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特別報酬

「これ美味しいね♪まるで喫茶店で飲んでる紅茶じゃあないか?香りもコクも最高だ!」


私は先ほど飲んだ紅茶を思い出していた。


「そらぁそうさ♪茶葉は兄のサ店から頂戴した物だし、煎れ方も手取り足取り習ったからね。」


中君は笑顔が素敵だ。そのにこやかな笑みで見られると男の私でも一瞬、ドキっとする。成る程そういう事なら然も在らんと私は納得した。


けれどもふと気になった。彼はこんな豪勢な暮らしをしているのにその兄は何でサ店のいちマスター何だろう。


しかも採算の取れない客も来ないサ店のマスターとは。すると中君は然り気無く答える。


「今、君は兄の事を考えていたろう。何でこの僕の兄がサ店のマスターなのかとね♪」


本当に気持ちが悪いヤツだ。何でこれほどまでに先読みをして言葉を重ねて来るのだろう。きっと彼に関わる者たちは皆、そう想っている事だろう。


私は先ほど彼を褒め、今は(けな)している。全く都合のいい物言いである。私は反射的に言葉を返す。


「何で判ったんだい?」


もはやこれが定番に成りつつある。自分でも不思議と反応してしまう。


こればかりは止めようが無かった。私も好奇心の塊なのだろう。


すると中君は苦笑いしながらそれに応えてくれる。


「ハハハッ…今回のは少し誘導気味だったね♪このタイミングで兄の事を持ち出せば誰でもそう考えるさ!君に限らずね♪違うかい?」


「あっ!な~んだ♪確かにそうだよな!聞いた私がバカだった♪」


私がそう言うと中君は嫌な顔をする。揚げ足を取られると余り気持ちのいいものでは無いらしい。


「種を明かすとだね…」


中君は改まった様に口を開く。


「…兄はサ店のマスターじゃあ無い。あれはあくまで暇潰しなのさ♪詳しい事は僕の口からは言えないが、兄にはちゃんと生業が他にあるよ!」


「そうなのか!どう見てもサ店のマスターだったじゃあ無いか?でもそれを聞いて安心したよ♪君がコレで彼がアレじゃあ釣り合いが取れないものな!」


「ハハ…世の中、釣り合いでは説明はつかないと想うけどね!まぁいいや♪そんな訳で兄の心配はしなくて良い。でも君が気遣ってくれた事を知れば兄も嬉しく想う事だろうね♪」


中君はそう言って笑った。


私はそこでふと気になり口をつく。想いついたらすぐ口に出したくなる私の悪い癖である。こればかりは直し様が無いらしい。


「でも待ってくれ!それなら元々の話しが成り立たないぞ。君の兄はサ店のマスターじゃ無いんだよな?」


私は急くようにそう言った。本業じゃないなら、そもそもの話しが成り立たない。


すると中君は然も可笑しそうに頬を緩めた。


「良くそこに気づいたね♪君にしては上出来だな?でもそうじゃない。生業で無いから本格志向の紅茶が煎れられないとは限らないさ!兄はね、紅茶は英国アカデミーのロイヤルマスターの資格を持っている。これは茶葉の種類、選別の他、その煎れ方、マナーにも精通していなければ、なかなか取れるもんじゃないんだ。兄は他にもコーヒーでもマスター資格を持っているし、食品衛生管理師の免許も持っているぞ!」


中君は誇らしげにそう言った。


成る程、それなら納得だ。今までの話しも立派に通用するってもんだ。そこでまた私は端と気づく。


「ちょっと待ってくれ!それならサ店を堂々と開けるじゃないか?わざわざ身内だけの溜まり場にしておく必要が無いじゃあないか!」


私は勝ち誇ったようにそう指摘した。すると中君はほくそ笑む。


否、どちらかというと小馬鹿にしたようにも見えた。


「君は僕の言っていた事を覚えてるかい?今さっき、生業は他にあるって言ったろう。街中でサ店開いて、果たしてどれだけの利益が上がるって言うんだい?兄はそんなもの比じゃないくらい稼いでいるさ!あれは趣味だ。まぁ趣味で資格を取る方も大概(たいがい)だが、兄はちょっとした変人だし、こだわり屋なのさ!それにだ♪店になったら僕が困る。大手を振って好きな煙草が吸えなくなるからね?」


中君はあっけらかんとそう答えた。


しかしながら変人に変人と言われるなんて彼の兄も気の毒だ。なぜなら私の目には彼の兄は至ってまともに見えたからである。


「まぁこんな事を言うと君はまた余計な事を考えるんだろうな!変人が変人を語るなとかね♪」


彼はそう言って目配せする。


全く油断も隙も無い奴だ。何で次から次へと頭がそれ程、回転するのか判らない。


相変わらず人の先回りをして小馬鹿にして来る。さすがに私も呆れてしまい、今回ばかりは付き合うのをやめた。


それにしても自分で変人だという自覚はあるらしい。私は心の中でほくそ笑んだ。


すると彼は突然ポツリと口ずさむ。


「まぁ僕はちょっとした変わり者だからね…」


私はこのエンドレスに続くやり取りに少々辟易して来た。これはこちらがとことん付き合い、最終的に全面降伏するしかなさそうだった。


私は覚悟を決めた。


「ところで君は僕に聞いて欲しい事があるんだったよな?そのために遙々ここに連れて来たんだろう。ならそろそろ本題に入ろうじゃあないか!」


私は決意を込めて一手目を投じた。もはや何手 (かか)ろうが、最後まで付き合う気になっていた。


けれども私がそう言った途端に中君の歯切れは急に悪くなる。気のせいか何やら腰が引けたようにも見えた。


彼はゴホンと咳込み、やおら姿勢を正すとようやく口を開いた。


「うん…そうだったね♪但し、それはおぃおぃ聞いて貰うとしてだな、先に例の話しを片づけてしまおう。君をここに呼んだのは、どちらかと言うとそれを片づけるためさ!僕の話は二人っ切りならどこでも出来るが、例の話しはそうもいくまい♪」


彼は急にそんな事を言う。明らかにその話しを避けたがっているようにも感じて、私はフフンと心の中でほくそ笑む。


逐に彼の弱みをそこに感じて、反撃の狼煙を上げる時かと悦に入った。ところがそうじゃ無かった。


彼はフフンと嫌な笑みを浮かべ、明らかに判るようにマウントを取って来る。


「 おやおや!急に威勢が良くなったね♪でもそうは行かないぞ!君が僕のお株を奪うなんて百年早い♪まぁ君が幾ら先読みしても、この僕の敵じゃあ無いさ!」


彼はそう言う。そしていきなりとどめを刺して来る。


「何しろ僕の生業はそこにある。僕はプロの探偵だ。我が国じゃあ、わざと鳴りを潜めているが、知る人ぞ知る叡知を秘めた探偵だ。パトロンには某国の王室も付いているし、米国の大統領顧問の信頼も厚い。産油国の王様連中にも懇意にして頂いている。あらゆる謎説きは僕のオハコだ。君の考えている事くらい手に取るように判るね!朝食前さ♪」


彼は意地悪そうな瞳を私に向けた。やれやれである。


そんな彼相手に少しでも勝ち誇ろうとした私がバカだった。私は仕方無く彼に訊ねた。


「良く判ったよ!それで君が片づけたい話しって何だい?まずはそれを聞こうじゃないか♪」


私は気持ちを切り換える。


こうなったらとことん付き合う。否、"それはさっき決意した事だったな"と想った時分に彼はひょっこりと立ち上がり、机の引き出しに手を入れるとアレでも無い、コレでも無いと何かを探し始めた。


頭の中はとても整理整頓が行き届いている彼も、物の整理は余り得意では無いらしい。


ブツブツと文句を言いながら、散々に机の引き出しの中をいい具合にかき混ぜていたが、端と気づいたように「ここじゃあ無かった!」と言って、机の上のロシア人形を手に取るとパカッと開けた。


謂わゆるマトリョーシカという置物である。


これは人形の中にまた人形が入っているというロシアの民芸品で、我が国でも人気があるから、さすがに私でも知っていた。


彼はそれを必死になって次から次へと開けていく。そして彼がそれを十回程、締り返した時にようやくその中から鍵を取り出した。


やはりそれは年季が入ったウォード錠で、扉のものとは違い小さ目である。


「あった!あった!」


彼は鍵を握ると余程嬉しかったのか、私の方をチラリと見てニタリと微笑む。そしておもむろに机の一番下の錠前を開いた。


それにしても頭の良い奴には変わり者が多いというのは本当のようだ。何もマトリョーシカの中に鍵を隠さなくてもいいように想う。


それに頭の回転が良い彼もシャーロック・ホームズ張りに整理は苦手らしい。まぁ物探しひとつで部屋の中、そこいら中を散らかしまくるホームズよりはましというものなのだが…。


中君は錠前を開けると小気味良い音を立てて、引き出しをガラッと開けて箱のようなものを三つ取り出し、私の目の前に順番に並べた。


それは大中小と大きさは異なるが、玉手箱に見えた。


「これは?」


私は疑問をそのまま口にした。すると中君はまるで講釈師のような口振りで得意げに告げた。


「さぁさぁお立ち合い♪ここに実に立派な玉手箱が三つある。大きな物から小さな物まで大中小と別れている。君はその中から一つを手に取り、開ける権利があるのだ!それが今回の事件で君に出来た借りを返す、謂わば僕からの“特別報酬”さ♪さぁどれにする?」


彼は余程、嬉しいらしい。満面の笑みを浮かべながら机の上の報酬を指し、私にその中から好きに選べと言うのだ。


私も嬉しいには違いない。何しろ彼のたっての好意なのだから、本来なら断る理由は無いのだ。


けれどもそこが私の良い面でもあり、悪い面でもある。私は何の理由も無く(ほどこ)しを受けるものじゃ無いとそう教えられて育って来た。


だから"一般庶民を舐めるなよ"くらいの意地があったので「はい、そうですか!」とはいかなかった。


「君は確かにこの私を(エサ)にして、事件を解決したかも知れない。でもその分け前を得る程、私にその資格があるとはとても思えないんだけどな?」


私は自分の矜持(きょうじ)を示した。


すると中君は笑うどころか真険な眼差しで私と向き合う。


「ところがそうでも無いんだな、これが!君は強請(ゆすり)の元締めが、女の子に話し掛けようとしたのを(さえぎ)ってくれたろう?あの時、僕が遮るとかなりの違和感を与える事になっていたから、僕は躊躇(ちゅうちょ)せざる逐えなかった。出来れば女の子だし、助けてやりたかったんだけどな!でも彼に嗅ぎ取られかねなかったからね!僕にとっては彼を逃がすか、女の子を助けるかの瀬戸際、謂わば究極の選択だったのさ♪それを君は何を思ったのか、彼を(さえぎ)るように声を掛けてくれた。正に絶妙の判断だった訳だ。それに彼の方ではまだチャンスはあると思ったんだろう。嫌にあっさりと引いてくれた。但し君は気づかなかったろうが、あの時の彼はかなり君を(にら)んでいたよ♪」


彼はそこで始めて可笑しそうに笑った。余程、悪党が地団駄踏んだのが嬉しかったようだった。私はふとした疑問をそこで訊ねた。


「君が躊躇(ちゅうちょ)したのは判ったが、彼は何で僕を警戒しなかったんだろう?」


素人考えなのは判っていたが、どうしても気になると聞かずにはいられないのが私の悪い癖だ。中君にも重箱の隅をつつくなと言われたが、その時にはもう忘れていた。


彼は溜め息をつくと仕方無さそうに話しを中断し、その問いに触れた。


「これは君が求めた事だから、けして怒るなよ!予めそう言っておく♪」


彼はそう念を押す。


私はそこで少々嫌な予感はしたものの、聞いた以上は覆す事は無かった。


「勿論さ♪憶さず言ってくれたまえ!」


堂々足る物言いである。彼はコクリと頷いたが、私はすぐに後悔する事になった。


「まぁ話しは簡単!君は彼にその素性を知られていたらしいな♪君は現場監督さんと懇意にしてたろう?日々の生活が苦しい事や執筆にあたっての苦労などを話していた。最近には珍しい情に熱い監督さんだったようだ。君に悟られないように配慮したり、給金にも色を付けてくれていた!」


「なっ、何で君にそんな事が判るんだ!」


私は少々剥きになる。


すると中君はあっさりと答えた。


「そりゃあ、本人に聞いたからさ!監督さんにしてみれば、依怙贔屓(えこひいき)になっている事は自覚している。外聞(がいぶん)が悪い事、この上無しさ!だから当然この僕にも口止めして来た。そこで訊ねたんだ。誰か僕と同じく悟られた人は居ませんかとね!彼も僕の口を黙らせておかなきゃならんから、必死だ。本人に言わないという条件で教えてくれた。僕にしてみれば、こちらから口止めしたい程なんだから、願ったり叶ったりってとこだからね、二つ返事で引き受けた。すると教えてくれたよ。あっさりとね!僕が目をつけていた男だった。"やっぱり!"とその時確信したね♪」


中君は誇らしげにそう言った。


私は嬉しいのか悲しいのか微妙な気持ちになった。(ほどこ)しは受けないつもりが、余計な事を言ったものだ。


情け深い監督さんの琴線に触れたらしかった。でもこの際、その情けに感謝する事にした。


私に気づかれないように、そこまで配慮してくれた事が嬉しかったのだ。


第一、それで私は今までの生計を立てて来たのだ。堂々と使った上は感謝するほか無かった。


「成る程…そうだったのか!でもあの娘はあれから急に消えたね。それでかな?彼は工事作業の終わり頃はかなり機嫌が悪かったからね!」


私は呟くようにそう言った。


すると中君は然も可笑しそうにケラケラと笑う。


「そりゃあ、そうさ!あの後、僕は彼女にも外で接触した。帰り道に声を掛けたんだ。そして少し脅かしてアルバイトを辞めさせたんだよ♪だから当然、彼女は来なくなる。自明の理だな♪」


「おぃおぃ、脅すって何だ!(ひど)いじゃないか?君に彼女を辞めさせる権限は無いぞ!」


結果として辞めさせた事が彼女を守る事になったくらいの事はこの私も承知していた。でもそのやり方に少々理不尽なものを感じたのだ。


すると中君はまたしても笑った。


「おぃおぃ!待ってくれ♪僕がそんな汚いやり方を好むと想うかい!第一、君ならどう脅す?売人の毒牙に掛かるとこだったなんて言えないんだぜ!」


「あぁ…確かにその通りだな!ならいったいどうしたんだい?」


私が訊ねると、彼は待ってましたとばかりに得意満面な顔で答えた。


「あの娘はアスリートだろう。しかも超有名な体操の選手だ。何でそんな娘がアルバイトをしようとしたのかはその時には判らなかった。これは後で知った事だが、彼女は財界の大物の孫娘なのさ!」


「そうなのか?」


私は驚く。


「あぁ…どうも彼女はありゃあ潔癖症なんだろうな!年頃の娘だから、当然欲しいものだってあるんだろう。けど自分の力で得たお金でないと買いたくなかったらしいのさ!だから僕は当日の日当と彼女の希望していた日数に応じて、その給金を全額払ってやった。出世払いで良いと言ってね!」


「本当に?それで彼女は受け取ったのかい♪」


私は訊ねた。


「否…さすがに初めは断ったさ!考えてもみろ♪突然、降って沸いたように近づいて来た男が金をやると言ったらどうする?相手は年頃の娘なんだぜ!気持ち悪がって当然だ。簡単には受け取らないさ!仮に男の君だって胡散臭いと断るだろう?」


「まぁそうだな!断わるな…」


私も同意する。


すると中君は(たた)み掛ける。


「そこで僕は辛抱強く説得した。彼女は次のオリンピックで代表に選ばれるのが間違いないと言われた逸材だ。こんなことがマスコミや協会に知れてみろ!その夢も泡と消えるだろう。だからやんわりと脅したというよりは地道な説得だろうね。但し、身元不明の男の言う事などは聞かないだろうから、僕の名刺を渡してやった。彼女はすぐに判ったよ。まぁこれも偶然の産物だが、父親の仕事の都合で彼女も英国の暮らしが長かった。だからすぐに理解した。僕は英国では有名な探偵だからね♪だから出世払いで必ず払うと言って、お金を受け取って素直に帰ってくれたよ。やれやれだったな…」


中君はその時の事を思い出したように嫌々した。どうも彼は女性が苦手な様だった。


「成る程…それで彼女の全容は見えたが、まだ一つ疑問がある!私が彼女にした行為は人として当然の事だ。あの男が売人の元締だとは知らなかったが、何度も何度も変な目で彼女をチラチラと見ていたから(さえぎ)ったに過ぎない。思春期の娘さんだ。気の毒な事になったら私も後で後悔するからな…」


「つまり、自分にその権利は無いと?」


「あぁ!」


私ははっきりとそう答えた。すると中君は困ったようにこう告げた。


「ねえ、君♪人の感謝目線とは時に大袈裟に及ぶ事もある。特に相手が御大臣様だとそういう事になるのさ!」


渋々そう言う中君を眺めていて、私は珍しく閃きを得た。そこでまたぞろ確認衝動が首をもたげる。


「まさか君!私の事をゲロったのかい?」


『やっぱり…』といった顔で私の顔を見つめた中君は、すぐに抗弁した。


「仕方無かったんだ!事実なんだからね♪まぁ人により判断基準に差異があるのは僕も認める。でも僕の身にもなってくれ!長い物には巻かれろだよ、(きみ)ぃ~♪」


中君は苦肉の策とばかりにそう弁明した。




彼の言によるとこういう事になる。


事件が明るみになった後、彼女は自分が危ない身の上だった事を知る。


当然、彼女は自分を救った足長おじさんが如月中だと知っていたから、彼の配慮にとても感謝する事に成った。そこでその感謝の意を込めて、父や祖父にその話しを打ち明ける。結果、渦中に巻き込む事に成った。


当然の事ながら、寝耳に水だった父や祖父には大変に驚かれるも、大事な娘の恩人には違いないので彼を呼び出し、一家総出で出迎える。


そんな状況だから歓迎されない筈は無く、結局は大いに感謝された上に、莫大な謝礼金を頂く事に成ったそうだ。


その中で彼は私の名を出す。彼女もそこで端と気づき、その言葉を貢定する。何しろ悪党から遠ざけてくれた恩人なのだから、然も在らんというところである。


その結果、当然私にも感謝したいという事になる。けれどもその当時、彼は私の所在は知らなかったから、自分が引き受けようと太鼓判を押す事にした。


絶大な信頼のある彼の事だ。その時に私の分まで報酬を得たのだろう。


だから躍起になって探していた。今想うと、図書館で私を捕捉したのも、探しまくっていたからなのだろう。




「成る程…でもまだ私は納得がいかない。何か棚からぼた餅な気になるよな!」


素直に受け入れれば良いものを、私はまた否定した。それだけ私は善良な人間なのだ。


すると中君は笑いながらとどめを刺した。さすがの私もそれには納得せざる逐えなかった。


「君には黙ってた事だが、実は君も危なかったのだ。彼は君が食い物には出来ない輩だと知っていたが、万一の時のために君を自分の身替わりにしようとしていたのだ。君はかなり切羽詰まった暮しをして、生計を立てるのに苦労している。そして犯罪心理学なんぞを読み(ふけ)るしがない物書きだ。強請(ゆすり)の元締の身替わりには打ってつけだったのさ!どうだい?これが真実だ。君を(エサ)といった意味もこれで納得だろう。彼はいざとなれば君を売る気満々だったから、安心していたのさ!だから証拠固めをした後に僕が警察に密告(リーク)したという訳さ♪警察のお手柄といった意味もこれではっきりと判ったろう?」


彼は不承不承そう告げた。


私は当然の事ながら怒った。


「なっ!君は安全だと言ったじゃあ無いか?あれは嘘なのか!」


私の怒り心頭な様子にさすがの中君も腰が引けた。


「いやいや待ってくれ!ღ(°ᗜ°٥ღ)あれは言葉のアヤだろ?ちゃんと(エサ)だと言ったじゃないか!それに腹を立てるなら、僕にじゃ無くあいつにだろうが?」


そう言われて私もハッとする。


「確かに!Σ(,,ºΔº,,*)そう言われればその通りだな…」


すぐに同意してしまうのは私がお人好しな証拠だろう。


「だろう?ꉂꉂ(°ᗜ°٥)」


中君は安堵したように吐息をついた。


その態度に私は反射的に手を挙げて「そんな事で騙されないぞ!⁽⁽(੭ꐦ •̀Д•́ )੭*⁾⁾」と叫んだ。


「⁽⁽ღ( • ᗜ •٥ღ)御免、御免、だから必死で君を探したじゃあ無いか!」


彼は両手で頭を隠しながら、泡を食っている。私はプッと吹き出し、「冗談だよ♪(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 許すよ!」と言った。


中君は「参ったなぁ…(๐•̆ ·̭ •̆๐)」と言いながら苦笑いしている。そして改めてこう告げた。


「(´°ᗜ°)✧そんな訳だから遠慮無く選んでくれたまえ♪どれを引いても損は無いと約束しよう!」


彼はそう言って再び安堵の溜め息を漏らした。

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