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長ナスの出荷作業

おかげさまで日間ランキング4位です。ありがとうございます。


 昼食を食べ終わると、長ナスの選別や調整作業に入る。


 そのためには、ナスを入れたコンテナを移動させる必要がある。これがまた重労働なのだ。


 なにせコンテナ一つで十キロ以上の重さがある。


 収穫作業で疲労した身体で、何個も持ち運ぶのは中々にしんどい。


「ジン殿、これを運べばいいのか?」


「ああ、あっちのテーブルで作業するからな。結構、重いから無理はするな――」


 などと注意しようとしたが、セラムはコンテナ六つを積み上げてひょいと持ち上げた。


「……は?」


 俺よりも華奢な体格をしたセラムが、コンテナを軽々と持ち上げている姿に唖然とするしかなかっ

た。


 一つ十キロだとしても六十キロだ。


 かなり鍛えこんでいれば無理ではない重さだが、そうでもない限り不可能だろう。


「どうしたのだ? ジン殿?」


「いやいや、それ一つで十キロ以上あるんだぞ? なんでそんなに持てるんだ?」


「私は騎士だ。これくらいの重さくらいどうということはない。と言いたいところだが、さすがに重いので身体強化の魔法を使っている」


「魔法……?」


「魔力で筋肉を補強しているのだ。これを応用すれば、速く走ったり、高くまで跳んだりと驚異的な身体能力を発揮できる」


 となると、初日に家を飛び出した時に車並の速度で走れたのもそのお陰というわけか。


 セラムの言葉を聞いて納得していたが、それよりも気になることがある。


「そもそもこっちで魔法を使えるのか!?」


「ああ、私のいた世界に比べると漂っている魔力は薄いが十分に使える」


 魔力やら魔法やらは空想の産物だと思っていたが、どうやら現代日本にも存在するようだ。


「となると、俺も使えたりするのか?」


「……無理だと思う」


 少し期待しながら尋ねてみると、セラムは首を横に振った。


「どうしてだ?」


「ジン殿をはじめとするこの世界の人には、そもそもの魔力が感じられない。恐らく、魔力を感知して練り上げる魔力器官が存在しないのだろう。魔力が存在していても、魔力器官がなければどうすることもできない」


 エネルギーはあっても、それを動かす動力機関がなければどうすることもできない。


 どうやら地球人にとって魔力は無駄の産物のようだ。


「厳しいことを言うが、仮にジン殿の身体に魔力器官があったとしてもジン殿の年齢で習得することは難しいだろう。魔法の訓練は幼少期から長い時間をかけて行われるものなのだ」


 そりゃそうだよな。セラムは自分で料理をする暇もないほどに、剣や魔法の稽古に時間をつぎ込んでいたと言っていた。


 そんな専門技術と言えるものを、素養もまったくない俺がすぐに習得するのは難しいだろう。もし、仮に習得できたとしてもかなり年老いているだろうな。


「そうなのか。魔法が使えれば、野菜を育てるのに便利だと思ったんだがな」


「魔法を使えると聞いて、真っ先に思い浮かべるのが農業利用とはジン殿らしいな」


 俺の呟きを聞いて、セラムがクスリと笑った。


 いや、それ以外の利用方法なんて思い浮かばないだろう。


「なあ、魔法で野菜を育てたりとかできないのか?」


 魔力とかで野菜の成長を促したりできないだろうか?


「それができれば、とっくに申し出ている。残念ながらジン殿が思うほど魔法は便利ではないのだ」


 どうやらそんな都合のいい魔法はないようだ。


 まあ、できたらできたで農業の面白さも半減するのでいいっちゃいいか。


 だけど、魔法の力で成長加減を操作できたら素晴らしかっただろうな。それができれば、短い期間で収穫に追われることもないのに。


 なんて農家泣き言を心の中で漏らしながら、コンテナに作業台の傍に持っていく。


 いつもなら何往復もする重労働だったが、セラムのお陰で二往復で済んだ。


 これは積み込み作業も随分と楽になりそうだ。


「選別作業とはどうするのだ?」


「汚れを拭き取りながらサイズごとに分けていくんだ。それをしながら長ナスに傷がないか、形が悪いものはないか確認する」


「傷のあるものや形の悪いものはどうすればいい?」


「形が悪いものは少し安くして売れるが、傷みが酷いものはどうしようもないな。傷んでいる部分を取り除いて家で食べるか、捨てるしかない。この長ナスなんかもダメだな」


「それだけの傷で売り物にならなくなるのか?」


 俺からすればかなりダメだが、セラムからすれば許容範囲なのだろう。


「俺たちは美味しくて安全なものをお客さんに届けないといけない。少しでも安全を脅かす可能性のあるものを渡すわけにはいかないんだ」


「なるほど。お客の安全を第一にか! ジン殿は徹底しているのだな!」


 セラムが尊敬するような眼差しを向けてくる。


 俺がというよりも農業組合とかって規模になるが、そこまでするとまた話が飛躍しそうなのでそういうことにしておこう。


 分類の仕方をセラムに教えると、俺たちは長ナスを手にして選別を行っていく。


 ナスを手に取って布で汚れを拭き取りながら、全体をくまなく確認。


 付着した汚れを取ってやると、一層とナスが艶やかな光を放つ。


 綺麗になったナスはとても綺麗で宝石のようだ。


「ジン殿が穏やかな顔をしている」


 黙々と作業をしているとセラムが珍しいものを見たかのような顔をする。


 今の俺の顔はそれほどまでに穏やかなのだろうか。


「収穫したものを磨いていると心が落ち着くんだ」


「まあ、それについては同意見だ。何も考えなくていい作業というのもいいものだ」


「おい、選別のことは考えろ。そのサイズはそっちのコンテナじゃない」


「すまない」


 俺が指摘すると、セラムが慌てて仕分け先を修正する。


 力仕事は頼りになるがこういう細かな作業をしている時は目が離せないな。


 とはいえ、農業初心者にしては十分過ぎる働きをしているので、多少のミスは許してやらないとな。


 長ナスの選別作業が終わると、次は袋詰めだ。


「セラム、袋にこのシールを張っていってくれ」


「しーる?」


 シールのことを知らないセラムのために貼り付け作業を実演。


 指で剥がして袋に貼り付けるだけなので、すぐに理解できたようだ。


「これでいいのか!?」


「ああ、それでいい。ドンドン張ってくれ」


「なんか楽しいな!」


 ぺたぺたとシールを張り付けて楽しそうにするセラム。


 子供が初めてシールの楽しさを知ったかのようだな。


 セラムのはしゃぎっぷりを横目に見ながら、俺はシールを張り付けた袋にナスを詰めていく。


「む? シールがもうないぞ」


「シール貼りは終わりだ。袋詰めを手伝ってくれ」


「わかった」


 シール貼り作業は一旦停止してセラムにも袋詰めを手伝ってもらう。


「五百グラムになったか?」


「うう、五十ほど足りないのだ」


「ははは、なら別のナスで試してみてくれ」


「ジン殿は先程から一切計っていないようだが、規定の重さに達しているのか?」


 笑いながら言うと、セラムが疑うような視線を向けてくる。


「経験者を舐めるな。俺くらいになると計らなくても手で持っただけで大体の重さがわかるんだよ」


「では、載せてみせてほしい」


 セラムの要望通りに袋詰めしたものを計りに載せると、ばっちりと規定重量だった。


「規定重量ちょうど……さすがは経験者だな」


「当たり前だ」


 とかいいつつ、あまりにもきっちり過ぎる数字が出てヒヤッとしたのは内緒だ。


 あと数グラム低ければ恥をかいていたところだ。危ない。


 袋詰めが終わると包装道具に差し込む。


 ガッチャンッという音が響くと、袋詰めしたナスが綺麗に閉じることができた。


「ジン殿! それは!?」


「バッグシーラーっていう包装道具だ。やってみるか?」


「やる!」


 キラキラとした瞳を向けてくるセラムに言ってみると、笑顔で頷いた。


 好奇心旺盛だな。


「袋の先端部分をねじって細くし、ここの隙間にねじ込むんだ」


「こうか?」


 セラムがバッグシーラーに袋の先端をねじ込むと、ガッチャンという音がして袋の先端が閉じられた。


「お、おおっ! ジン殿、これも楽しいな!」


「気に入ったのならドンドンやってくれ」


 この世界の道具が珍しいセラムにとっては、包装作業も実に新鮮で楽しいようだ。


 そんなセラムに袋とじを任せ、俺は出来上がったものを段ボールに入れていく。


 そうやって進行していると、あっという間に作業が終わった。


「この箱を軽トラの荷台に載せてくれるか?」


「ああ、白い鉄の馬車にだな! わかった!」


 そう頼むと、セラムが段ボールをまた一気に運んでくれる。


 その間に俺は道具を片付け、軽トラの荷台に積み上げた段ボールにシートを被せ、走行中に落っこちないようにしっかりとロープで縛りつけた。


「後は出荷するだけだ」


「私も付いていこうか?」


 軽トラに乗り込むと、セラムが運転席に近づいて言ってくる。


 とは言われてもここから先にセラムが手伝えることはない。


 こちらが想定していた以上にセラムは働いてくれた。遅くまで無駄に付き合わせるのも申し訳ない。


「いや、ここから先は俺一人で十分だ。家で休んでいてくれ」


「そ、そうか……」


「もしかして、一人で留守番するのが寂しいのか?」


「そんなことはない! 私は子供ではないのだ! では、行ってくるといい!」


 しょんぼりとしていたのでからかうと、セラムはズンズンと歩いて家に戻っていった。


 そうやってムキになるところがまだまだ子供だな。


 とはいえ、一人で長時間留守番をさせるも不安なので早めに帰ってくることにしよう。


 そう思いながら俺は軽トラを走らせることにした。






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