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田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている  作者: 錬金王
二章

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子供たちとトマト素麺和え


 ……なんか狭い。


 うちのリビングのテーブルは二人で使用する程度のものなので四人も座っているとやや手狭に感じてしまうな。


「それじゃあ、いただきまーす!」


「いただきます!」


 めぐるとことりは手を合わせると、箸に麺を絡めて口へと運んだ。


「なにこれ! めっちゃ美味い!」


「すごく美味しいです!」


 素麺を食べるなりめぐるとことりが目を見張らせて驚きの声を上げた。


「トマトがとっても甘いですね!」


「キュウリもシャキシャキして気持ちいい!」


「それはよかった」


 あまり若い子供が好むようなものではないかもしれないが、二人の舌にも合ってくれたらしい。


 猛烈な勢いで食べ進める二人を横目に俺とセラムも素麺をいただく。


「うん、トマトの甘みと旨みがしっかりと出ているな」


 さらには白だしとオリーブオイルからコクが出ており、麺によく絡んでいて美味しい。


「普通の素麺とは違った美味しさがある!」


「これも結構いけるだろ?」


「ああ!」


 セラムも気に入ったらしく、次々と小さな口の中へと麺が吸い込まれていく。


 そのすすりっぷりときたら堂々としており妙に勇ましい。


 俺も負けじと麺をすする。


 トマトの酸味と白だしがよく合うな。いくらでも箸が進んでしまう。


 塩を入れていないのでやや味が弱いかもと懸念していたが、白だしとトマトとオリーブオイルがいい味を出してくれているので問題はないな。


 もう少し黒胡椒を多く振りかけてやったり、粉チーズをかけてやれば、お酒のいいつまみにもなりそうだ。


「ジン! お代わり!」


「わ、私ももっと食べたいですッ!」


「ジン殿、私もお代わりだ」


「ちょっと待て。お前ら早過ぎないか?」


 口々に上がるお代わりの声に俺は突っ込む。


 俺はまだ半分も食べ終わっていないというのに。


 しかし、俺もバカではない。セラムはたった一人で六束以上を食べてしまう食いしん坊。それに合わせて食べ盛りの子供が二人もいる。


 お代わりを見越しておいて、俺は余分に麺を茹ででおいたのだ。


 冷蔵庫で冷やしていた素麺を取り出すと、予備として作っておいたトマトタレと再び絡めて盛り付けてやった。


 すると、めぐる、ことり、セラムが再び猛然とした勢いで食べ始めた。


 食いしん坊たちが大人しくなったことを確認すると、俺もゆっくりと自分の素麺を味わって食べる。


「「お代わり」」


「まだ食えるのか?」


「普段はこんなにたくさん食べないんですよ!? だけど、この素麺が美味しくて……」


「ジンの作る素麺が美味しいからしょうがない!」


「うむ。しょうがないな」


 冷蔵庫にある予備の麺とタレを確認してみるが、三人分のお代わりを支えるほどの量はない。俺は食べ盛りの子供の食欲を舐めていたようだ。


 めぐるの母親が面倒くさがって連日カレーにしていた気持ちが痛いほどわかった瞬間である。


 全員の胃袋を満たすのには予備だけでは足らず、結局また初めから作るはめになるのだった。




 ●




「はぁー……美味しかった」


「……もうお腹がいっぱいです」


 ぽっこりとお腹を膨らませためぐるとことりがリビングで仰向けに寝転がる。


 とても幸せそうな表情だ。


「まさかたった一回の食事で素麺が一箱無くなるとは……」


 めぐるが四束、ことりが三束、セラムが六束、俺が二束で十五束。


 夏のお中元として残っていた素麺は、まだ数回は食べないと無くならないと思っていただけに信じられない。


 めぐるとことりがいれば、毎年消費に悩まされている素麺もあっという間に無くなる。


 騒がしいばかりの奴らだと思っていたが、実に素晴らしい貢献をしてくれるものだ。


「二人とも、またお中元の季節になったら遊びにこい」


「さすがにそれは……」


「っていうか、それ以外の日も呼んでよ!」


 ことりが苦笑し、めぐるが明らかに不満そうな顔になった。


 さすがに魂胆が見え透いていたか。


 まあ、来年になったらコロッと忘れてやってきてくれるだろう。


「さて、そろそろ帰るぞ」


 既に時刻は二十半時を過ぎている。


 いくら親の許可があるとはいえ、年頃の中学生がいつまでも外にいるべきではない。


「帰りたくない! というか、泊まっちゃダメなの?」


「ダメだ」


「えー」


「そもそもうちに客用の布団なんてない」


 長年一人暮らしだった男の家に来客用の布団などあるはずもない。


 予備のものはセラムが使ってしまっているからな。


「あたしは畳とかソファーでいいよ?」


「私もどこででも寝られます!」


「そういう問題じゃない。今日は親御さんにきちんと帰すって言ったからな」


「「……はーい」」


 なおも食い下がるのできっぱりと言うと、二人は残念そうにしながらも頷いてくれた。


 速やかに帰宅の準備をすると、俺とセラムはめぐるとことりを送るために外に出た。


「あれ? 車じゃないの?」


「軽トラックは二人乗りだからな」


 セラムを留守番させても俺、めぐる、ことりの三人がいるので定員オーバーだ。


「後ろが空いてるじゃん!」


「そもそも軽トラの荷台は人が乗るところじゃないからな? 交通法違反だ」


「そ、そうなのか!?」


 交通法違反と聞いて、セラムが慌てた声を上げる。


「人が乗車できるのはあくまで乗車のために設備された場所だけだ」


 道路交通法五十五条に明文化されている。


「でも、この辺じゃよく後ろに人が乗ってるよ?」


「まあ、田舎だからな。なあなあになってるだけで本来はダメだ」


「はわわわ、私は知らぬ間に罪を……」


 明確な違反だと説明すると、セラムがショックを受けたような顔になる。


 まあ、あの時は異世界にやってきて初日でセラムはいろいろと混乱していた上に意気消沈していたからな。そんなことを忠告できる雰囲気ではなかった。


 というか、お前は一回の交通法違反を気にするよりも、普段からの銃刀法違反を気にしてほしい。今も帯剣しているので現在進行形で違反なのだが。


「では、祭りなどで荷台の人が乗っているのも違反なんでしょうか?」


 ことりが鋭い質問をしてくる。


「それは警察署長の許可がある特例だな」


 祭礼行事の荷台乗車は許可を得て認められている。ただし、急カーブのある場所は交通往来の激しい場所では認められない傾向が大きい。


「じゃあ、後ろに乗れないんだー」


「一度乗ってみたかったんですけどね」


「……ただ荷物を看守するためであったら荷台に人を乗せてもいいといった条件があってだな。お前たちがしっかりと荷物を見張ってくれるんだったら荷台に乗ってもいいぞ」


「みるみる! しっかり看守しとく!」


「私たちに任せてください!」


 残念そうな表情を一転させ、めぐるとことりは嬉しそうに荷台へと乗り込んでいった。


 俺とセラムは体裁を整えるためにコンテナなどを荷台に乗せて、落ちないようにベルトで固定する。めぐるとことりの乗車スペースが減ってしまうことになるが、二人は初めての荷台乗車なのでそ

れすらも楽しんでいる様子だった。


「ジン殿! 私が以前荷台に乗った時は――」


「あの時は納品の帰りだったから荷台は空だな」


「そ、そうか……」


 きっぱりと告げると期待していたセラムはしょぼんとした様子で助手席に乗り込んだ。


 シートベルトをして、エンジンをかけると後ろの窓から様子を伺う。


「出発するぞ!」


「いいよー! 出してー!」


 声をかけると、荷台に座っていためぐるとことりが振り向いて返事する。


「危ないから絶対に立ったりしてふざけるんじゃねえぞ?」


「はーい!」


「もし、お回りさんがいたら作物や農具が落ちないように見張ってるって言うんだぞー?」


「「はーい!」」


 二人の実にいい返事を耳にすると、俺はいつも通りに軽トラを走らせることにした。


「うわあ! ガタガタする!」


「そっちは快適に人が乗るためのスペースじゃないから文句言うな」


 搭乗場所ではないので悪路による振動がもろに伝わるのは当然だ。


 多少は我慢してもらいたい。


 段差などはゆっくり目のスピードにし、安定した一本道になるとそれなりの速度で走らせる。


「わああああ! 風が気持ちいい!」


「天井などがないので夜空もよく見えます!」


 後ろからめぐるとことりのはしゃぐ声が聞こえる。


 あちらは車内と違って天井や横の壁が一切ないからな。


 風がダイレクトに叩きつけられる。


 真冬などは地獄であるが、夏の夜などは非常に涼しく爽快感が得られるだろう。


「……楽しそうだな」


 きゃいきゃいとはしゃぐ二人をセラムがちらりと見て呟いた。


「いや、お前は前に乗っただろ」


「あの時は堪能する心の余裕がなかったのだ!」


 まあ、そうだろうな。あの時のセラムは心ここにあらずといった様子だったし。


「……後でなら乗っていいぞ」


 さすがに一度に三人を乗せるのは危ないし、荷物の看守という名目でも多すぎるからな。


「ありがとう、ジン殿! 楽しみだ!」


 なんて言うと、セラムは嬉しそうに前を向いた。


 今時、軽トラックに乗ってここまで喜ぶ奴がいるとはな。


 まあ、俺も子供の頃に爺さんの軽トラックの荷台に乗せられ、畑まで走ったりガタガタ揺られながら走った記憶が残っている。


 あの時はアトラクションに乗っているかのようでワクワクとしていたな。


 今のめぐるとことりも同じような気持ちになっているのかもしれない。


 十分ほど夜道を走らせていると、めぐるの家の前に着いた。


 三人兄弟がいるだけあって、かなり大き目の家だな。


「ほれ、着いたぞ」


「えー! もっと乗っていたかったー!」


「また今度機会があれば、乗せてやるよ」


「絶対だからね?」


 ぶうたれながらもめぐるは荷台から素直に降りてくれた。


「じゃあね、皆!」


「ちょっと待て」


「なに?」


 俺は運転席から降りると、敷地に入ろうとしためぐるを呼び止める。


「ほれ、土産だ」


「えっ! これってジンの畑で獲れたやつ!? いいの!?」


「ああ、忘れないようにことりにも先に渡しておく」


「私もこんなに貰っちゃっていいんですか?」


「ああ。店では売れない不揃い品だけどな」


「それでも嬉しいです! これにはジンさんの気持ちがこもっていますので!」


「そ、そうか」


 不揃い品とはいえ、ここまで喜んでもらえるとは思わなかったな。


「思えば、ジンから直接野菜を貰ったのって初めてかも! ……もしかして、あたしたちに惚れた?」


「ふ、ふええ!?」


「ふざけたこと言ってないでさっさと帰れ」


 あまり冗談に慣れていない子がいることだしな。


「はーい。それじゃあ、おやすみ!」


 しっしと追い払うと、めぐるは背中を向けて敷地内へと入っていった。


 きちんと彼女が玄関をくぐったことを確認すると、俺は運転席へと戻る。


「よし、あとはことりだな」


「あ、あの、後ろで一人だけだと心細いのですが……」


 軽トラを発進させようとすると、ことりが声を震わせながらおずおずと言ってくる。


 ここら辺は電灯が少ない上に住居の間隔も大きく空いているので非常に暗い。


 先ほどまでは年上のめぐるがいたから平気だったが、一人になったことで心細くなってしまったら

しい。


 身長が高く、言動も大人びているので高校生と勘違いしそうになるが、実際はまだ中学一年生だしな。


 どうしようかと思っていると、セラムが期待するような眼差しを向けてくる。


「あー、セラムも後ろに乗ってやれ」


「任せてくれ!」


 俺がそう言うと、セラムは颯爽と助手席を下りて荷台へと回った。


 二人がしっかりと腰を落ち着けたことを確認すると、俺は軽トラを発進させた。


 軽トラを七分ほど走らせると、ことりの家に着いた。


「セラムさん、ありがとうございました!」


「うむ。私も楽しかったぞ」


 ことりが荷台から降りてセラムと別れの挨拶をする。


「ジンさんもありがとうございました」


「ああ」


 わざわざ運転席にまで回ってきて挨拶をするとは相変わらず律儀な子だ。


 挨拶が終わるとすぐに家に向かうと思いきや、ことりは何かを言いたそうにもじもじとしている。


「どうした?」


「あ、あの……また勉強を教わりにいってもいいですか? ジンさんの教え方がすごくわかりやすかったので」


「……たまにならな」


「ありがとうございます!」


 毎度家庭教師のような真似はできないが、たまにやってきて教えてやるくらいの分であれば問題はない。


 ことりは嬉しそうに笑みを浮かべると、ぱたぱたと走って家の玄関へ向かう。


 最後にこちらに振り返って手を振ると、彼女は家の扉をくぐった。


「はぁ、疲れた」


 子供たちに何かあったらと思うとプレッシャーが半端なかったが、なにもトラブルが起こらなくてよかった。


 海斗は子供たちと遊ぶ度にこんなことをやっているのだから素直に尊敬する。


「……さて、家に帰るか」


「ジン殿、帰り道は少し早めで頼む! もっと強い風をダイレクトに感じてみたい!」


 荷台からキラキラと眼差しを向けてくるセラム。


 どうやら俺のお守りはまだ終わっていないようだ。


 俺は荷台に乗っているセラムに気を遣いながら家までの道のりを走らせるのだった。







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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

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