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ラブラブ?


 適当に時間が経てば勝手に目が覚めて家に帰る。


 そう思っていたのだが、うちのリビングで寝入っているめぐるとことりが起きる気配はない。


「……こいつらいつまで寝てるんだ」


 時刻は十八時半。俺とセラムが帰ってきてから二時間ほど経過していた。


 昼寝をするにしてもそろそろ起きてもいい頃合いなのに、まったくそんな素振りがない。


 セラムがそーっとめぐるとことりの傍に近づいて様子を確かめる。


「どうだ? 寝たふりとかしてないか?」


「健やかに寝入っているぞ」


 どうやら本当に熟睡しているようだ。


 昼間は勉強を頑張っていたし、疲れているのであれば眠らせてやろうと思ったが、さすがに寝過ぎだ。


「外も暗くなってきたし、さすがに起こすぞ」


「そうだな。二人のご両親も心配されるだろう」


 これ以上連絡も無しに遅くなれば、二人の両親が突撃してきかねない。


 俺とセラムは熟睡しているめぐるとことりを起こすことにした。


「おい、起きろ」


「う、うーん? あえ? なんでジンがあたしの家に?」


「ここは俺の家だっつうの。そろそろ起きろ」


「わ、わはは! ちょっとわき腹を足でくすぐるのはやめて!」


「なら起きることだな」


 いつまでもめぐるが寝ぼけている様子だったので足でわき腹をくすぐってやると、めぐるは身をよじりながら笑い声を上げて起きた。


「……あっ、すみません! いつの間にか眠ってしまったみたいで!」


 セラムに起こされ、目を覚ましたことりが慌てた様子で乱れた髪の毛を整える。


「にゅああああ! もうちょっと寝ていたーい!」


「バカ。これ以上寝ると夜になるっつうの」


「え? もうそんな時間なの!?」


「あそこの時計を見てみろ」


 寝ぼけたことを言う二人に向けて、壁にかかっている時計を指し示してやる。


「わっ! めぐるちゃん、もう十八時半を過ぎてますよ!?」


「いつの間にそんな時間に!?」


 正確な時刻を目にしてことりとめぐるが驚いた。


「あっ、宿題ならちゃんと進めたからね!? ほら! 数学のワークが二十ページも進んでるし、プリントだって終わってる!」


「わ、私も眠ってしまいましたが、ちゃんと宿題は進めていましたし、ジンさんのアドバイス通りに古文の現代語訳もしていましたよ!?」


「お前らがちゃんとしてたことはわかってる」


「え? そ、そう?」


「途中で様子を見に戻ったし、広がってるものを見れば進捗もわかるしな」


「怖っ! いつの間に見てたの!?」


「……まったく気づきませんでした」


 というか、宿題を進めていないのに眠っていたのならとっくに追い出している。


 やるべきことをやったみたいだから休憩させてやっただけだ。


「お前たち両親に何時に帰るって言ってるんだ?」


「特に言ってない」


「ですけど、そろそろ帰らないといけない時間ですね」


 大した娯楽施設もない田舎ではあるが、中学生の娘を持つ親からすれば、あまり遅くなるのは好ましくないだろう。


「俺たちはこれから晩御飯を作るからさっさと帰れ」


「え? ジン、これから晩御飯作るの!?」


「どんなものを作るんですか!?」


 これから用事があることをアピールして帰らせようとしたら、なぜかめぐるとことりが食いついてきた。


「はぁ? 今日獲れたトマトとキュウリを使って冷やし素麺を作るだけだ」


「あたしもここで食べたい!」


「わ、私もいいですか?」


「なんでだよ。自分の家で食べろよ」


「採れたて野菜の冷やし素麺とか絶対美味しいじゃん! それにどうせ家に帰っても三日目のカレーだし」


「いいじゃないか。三日目のカレーは美味いぞ」


「今週二回目のカレーだよ?」


「さすがに週二でカレーはしんどいな」


 めぐるの母親が豪快な性格をしているからな。カレーが大好きでも一週間のほとんどをカレーでは飽きてしまうかもしれない。


 とはいえ、今は夏休みだ。普段は外に出ている子供たちが毎日満足できる献立を考えるのはしんどい。同じ調理をする立場として、カレーに頼ってしまう気持ちもわからなくもない。


「あ、あの、えっと、私は別にそういうわけではないのですが、ジンさんの作る料理を食べてみたいです」


 ちょっと気まずそうにしながらも期待するような眼差しを向けてくることり。


 こっちはこっちで直球なのでシンプルに断りづらい。


「大人数で食べる方が楽しいし、たまにはいいのではないか?」


 セラムからの支援が入り、めぐるとことりから期待の視線が突き刺さる。


「……ご両親に連絡して許可が出ればな」


 俺がそう告げると、二人はポケットからスマホを取り出して母親へと電話をかけ始める。


 許可が出ればと苦し紛れに言うが、こういった場合に二人の母親から却下が出たことがない。


「ジン! いいって!」


「私もお母さんから許可が貰えました!」


 やはり、許可が下りてしまったようだ。


「……帰りは俺とセラムが送っていくって伝えとけ」


「「はーい!」」


 俺からの言葉を伝えると、二人はそれぞれの母親と一言二言ほど話すと電話を切った。


「ジンの家で晩御飯を食べるなんて初めて!」


「なんだかワクワクしますね……ッ!」


 夕食を共にできることにめぐるとことりは嬉しそうにはしゃいでいた。


 友人の家で夕食を摂るワクワク感はちょっとだけわかる。


 俺も海斗の家で初めて夕食を摂ることになった時はテンションが上がったものだ。


 まあ、今となってはもてなされる側ではなく、もてなす側なので準備をしないとな。


 台所に移動して冷蔵庫から食材を取り出すと、セラムもやってきてお湯を沸かす準備をしてくれる。夏の間に何度も作った料理だけあってセラムの動きにも迷いはないようだ。


「セラム、キュウリを微塵切りにしてくれ」


「わかった」


 鍋に水を入れて火にかけたセラムにキュウリの下処理を頼む。


 俺はトマトを水で洗うと、包丁でヘタをくり抜いてカットしていく。


 台所で調理をしていると、そんな俺たちの光景を珍しがってかことりとめぐるがやってきた。どうせ手伝わないのであれば、子供らしくテレビや動画でも見ていればいいものの。


「このトマトとキュウリはジンさんの畑で採れたやつですか?」


「ああ、そうだ」


「……このトマト、なんか微妙に形が歪んでない?」


「不揃い品だからな」


「えー、もっと綺麗な形のやつを出してよ!」


「形がちょっと歪だろうと味は変わらねえよ」


 全国の農家の気持ちを代弁する気持ちで俺は叫んだ。


 世の中には味は変わらないのに「形、色が悪い」「大きすぎ、小さすぎ」「傷がついている」などの理由で棄てられてしまう規格外や訳ありが多い。


 見栄えも重要なレストランならともかく、家庭で消費する分にはまったく問題がない。


 そういったロスがあると俺たち農家の収入も減少してしまい、フードロスも引き起こるのだ。


「というか、ここから微塵切りにするのに形もクソもあるか」


 今回はトマトを中心として使った和える素麺だ。


 トマトの形が綺麗であることはこの料理に関係ない。


 トマトを包丁で微塵切りにすると、大葉を丸めてこちらも千切りにする。


 葉脈を断ち切るようにすると香り高くなるのでオススメだ。


「ジン殿、キュウリを微塵切りにしたぞ」


「こっちのボウルに入れてくれ」


 トマト、セラムのカットしたキュウリをボウルに入れていく。


 チューブのおろしにんにく、オリーブオイル、白だし、黒胡椒をボウルに入れると、セラムがヘラで潰すようにして混ぜてくれる。


「おおー、二人で作業してると共同作業をしていると夫婦っぽい!」


「ぬえっ!? 普段の私たちはあまり夫婦っぽくないか!?」


「適当なこと言ってるだけだ。気にするな」


「えー? でも、ジンとセラムさんってあんまり新婚って感じがしないよ?」


 めぐるの探るような視線にセラムが露骨に身体を震わせた。


「そ、それはだな……」


「子供の前でいちゃつくわけねえだろ」


「じゃあ、あたしたちがいないところでラブラブってこと?」


「そういうことだ」


「「きゃー!」」


 セラムが余計なことを言う前に宣言すると、めぐるとことりは顔を見合わせて黄色い声を上げた。


「ねえねえ、ラブラブってどういうことしてるの?」


「それをお前らに言うわけねえだろ。後は素麺を湯がくだけだからあっちで待ってろ」


「ちぇー」


 しっしと手で追い払うと、めぐるとことりは大人しくリビングの方へと戻る。


 この年頃の子供は、ある程度の好奇心が満たされると満足するものだ。


 たったこれだけの情報で満足するなんて安い奴らだ。


「私とジン殿がラブラブ……」


 なんでお前が冗談を真に受けているのやら。


 俺とセラムの夫婦関係はあくまでの仮のものであって実際にそんなものじゃないだろうに。


 なぜかフリーズしているセラムを放置して、俺は沸騰した鍋に素麺を投入。


 時間通りに茹でると冷水で麺を冷やす。


 ザルでしっかりと水を切ったら、先ほど作ったトマトタレの入ったボウルに麺を入れて混ぜてやる。


 麺にしっかりとトマト、キュウリ、タレなどが合わさったらそれぞれの皿へ。


 最後にカットした大葉を盛り付ければ……。


「トマトとキュウリの和え素麺の完成だ」


「なにこれ!? 出てくる素麺と全然違う!」


「とても美味しそうです!」


 それぞれの分を配膳してやると、俺たちは座布団へと座った。







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