告白
「私は三枝史郎と言います…宜しく♪」
私も彼の挨拶に応えて自己紹介する。如月中かぁ…何か睦月、如月、弥生…みたいな!
『(*゜ロ゜)…あぁ、そういやそんな名前の記憶がある…』
私は彼をずっと観てた割りには、名前を知ろうとしていなかった自分に気づいて苦笑した…。
『(*゜∀゜)…意外といい加減なのかな私!』
私は少し頭の整理が出来ずに、心の中が澱んでいる。そんな時に…
「君は僕の名前が気に成らなかった事がそんなに気になるのかね?私っていい加減かな…何て想ったりしてるのだろうが、そんな事は当たり前の反応だね!心配するには及ばんな…」
彼はそういうと、クスクスと笑っている。
Σ(゜Д゜ υ)『!!』
私は心の中を言い当てられた事にかなり動揺してしまった。そこで想わず尋ねた。
(^。^;)「君!何で判ったんだい?」
(´▽`)「そんな事は簡単な事さ!今、君の顔にそう書いてあったからね♪」
私は想わず、自分の顔に両の手をやって、ペタペタと触り始めた。それを眺めながら、彼…如月中君は、またケラケラと笑い転けている。
(`へ´*)全く良く笑う奴で、傍に人が居ないと、その行動に拍車の掛かる奴だ…失礼にも程がある。あんなに長い間、同じ職場に居ながら、それに気づかなかったのが、今更ながらにとても悔やまれた。
すると彼は、私を慰める様に…
「まぁ、(´~`)気づかなくても不思議は無いさ!僕はそういう人間に為り切っていたのでね♪むしろ気づかれた方が、不味いのだから、そう想ってくれていたなら成功だな…お陰で仕事も巧くいったし、万々歳だね♪」
とまたまた先を越す様に、私の気持ちに割って入った。
『((゜□゜;))…何だコイツは悟りの化け物か?』
私は時と共に目の前の男が恐ろしくなって来ていた。そこで気持ち腰が引けて来た。
「(*゜ー゜)…おいおい!そんなに嫌わないで欲しいな…僕は大した事はやっていないさ!(´~`)手品も仕込んで無いから、安心してくれたまえ♪君の今までの行動から少しばかり、想像してみたまでさ!僕にだって確信は無かったんだ…でもこんなにズバリ当たると確かに気持ちが悪いかもな(´▽`)♪」
彼はそう言うと、またケラケラ笑った。
(・・;)「いやいや…参ったよ!ホームズみたいな観察力と推理とかかと想ったからね、何だ!ただの勘なのか…でもその方が却って気持ちが悪いぞ!悟りの化け物かと想ったりしたんだぞ…」
私は少し失礼かな…と想いながらも、単刀直入に疑問を口にした。ところが彼はまた、眼をまん丸く(*゜ー゜)すると、想わずププっと吹き出した。
私は(`へ´*)ジロッと睨むと、「失敬な!」と猛烈に抗議した。
(´-ω-)/「いや悪い悪い…」彼はそう謝ると、おもむろにこう応えた。
(o≧▽゜)o「当たらずとも遠からずだな…君は、いみじくもホームズを喩えに出したが、僕に言わせれば、ホームズという依りはポアロかな?彼の得意分野は、情報収集と心理学だからね!それを灰色の脳細胞でぐるぐるとかき混ぜて、答えを出す!ホームズは勿論、話は聴くが、どちらかというと、現場の痕跡と人間の行動に依る推理の構築だからね♪あの有名な台詞は一度言ってみたいものだな!様々な可能性を排除して行き、最後に残った者がどんなに有り得ない結論で在っても、それが真実なのだ!…だったっけ?あれは名言だからね♪」
彼は愉しそうに淡々と言葉を口に出す。私からすれば、無口な彼を見慣れてしまっていたせいか、湯水の様に出てくる言葉の洪水に少し戸惑ったりしている。
それは滝の様になって、流れ出て行くのだから、そりゃあ、たまげると言うものだ。中君は、然も勿体振る様にこう口ずさむ。
「何で判ったか説明してあげようか?」
(o≧▽゜)o彼はニコニコしながら、そう語り掛けて来た。
(*゜ー゜)「…何でなんだ??」
私は想わず、そう口にする。本来ならば、ここで格好良く、相手の話に乗ってみてやる…くらいの事を考えてみたいものだが、それはあくまで小説の中だけの話であり、現実はそう巧く無い(^。^;)…。
「そうだな…ではひとつ考察してみようか?」
彼はそう述べると、先を続けた。
「僕がまず君に感じている事なんだがね…君は小説家なのだろうな?それもしがない小説家だ…と自分では想っている。違うかね?」
「当たりだ!なぜ判ったんだい?」
(; ゜ェ゜)私は想わず聞き返した。
「それはね…君が図書館で資料を漁っていて、その中身が、指紋と犯罪の考察であり、犯罪心理学だったからさ!君はどう見ても大学教授には見えない…第一、大学教授は工事現場であくせく働かないからな!次に考えられるのは、警察関係者か、或いは探偵という線もあるが、これも君には当てはまらないし、工事現場でバイトはしないだろう…。後は大学生だが、君は見た目にもそう若くは無い。まぁ昨今、年配者でも大学生という人も居るからね、一概には言えないが、そういう人は苦学生はしないだろう…。工事現場で働いて居て、しかもそんな本に興味があるとすればだ!…後、残るのは本当の犯罪者か、変わり者か、小説家くらいだろう♪君は犯罪者という領域からは程遠い、どちらかと言うと、真逆の人だな…そして変わり者かと言えば、それ程でも無い、どちらかと言えば、素直で優しい性格だろうから、此れを先程の公式に当て嵌めてみるとだな…残った者が真実という事になる。つまり君は小説家だという訳だな♪」
( ゜ェ゜)「成る程…良く判ったよ、でもしがない小説家だと想っているのはなぜ判ったんだい?」
私は躊躇無く、聞き返す。このくらいの寄り切りは私にも出来るのだ♪
彼はフフンとほくそ笑むと話を続けた。
「(o≧▽゜)o自信のある小説家なら、もうとっくに眼が出ているだろうし、そういう輩は、小説以外でも何かしら食い扶持を得ているものだからね…まぁ此れは確実では無い…強いて言う為らば、僕の偏見かな?それに僕は君の名前を聴いた事が無かった。立派に本を刊行している小説家なら、僕にも思い当たる節は在るだろうけど、君の名前は知らなかった。ゆえに君はまだ芽の出ないしがない小説家だという事に成る。最も君と違って、僕は職場の同僚の名前くらいは一度は耳にするし、必要無ければ忘れる事にしている。但し、君の場合は別だ!君は僕に興味津々で、ずっと眺めていたからな…そういう奴の名前は忘れない。そして工事現場で働く君は、妙に自信無さげに見えたからね…そういう自分の行動に自信が持て無い奴は、どの分野でも、そういう気持ちが働くかも?…此れも僕の偏見かな?だから僕には君が自分の事をそう想っているのかしら?…などと思えて成らなかったのさ!」
彼は少し歯切れが悪く、言葉を濁した。
(^-^;「確かに私はそう想っているからね…否定は出来ないよ、君の考えは当たっている。で!それが私の考えを先読みするのとどう関係が在るんだい?」
私は一旦、納得はしたものの、先の質問の答えには為っていない事には、気がついているから、先を促した。
(*゜ー゜)「あぁ…そうだったな!」
彼はもう興味が少し半減したのか、頭をボリボリと掻くと、面倒臭そうに話を続けた。
(*゜ー゜)「…君はね、自分が小説家だから、色んな事に目が行き届くと想っているだろう…それは君が僕の兄を観察していた仕草を観ていて判った事なのだ。君は絵に描いた様な喫茶店のマスターだとほくそ笑んでいた。此れは君が自分の観察力に自信を持っている事を如実に表している。そして同じ理由で、君は工事現場で僕を見掛けて、眺めていた。それも君が小説家としての自分の興味本位から出た代物だと思える節がある。しかしながら、君は僕がいみじくも指摘した様に、喫茶店の貼り紙には気がつかなかった。つまり、此れは君が興味がある事には神経を研ぎ澄ませるが、興味が無い事には、至って無神経な程、気がつかない事を意味している。君の観察眼とは残念ながら、その程度のものなのさ!そして僕の挨拶を受けた者は、大抵の場合、如月中の名前から、睦月・如月・弥生…などと単純な発想に行き着くものだ。君も目蓋を上向きにして、無意識に相槌を打っていたろう…はは~ん♪睦月…の件を想い描いているな?…僕は直ぐにそう考えた。すると次に考えられるのは、如月とは珍しい名字だな…そう言えばそんな名前を聴いた記憶が在るな…?そう発想を展開して行くと思ったのだ。だからあくまで勘だ…と前置きしたのだけどね!そして君は先程説明した様に、自分は小説家だから観察力には自信が在ると考えている…そうなると次に想い込むのは、興味があったのに、なぜ自分は名前を知ろうとしなかったのだろう?という細やかな疑問だ!君は自分に今一つ自信が持てない人だからね…だから短絡的に自分のいい加減さに羞恥すると考えた次第だ!それを説明もせずに、言い当てると、気持ちの良い事には、相手の驚きの表情に出会えるという訳さ♪判ったかね?ホームズがワトソンや依頼者を驚かして、喜び、相手に自分を凄い奴だと思わせる手法の真似事をしてみたまでだが、こんなに巧く填まると、やはり気持ちが良いものだな…何となくホームズの喜びが少し理解出来た様な気がするよ♪」
彼は長々と気持ち良さそうに、説明を終えると、また眼を細めてほくそ笑んだ。(^。^;)…私はあっけらかんとした顔をしながら、二の句が継げずに居た。成る程…今の話を聞いてみると、いちいち彼の考察は的を得ている。
彼は控え目にも、此れはあくまで勘だと言い張るが、私からすれば、彼は立派なホームズ張りの説得力が在った様に思われたのだ。此れは当事者がそう想う事が重要であって、他人にとやかく言われる筋のものでは無かった。
私は感心してしまって、想わずゴクリと唾を飲み込んだ。彼はそんな私の心持ちなど、もはや興味が無いらしく、コーヒーをグビグビと美味しそうに飲んでいる。そして、ひと息ついたかの様に、煙草をまた1本取り出すと、火を着けて美味しそうに好んでいる。
私はようやく気分が落ち着いて来ると、再び疑問に火がついて、そんな気持ち良さそうな彼に、今ひとたびその疑問を素直にぶつけた。
「今…想いついたんだが…名前を知ろうとしない事が、なぜ当たり前の反応なんだい?」
彼は煙草を燻らせながら、瞼を瞑って、寛いでいたが、私の言葉に片目を開けると、然もつまらん…という感じで口をアングリと開けた。
「そんなつまらん事になぜ気持ちが行くのか理解に苦しむが…」
彼はそう前置きをした上で、想わず嘆息すると、姿勢を正して、私を見つめた。
「ねえ?君!重箱の隅をつつく様な事を考えると、録な目には逢わないぜ!この機会に君にはそれを伝えておく事にしよう。物事は適当なところで切り上げるのが吉だ!余りしつこく追い過ぎると、痛い目に遇う可能性が増すのだ…それを教えておこう♪まぁ、しかしながら、此ればかりは実際に体験してみない事には、判らない領域かも知れないがね…では君の立っての願いを聞き届ける事にするか…でも余りにも下らない説明で、納得はしないかもな…でも現実世界では、そういう事は日常茶飯事であって、全てが辻褄の合う説明をしてくれるのは、君の目指す小説の世界だけだがね…」
彼はそう語ると、含み笑いをして話を続けた。
「そうだな…此れは君も思い当たる節があるかも知れないが、大抵の場合、人が相手の名前を切に知りたいと思う瞬間とは、異性に恋をした時だけだろう…?どうかね?此れで説明になると良いけどな!」
彼は苦笑しながら、端的に答えた。
(^-^;「確かにそう言われては、返す言葉が無いよ…」
私は素直にそれを認めた。聞いてみれば、確かに彼が苦笑するほど、つまらない事である。私は自分の考え無しに気が咎めた。
けれども、実はもうひとつ疑問が残っているので、ここで尻込みしてしまう訳にもいかなかった。そこでまた勇気を振り絞って、続けて尋ねた。
「後ひとつ聞きたい…君は私に感ずかれなくて、幸いだった。お陰で仕事が上手く運んだ…と言っていたが、それはいったいどういう事なんだい?」
私がそう尋ねると、彼は一瞬、眼を剥く様に私を見つめた。
「ほぉ~君も案外、隅に置けないね…成る程、小説家を志す人物ではあるらしいな!」
彼は感心しきりといった呈で言葉を続けた。
「君!ここまで話していて、まだ気がつかないのかと僕は不思議に思うのだがね…僕の職業はけして…工事現場で働く叔父さんでは無いのだよ♪君が自分の職業がある様に、実際僕にも職業はある。僕が何で殊更に無口を通して、あの現場を過ごしていたのか君には判るまいよ!こんなに饒舌で、言葉遊びが大好きな僕が、良くあれだけ我慢したと、自分でも大層、評価している。実際、あの演技には骨が折れたが、僕もプロの端くれだからな…結局は最後まで見破られる事無く、過ごす事には成功した。そのお陰で仕事が巧くやり抜けたのは、僕があの工事現場をさる依頼人に頼まれて、内定していたからなのさ!そうつまりだな、僕の職業とは探偵なのだ!しかもそんじょそこらの探偵じゃあ無い!かなり風変わりな探偵かな?実際、あの現場では、大麻の闇取引が行われていたのだ。それを内定していたんだよ!君はそう、良い奴だと仲良くしていたあの男だがね…あれが闇の売人だったのさ!君はどうも金が無いらしいので、彼は粉を掛けなかった様だが、あの現場で痛い目に在っていた連中は数多く、居たらしい。特に大学生で、親の脛を囓っている連中は酷く多かったのだ。さる大学の学長さんから、相談を受けてね、内定していたんだが、大学では時に大麻騒ぎで、新聞沙汰に成る事が在るから、君も聞いた事はあるだろう?君はたまたま貧乏で幸いだったな!彼が君に話し掛けに行っていた時には、気の毒に想ったものだが、どうやら感触的には不発に終わったらしく見えたから、知らん振りを決め込んでいたのだ!だから、先程言っただろう?重箱の隅をつつき過ぎると、後悔先に立たず何だぜ♪」
彼は涼しい顔でそう言い終えると、再び煙草に火を着けて、美味しそうに燻らせた。此れが私と探偵・如月中の出逢いである。