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夏休みの宿題


「いやー、この季節になるとかき氷が美味いわー!」


「……イチゴ味が至高」


「風鈴の音もいいですよね。聞いていると涼しくなってきます」


 畑から戻ってくると、めぐる、アリス、ことりが家の縁側に腰掛けていた。


 傍らにはかき氷まであり、自分たちで引っ張り出して作ったことは明白だ。


「セラムさん、ついでにジンもお帰りー」


「メグル殿、ただいま」


「家主なのに俺はついでなのか」


 セラムと俺が戻ってくるのに気づくと、子供たちがおざなりに出迎えの言葉をかけてくる。


「というか、なに平然と人の家に上がり込んでるんだよ」


 ここ最近、めぐるたちは毎日のように遊びにきていた。今までこんなことはなかったのにセラムがきてからだ。彼女が気前よく相手をするせいだろう。


「ええー? 別にいいじゃん」


「よくないわ。毎日のように来やがって自分たちの家で遊べよ」


「だって、あたしたちの家で遊んでたら両親が勉強しろーとか、仕事手伝えーとかうるさいんだもん」


 めぐるの言い訳にことりやアリスも控えめながらも頷いた。


 用は家で自堕落に過ごしていると両親がうるさく、俺の家に避難してきているらしい。


「だったら俺もうるさくしよう。遊んでないで夏休みの宿題をしろ。宿題をしないならうちの畑仕事を手伝え」


「のわああー! ジンやめて! そんな言葉をかけてくるのは母ちゃんだけで十分だよ!」


 親が言いそうな台詞を並べると、めぐるが発作を起こしたかのように縁側でのたうち回った。相当嫌らしい。


「めぐるのことだから夏休みの宿題はまったくしてないんだろう?」


「だって夏休みだよ!? 夏に休むと書いて夏休み。だったら、いつもやっている勉学を休んで遊ぶのは当然じゃん!」


「知るか。そんな文句は学校の先生に言え」


 俺に夏休みの文句を言われてもどうしようもない。


 誰もがそんな不満を持ちながらも通る道だ。耐えるしかない。


「まったくめぐるってやつは。少しはことりを見習え」


「ええ?」


 真面目な彼女を引き合いに出そうとすると、なぜか戸惑ったような声を上げられた。


 おかしい。


「うん? お前みたいな真面目なタイプはコツコツと進めてるか、既に終えている感じだろ?」


 念のために尋ねてみると、ことりは激しく視線を彷徨わせ、か細い声で告げる。


「え、えっと……まったくやってないです」


「バカな! ことりは八月上旬に終わらせているタイプだろ? お前までそんなんでどうする!?」


「ご、ごめんなさい!」


 言葉遣いが丁寧で落ち着いているから宿題くらいそつなくこなしていると思ったが違った。こいつもめぐると同類だった。


 この子が一番大人のようなメンタルをしていると思っていたのに裏切られた気分だ。


「甘いね、ジン。実はことりはあたしと同じなんだよ。やりたくないものはギリギリまで目を背けて放置する」


「やろうとは思っているんですけど、どうしても手がつかなくて!」


 めぐるがことりの肩に手を回し、抱き寄せられた彼女は恥ずかしそうに顔を覆いながら懺悔した。


 典型的なダメなやつらだな。と思っていると、ちょんちょんと袖を引っ張られた。


 視線を向けると、アリスがこちらを見上げて何かを言いたそうにしている。


 これは多分、自分にも聞けということだろうか?


「そういえば、アリスの宿題はどうなんだ?」


「……終わった」


「ええ! アリスちゃん終わってるんですか!?」


「あたしたちを置いていくなんて裏切者ー!」


 アリスの一言にことりとめぐるが悲壮な声を上げた。


 どうやらアリスも仲間だと思っていたが、彼女だけは違ったようだ。


 まさか一番年下で変わった性格をしているこの子が、真っ先に終わらせているとは予想外だな。


「アリスは偉いな」


「……特別に頭を撫でてもいい」


 これは撫でろということだろうか? アリスが催促のような視線を向けてくるので、おそるおそる頭を撫でてやる。


 すると、アリスは満足そうな顔になって鼻息を漏らした。


 なんだか動物みたいだ。


「メグル殿やコトリ殿にはどのような宿題が出ているのだ?」


「えっと、各教科のドリルに読書感想文、習字、標語とかかな?」


 めぐるが思い出すように宿題を羅列し、セラムが相槌を打ちながら聞く。


 この世界の学校に通う子供たちの宿題内容が気になるようだ。


「あとは理科の自由研究で天体観測がありますよ」


「天体観測というのは?」


 首をかしげるセラムに俺が軽く説明する。


「夜空を見上げて、天体の運行、変化なんかを観測することだな」


「星を見るのか! とはいえ、肉眼では限界があるのではないか?」


「肉眼でもある程度は見えるが、細かく見たい時は双眼鏡や望遠鏡なんかを使うと鮮明に見えるな」


「星が鮮明に見えるのか! それはすごいな! 見てみたいぞ!」


 星に興味があるのだろうか。意外にもセラムが食いついてきた。


「でしたら、今夜天体観測をしませんか?」


「おお! いいのか!?」


「はい、皆さんと一緒なら私とめぐるちゃんも宿題ができますから……そうだよね?」


「まあ、いずれはやらなくちゃいけないし、皆と一緒にできるならやってもいいかな」


 ことりの提案にめぐるも渋々ながらも頷いた。


 面倒くさいことも皆で楽しくできるなら立ち向かえる気持ちはわからなくもない。


「……私も行く」


 三人だけでなく、アリスも行くことになり会話が賑やかになる。


 どうやら完全に天体観測に行くつもりらしい。


「天体観測ってどこでやるんだ?」


「え、えーっと、どこか見晴らしのいい山にでも登って……」


「夜に女子供だけで山に行くなんて親御さんが許してくれるのか?」


「ジン殿、私は子供ではないぞ?」


 セラムが大人か子供かということは置いておいて、めぐるたちの両親がどう思うかが重要だ。


 セラムがその辺の男よりも強いことを俺はわかっているが、親御さんたちにはそんなことはわからないしな。


 足元の悪い夜道の中、誰の監督もないまま行かせるのは不安に思うはずだ。


「確かに私たちだけだと許してくれないかもしれませんね……」


 どこかしょんぼりとした様子で呟くことり。


「うちもそういうところ厳しいからなー。頼りになる大人の男性が付いてきてくれないかなー?」


「ああっ! そうですね! ジンさんがいれば、お母さんたちも許してくれるかも!」


「……ジン、きて」


 めぐるのあからさまな言葉に反応し、ことりやアリスが期待するような眼差しを向けてくる。


「ジン殿、私からもどうか頼む!」


 そして、隣にいるセラムも両手を合わせて頼み込んできた。


 天体観測の案が上がってからこうなるんじゃないかと思っていた。


「はあ、しょうがないな。とはいえ、俺だけでは面倒も見切れないから、海斗にも声をかける」


「「やったー!」」


 ため息を吐きながら了承すると、めぐるたちは嬉しそうな声を上げた。


 早めに宿題をやれと言っておきながら、ここで協力しないというのもカッコ悪いからな。


 俺はスマホを取り出すと、海斗へと電話をかける。


「ジン、どした?」


「あー……今夜、子供たちを連れて天体観測に行くんだが、お前も付いてきてくれないか?」


「天体観測って夏休みの宿題だな? いいぜ、俺の車で乗せてやるよ」


 さすがは面倒見がいいだけあって、突然の誘いにも関わらず海斗は了承してくれた。


 軽トラでは子供たちを乗せることができないので非常に嬉しい返事だ。


「助かる。お前の家に望遠鏡とかあったよな?」


「あるぜ。それも持って行く」


 もろもろの集合時間や大まかな予定を伝えると通話を切った。


「というわけで、海斗も来てくれることになった。帰りは車で自宅まで送ってやるから、そのことも含めて両親に許可をもらってこい」


「わかった!」


「わかりました!」


 結果を伝えると、子供たちが実にいい返事をして走り去る。


 そんな元気な後ろ姿を俺とセラムは穏やかな笑みを浮かべながら見送った。





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