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忍び寄る殺意(知られざる因縁)

虎之助が御前試合を知る二日前、虎之助の対戦者になる森長可にも、信長から御前試合の件が伝えられた。


『相手は、初陣も済ませていない青二才じゃが、聞くところによると、秀吉が将来を嘱望(しょくぼう)する小姓じゃ。』


『そ奴の将来の為にも、お前の実力を見せつけてやれ、鬼武蔵の槍術(そうじゅつ)楽しみにしておるぞ!!。二人の試合が織田軍の世代交代の象徴にならんことを願っておる。』


信長の口調には、長可の勝利を前提とした物言いであった。


『ははぁ、有りがたきお言葉、長可、わが父可成(よしなり)の名に懸けて、父譲りの槍さばきを皆に見せつけましょう。』


長可は、言葉と共に頭を下げると、信長は満足気に『ウム、楽しみにしておるぞ。』と小姓たちと共に部屋を出て行った。


信長が部屋を出ていくのを確認すると、長可は顔を上げ、しばらく物思いにふけるような表情をしていた。


(なんとも、不思議な因縁(いんねん)じゃ、加藤家と聞いて、何処かで聞いた事が有ると思ったが、山崎片家殿のご息女が嫁いだ先であったか・・。)


(2年前、ワシの方から、娘を側室にと頼んだ時に断られた相手が、嫁いだ相手加藤虎之助、奇縁じゃ・・・。山崎家のご息女が羽柴家の者と祝言を挙げると聞いて、気になって調べたが、よりにもよってあの加藤家であったとは・・・正に仏のお導きよな)


長可は、持っていた自分の扇子を出し、2,3度自分の顔を仰ぐと、開いたままの扇子を目の前にフヮッと上に上がる様に、投げた。


扇が、重力に負け、畳に落ちると、持っていた脇差で、上からズブリと扇を串刺しにした。扇はもちろん、畳も串刺しにした。


脇差を抜こうともせず、その場にいた御付きの者に、『替えとけ。』と言って、部屋を後にした。部屋には腰を抜かした御付きの者と静寂だけが残っていた。


森長可という男には、武人とは別に茶の湯の愛好者という側面があった。


彼は、茶道具の収集を趣味としており、他者からお金を借りて高価な茶道具を買ったという逸話も数多く残っている人物である。


又彼の死後、彼の残した遺書には自分が残した茶道具をどの者に譲るかという事を細かく指示しており、その面からみても、かなりの愛好家だったという事が推察できる人物であった。


以前彼が山崎家と縁を持ちたいという思いを持ったのも、茶の湯への思いが深く関係している。


2年前、長可は商人であり茶人の津田宗久(つだそうきゅう)主催の茶会に招かれていた日、ちょうど、その時虎之助の岳父(がくふ)山崎片家も、津田宗久の茶会に招かれていたのである。その席で長可と片家は知り合ったのである。


長家が茶道へ凝り始めた時期であり、武士で有り茶人である先輩片家に是非教えを請いたいという思いが生じた為である。


片家という人物を調べていく過程で、片家には結婚適齢期のシノがいると知った長家は、知人を通してシノを側室へと願い出たが、片家はシノの姉の夫が死んで間もないという理由で、辞退したのである。


表向きの理由と真実は全く違い、片家の本音は既に長可は織田家重臣池田恒興(いけだつねおき)の娘と結婚しており、正室ではなく側室であった事、又長可と片家が有った時に感じた常人離れした眼光が頭によぎり、直感的に断ったのである。


池田恒興は、信長の乳母(うば)の子であり、この時代乳母の子と主君の関係は非常に強く、実質親戚の様なものであった事からも、信長が長可を寵愛していた事の証である。


片家の断りの申し出を受けた時、稀代の自信家の長可は顔を踏みつけれたように自尊心を深く傷つけられた。


俺の側室では不服か、新参者めと片家に強い怒りを覚えたのである。


これが、長可の呟いた奇縁である。


仏の導きというのは、長可の父可成の時代に話が(さかのぼ)る。


長可の父、可成は既に6年前の浅井朝倉同盟との戦で討ち死にしていたが、若い時は槍の名手で、武勇の誉れ高く十文字槍の使い手として敵国からも恐れられ、『攻めの三左』という異名を誇った武将であった。


彼が愛用した十文字槍を作ったのが、尾張の名工と呼ばれた関兼定(せきかねさだ)という人物だったが、この関兼定が秀吉の母ナカと、虎之助の母イトの祖父にあたる人物だった。


この時代、刀鍛冶という職業は畏怖される特別な職業であった。


刀は武士の魂という言葉もあるが、鉄の塊から鋭利な刃物を作る技術者である彼らは、神秘的な存在として見られていたのである。


父の残した十文字槍が、製作者の子孫の血を吸う事により、神秘的な力が宿るのではないかと、これは、自分が生まれる前から決まっていた因縁なのだと長可は本気で思った。


(トラを生贄にして、鬼武蔵の恐怖の伝説が始まるのだ。御前試合で皆にも自分をバカにした山崎片家にもみせてやろう。)


家に帰り父の形見の槍を握った長可の眼光は怪しく光っていた。

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