴨肉を一口食べてくれた事が嬉しかった。


自分と同じように身分の差を越えて幸せになってくれる筈と大きな期待を持ったのである。

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