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自分らしく

「ああ…確か目標の木下に餌にする獲物を繋いで置くんだったかな?…あ!あぁ!そう言う事だったのか!」


「あぁ…そう言う事なんだ(^。^;)…悪いね!」


如月(きさらぎ)(あたる)()も他人事の(ごと)言葉(ことば)(じり)で話を終えた。




ちょうどその時に、無事に彼の自宅に到着した様である。彼の自宅は、9階建ての小綺麗なマンションで、屋上の一部には、今時のソーラーパネルが付いていて、いつでも自家発電に切り換える事が出来るそうだ。


マンションの入口にはアンティークの様に小綺麗に(しつら)えた木の柵が続いていて、マンションをほぼスッポリ包み込む様に立ち並んでいる。


そして柵の入口を通り抜けると、ちょっとした憩いの場が設けられていた。庭には様々な色とりどりの花が植わっている。中でも出色なのは、生き生きとした薔薇の花々だ。


瑞々しいほどの薔薇たちが、自分たちの美しさを競い合う様に、綺麗に花びらを開らかせて、それはまるで、飾り尽くしたドレスを(まと)って、宮廷舞踏会にデビューする淑女たちの共演に見えた。所謂(いわゆる)イングリッシュ・ガーデンという(おもむき)(かも)し出しているのだろう。


そして、北側の柵の傍らには、梅の木も植わっていた。


「これは凄い…(´▽`)♪壮観だね?植物には造詣がまるで無い私でも、この美しさには感嘆するよ♪あれは何て花だい?君なら判るだろう?」


私はとても感無量と為って、見惚(みと)れていた。すると彼は、あっさりと否定する。


「(^。^;)まさか…僕にこんな甲斐性も絵心も在るものか!」


「(´▽`)へぇ~じゃあ誰が世話をしているんだい?かなり立派なものだぜ♪まるで心が洗われる様だな…ホッとするよ(*´-`)♪こんな素敵な庭園を造った庭師に是非とも逢ってみたいものだ♪」


私は初見の感動を目一杯表現したつもりだったが、何を言っても彼・如月中は珍ぷん感ぷんの様であった。但し、最後に只一言だけ私に告げた。


「君!君がそんなに望むのならば、後で庭師を紹介してあげるとしよう♪」


「それは愉しみだな…(*´-`)是非お願いするよ♪」


私はどんな女人(ひと)が此れを造ったのか、その面影に想いを馳せた。冷静に考えれば女性とは限らないのだが、その時の私はそう勝手に思い込んでいた。


すると中君は平然と笑いながら釘を刺す。


「君!君!そんな事で驚いていたら、いざ中に入ったら悶絶するぞ(≧▽≦)♪こりゃあそんな姿が今から愉しみだな♪」


中君は、然も可笑しそうにそう呟いたのだ。


『(-ω- ?)…』


私はこの時点では、まだ彼が何を指して口をついたのか判らずにいた。


マンションその物も、色鮮やかなイングリッシュ・ガーデンが映える様に、クリーム色に統一されて居て、モダンに感じさせる。中央に配置されている入口のドアを中心として、左右対称に設計されていて、各階には左右三室ずつ計六室の広いお部屋が用意されているそうだ。


「じゃあ、(^ー^)ノいよいよ入って貰うとしますか…我がホワイトヘブンの館にようこそ♪」


彼はそう言うと、玄関を通る。


「ホワイトヘブンだって(´▽`)?まさかの冗談かい…それってポワロの住んでるマンションでは?」


「そうだよ(*^^*)♪さすがは先生だ!良く出来ました…命名の由来はまさにそこから来ている♪」


玄関は風徐室を兼ねた円形模様に設計されている。その中は、手動式の回転ドアに為っていた。


「(o≧▽゜)oね!入口には回転ドアをわざわざ使ってる…此れは屋外の寒さや暑さを(さえぎ)って建物内部を快適に保つ効果があると言われてるんだよ。だから今でもたまに見掛けると思う。(¬∀¬)僕は此れが昔から好きでね♪」


2人は4枚羽に為っている羽の一葉を押しながら、中に入った。成る程…グルグルと回転するドアは、人の出入りを可能にしながら、外気が吹き込む事が無い。


それに確かに此れは愉しい(´▽`)♪ちょっとしたアトラクションに参加している気分に為れる。その気になれば、回転ドアを押しながら、グルグルと何周でも出来そうだった。


風徐室を抜けると、そこはメールルームに為っていて、左右両方の扉から各棟のエレベーターフロアに直行出来る様に設計されている。メールルームには左右27室ずつの郵便受けが設置されており、計54室部屋が在る事が窺える。


そしてその通路の先には1階エントランスに繋がる扉が見えた。各扉には硝子が嵌め込まれていて、その先の景色が垣間見える。エレベーターは各棟に二基ずつ設置されており、片方は6階以上にしか停まらない高速エレベーターに為っていた。


中君の話だと、地下1階にも6室在り、そんな所を借りる物好きが要るのかと尋ねると、このマンションの構造をより詳しく教えてくれた。


正面から9階建てに見えるこのマンションは裏側から観ると10階建てに見えるそうだ。つまり正面側は高台に成っていて、実質的な2階なのだった。


そして地下1階に住む住人は、それぞれが庭付きに為っている為、お家賃はお高いらしい。けれども刈り整えられたそれは見事なガーデニングに囲まれているので、余り外側からの干渉が無くて良いそうだ。


「君もどうだい?」などと冗談交じりに言われて、私が睨み付けると、彼は腰が退けた様に「言葉のあやだよ♪」と言った。


彼はそのままエレベーターフロアに抜けるのかと思いきや、そのまま直進して、エントランスホールに抜けて行く。私もそれに倣って後に続いた。


「うわぁ~こりゃあ凄い♪」


私は想わず(うな)りを上げる。


「だろ?まずはこれを見て頂きたいものだね♪」


中君は天井を見上げる様に指差す。彼が自慢する通り、確かにこれは凄い。


入ってすぐに目につくものは中央に競り出すそれは見事なシャンデリアだった。その装飾も緻密に計算されている。


ひとつひとつのガラス細工が巧みに配置されていて、まるで花びらが開くように下に行くほど広がりをみせる。シャンデリア全体が天井に咲く一輪の花の様にさえ見えるのだ。


そしておそらくは場内を換気する為の空調システムが起こす還流が、時折これに当たる為か、シャリンシャリンという美しい音色を奏でるのである。


そしてその真下、つまりは我々が立っているその場所は赤いビロードの絨毯が敷き詰められたロビーとなっていて、それはさながらホテルの様であった。


否…説明が無ければ、そこはホテルだと勘違いしても不思議は在るまい。ところどころにソファが配置されていたり、正面奥にはフロントさえある。


まさに意識的にホテルのロビーを再現していると言っても過言では無かった。私はふと感じたものである。


『こいつ…喫茶店擬きの後はホテル擬きに御案内とはいったいどういう了見だ?』


そう想った瞬間に私は「あっ!」と大声を挙げた。非日常的な風景にすっかり気を取られて、気にしていなかった自分を大いに恥じた。私は想わず叫んでいた。


「えっ?ちょっと待ってくれ!ここは君の自宅と言ったな?そう言ったよな??」


私はバカみたいに念を押した。


すると中君は涼しい顔で…


「うん♪言ったよ!」


そう応えた。


私はさぞや唖然とした顔をしていた事だろう。反射的に聞き返す。


「Σ( ꒪﹃ ꒪)えっ!えぇ~!もしかして君はここのオーナーなのかい?つまりこのマンション全てが君の家?住んでる部屋が在るとかじゃ無く??」


「(๑•́⌓•́)なんだい、今さら!さっきそう言ったろう?だいたいそうじゃ無きゃ、わざわざこんなとこまで案内するものか!さっさと部屋に直行するさ♪」


「(٥ •'ー'•)じゃあ君が言ってた驚く事ってこれかい?」


「(๑•́⌓•́).。oO まぁこれも在るかな?ちなみに僕の住まいは最上階、つまり10階のペントハウスにちゃんとあるから安心してくれたまえ♪部屋はあるよ!なんせ自宅だからね♪」


中君は然も当然とばかりに言い切った。成る程、それなら寿司を自腹で奢るくらいは朝飯前な訳だ。


私は世の中の無常をここでも感じる羽目に成った。バイトにあくせく汗を流して身銭を稼ぎ、しがない小説に向き合う私とは大違いである。


私はまたまた自分の殻に閉じ籠る。こんなとこに住んでるだけでも羨まし過ぎるのに、ここの全てが彼のものであり、最上階のペントハウスに住んでいるなんてどういう了見だ。


私は自然と怒りを感じていた。彼は私に自慢したいがために連れて来たのだ。私にその違いを見せつけ、貶めるつもりだろう。


そんな怒りで頭が真っ白になりそうになった瞬間に、私はふとその考えの根本にある不自然さに気づく。


そもそもそんな男なら図書館で私に声など掛けるものか。だいたい彼が私に自慢して何の得がある。


端から放っておけば良い存在の私などをわざわざこんなとこまで連れて来るものか。そう想い至った時に、私は自分がまた負のスパイラルに入り込んでいた事に気づき恥じ入る。


私は想い出す。彼は話を聞いてくれと言った。そのためにここまで私を連れて来たのだ。


再びがなり立てて、彼を困らせないで良かったと私はホッとしていた。私は彼に視線を移すと、中君は優しげな瞳でこちらを眺めている。


おそらくは、彼お得意の考察とやらで私の心理を読み取り、気長に待っていてくれたのだろう。確かに彼は毒舌家ではあるが、殊更に人を貶めたり、欺き恥を搔かせたりはしない。


あくまでこの私に興味を惹かれて、静かな場所でゆっくりと時間を過ごすために連れて来てくれたのである。私は自然と口走っていた。


「˚‧º·(˚>ᯅ<)‧º·˚ごめん…すまなかった!」


そう言って頭を下げた。


普通の相手なら『何でここで突然謝る?』と不思議に思う事だろう。けれども相手はあの如月中なのである。


この風変わりな探偵は相手の心理を考察し、先回りをする。つまりはお見通しなのである。


それなら私が突然、謝ってもその意味が感じ取れる事だろう。勿論、この私が彼を相手どって、意識的にそんな立ち居振舞いが出来る者では無い。


只の感情的な帰結の代物であった。けれども謝罪の言葉が口をついた瞬間に、私は彼が理解してくれるだろう事は察しがついていたのである。


そしてその想いは見事に結実した。彼は然も当たり前の様にそう口にした。


「あぁ!判った♪君が誤解しないでくれた事には感謝する。でもひとつ訂正しておく。比較論では物事は何も解決しないぞ!僕はこの住まいを楽して手に入れた訳じゃない。実力で得たものだ。だから悪びれる事無く言える。血反吐を吐く様な涙ぐましい努力の賜物だとね!だからそこに驕りなど無いのさ!」


中君はズバリそう告げた。私はむしろ拍子抜けしていた。そして彼の過去にどんな凄惨な出来事が在ったのかと心を痛めた。


私はやっぱり凡人であり、根っからのお人好しに出来ている様だ。もうすっかり自分の悔しさを忘れて、彼の壮絶な生き方に想いを馳せていた。


すると中君は少し苦笑いしながらこう言った。少し卑下したその物言いが印象的だった。


「(๑•́⌓•́)=3 君は僕の想った通りの人だね?根っからのお人好しだ!さっきまで死んだ魚の様な眼をしていたのに、今や思いやりの輝きがその瞳に宿っている。これは僕には無いものだな!僕は今でこそ自信満々だが、なかなか自分の殻を破る事が出来ずにいた。今それを思い出していた。君のお陰さ♪」


中君はとても嬉しそうだった。少なくとも私にはそう見えたのである。


「(,,ºΔº,,*)だね♪自分で言うのも何だが、私はお人好しが過ぎるよな?」


私は彼に感謝される覚えは無かったから、あくまでも自分の性格にだけ言及した。中君はその意図を理解したのか微笑みで応えるのみであった。


「(•́⌓•́๑)✧立ち話も何だから、そろそろ部屋に移動しようや?」


中君の提案に私も同意した。我々はロビーからエレベーターフロアに抜けて、高層エレベーターに乗り彼のペントハウスに向かった。




「おぃおぃ…これアレじゃないか?」


私は目を見張る。エレベーターの扉が開いて最初に目に飛び込んで来たのは正面のモニュメントだった。


それは生粋のシャーロキアンならば誰もが垂涎するだろう逸品であった。そうディアストーカー帽子とパイプである。


それがマホガニー調の机の上に置かれている。それだけでは無い。その上の壁には年代物の柱時計が嵌め込まれており、今もカチカチと時を刻んでいた。


ロココ調のその時計は花びらの形をしており、よく見ると陶器で出来ている。そして文字盤も洒落ていてローマ字表記になっている。


「(٥ •ᗜ•)⁾⁾ うわぁ~いいな、いいなぁ♪何かホームズの時代にタイムスリップしたみたいな気分だよ♡」


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ だろっ?帽子もパイプもあの時代の物さ♪手に入れるのに苦労したよ!でも僕のお薦めは何と言ってもあの時計さ♪なかなかエレガントな味が出ているだろう?」


「(٥ •ᗜ•)そうだね♪ローマ字表記の時計なんて初めて見たよ!それにあれ陶器だろ?ふぇ~あるところにはあるんだな!」


私は感心してしまった。想わず見惚れてしまい目が離せない。すると彼は嬉しそうに無邪気に笑った。


「(´°ᗜ°)✧ そんなに喜んでくれると、わざわざ連れてきた甲斐が在ったな!僕の趣味もなかなかのものだろう。じゃあそろそろ部屋で(くつろ)いでくれたまえ♪こちらだ!」


彼は直ぐ傍にある大きめの部屋の扉に鍵を差し込み捻り開けた。私は彼の取り出した鍵に想わず目がいった。


「(°ᗜ°٥)おぃおぃ待ってくれ?それってウォード錠じゃあないか!どんだけアンティークが好きなんだい♪今どき絶対に見ないぞ!」


「(๑•́⌓•́).。oO まぁ趣味の問題かな?僕は何でも最新の物を好む今の御時世向きの人間じゃあ無い。昔の物は割りとしっかりと作られていて、ちゃっちく無いからね!」


「(٥´°ᗜ°)そらぁそうだが、君も変わってるよな!あっ、ごめん趣味の問題だからな♪」


「(•́⌓•́๑)✧こんなんで驚いてたらぶったまげるぞ!まぁどうぞ♪」


「|'◇'*)".。oO な!何だこりゃあ…」


彼の部屋に案内されてその意味が判った。その部屋の中はまさしくホームズの時代を思わせる造りだったのだ。


壁にはニョキっと鹿の角が飾って在るし、暖炉の上には大理石の半身像が飾ってある。


おそらくそれはあのローマの英雄・カエサルで在ろう。机も椅子もヴィクトリア調の物で統一されていて、良く磨きが掛けてあり光沢がある。


そして絵画も見事だ。彼の趣味がそこに凝縮されている気がした。油絵の淑女が笑みを浮かべて我々に微笑んでいる。


それはあの非業の死を遂げたといわれるマリー・アントワネットだった。でも絵の中の彼女はそんな事を微塵も感じさせない程の清楚さと品位を感じさせた。


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)もはや驚きで言葉もないよ♪」


それは私の本音であった。今どきこんな空間で暮らしているヤツがいるなんて誰が想像するだろうか。


すると中君はまたまた無邪気に笑った。


「✧(๐•̆ ᗜ •̆๐)だろうな♪でも悪くないよ♡僕みたいな男にはこういうのがお似合いさ♪」


そう言って私を誘った。


「⁽⁽ღ( •̀ ᗜ •́ *)さぁどうぞ♪そこにかけてくれたまえ!ゆっくり話すとしよう♪紅茶で良かったんだよな?いい茶葉がある。それを入れてあげるよ♪」


彼は続きの部屋に入っていった。お勝手になって居るのだろう。


しばらくぶつくさ言いながらお湯を沸かす音がしていたが、やがて二つのソーサーに乗せたカップを持って戻って来た。


「|• •๑)” ほら!どうぞ♪」


「|'◇'*)" あぁ…有り難う♪」


私はカップを受け取る。ダージリンの甘い香りが漂って来た。

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