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農協


 車で走ること二十分。俺たちは地元の農業組合所にたどり着いた。


 組合所の前ではたくさんの軽トラやバンなどの車が並んでいる。


「ここがジン殿の卸し先なのか?」


 助手席から組合所の建物を見上げながらセラムが尋ねてくる。


「ああ、卸し先の一つだな。ここは農業組合っていう場所だ」


「農業組合というのは?」


「農家たちの扶助組織みたいなもんだ。農家といっても一つ一つの規模は小さいからな。助け合っていかないと厳しいところがある」


「助け合うとはどういったことをするのだ?」


「一緒に肥料を買って使ったり、農作業機械を買って共有したりするな。肥料はともかく、機械なんかは一人で買うととんでもない金額が必要になるからな。あとは農家同士で情報を交換できるのもメリットだな」


 最近流行っている病害を知ることで備え、対策することができるし、おすすめの肥料や栽培方法を試してより効率的で美味しいものを作れたりする。


 そういった情報のやり取りも農協に所属するメリットの一つだろう。


「なるほど。冒険者ギルドのようなものか」


 概要を説明すると、セラムが納得したように頷く。


 異世界の冒険者ギルドとやらがどんな組織かはわからないが、イメージしやすいものがあらそれでいい。


「それで農業組合とやらはどんなことをしてくれるのだ?」


「野菜や果物を買い取ってくれて卸売り市場に出荷してくれるんだ。面倒な事務作業や販売の開拓なんかは一切する必要がない」


「ほう、それは非常に便利だな!」


「ただ、組合にもデメリットはある」


「それは?」


「価格の設定権がないことだな」


 通常、自分で作ったものは自分で値段を設定することができる。しかし、組合に提出した場合は値段の決定権は組合にある。


 たとえば、今回出荷するトマトはとても品質が良く四百円の出来栄えだ。と自分で思っても、組合が二百円だと査定を出せばそうなってしまうのだ。


「それは困る! いいものを作っても安く買い叩かれてしまうではないか!」


「組合も意地悪しているわけじゃない。地域の流通や季節を見て値段を査定しているだけだ。その代わり、俺たちのような小さな農家でも誠実に対応して買い取ってくれる。大量に持ち込んでも買い取りを拒否されることもないしな」


「な、なるほど。それぞれの良さがあるのだな」


「そうだな。逆に例に出したもののようにいい物を高く売りたいなら直売がいい」


「ジン殿の美味しい野菜であれば、そちらがいいのでは?」


「その代わり、すべての事務作業を全部やらないといけないんだ」


 マーケティング、販路開拓、営業、価格交渉、webページ作成、広告ポスター作製、納品書や請求書などの書類作成をすべて自分でやらないといけないのだ。


 それらを全部一人でするのは現実的ではない。


「美味しい野菜をたくさん作っても、ちゃんとお客の手元に届かなければ意味がないからな」


 ただ何も考えずに美味しいものをたくさん作ればいいというものではないのだ。


 そんな風に話していると、車が進んで組合所に入ることができた。


 組合所に入ると、軽トラから降りてトマトの入ったコンテナをひたすらに下ろす。


 いつもは一人だが力持ちのセラムがいてくれるお陰でとてもスムーズだ。


 荷台からコンテナをすべて下ろし終えると、誰が作ったものかわかるように伝票を置いておく。


 ここで俺たちの役目は終わりなので、適当なところで帰るのだが、今回はセラムが出荷までの流れを見たいようなので留まることに。


 しばらくすると、フォークリフトがやってきて俺たちの収穫したトマトの入ったコンテナを集荷所へと次々運んでいく。


「お、おお!」


 普段目にすることのない機械を目にしてセラムが驚きの声を上げる。


 しかし、その興奮した様子は徐々に冷めていく。


「……ジン殿、あれなら人が運んだ方が早いのではないか?」


「この世界の住民は、お前みたいに魔力や魔法が使えるわけじゃないんだよ」


 セラムからすれば遅い上に、運べる量も少ないのかもしれないが一般人にとってはとても便利で心強いのだ。ファンタジックな異世界を基準にしないでもらいたい。


 運ばれたコンテナはそのままベルトコンベアに載せられ、二階へと運ばれていく。


「あっ、私たちのトマトが……」


「二階の選果場も見ていくか?」


「見たい!」


 残念そうにするセラムに言ってみると、嬉しそうに笑った。


 作業場に無暗に立ち入るのはよくないが、きちんと許可を取って節度を守れば問題ない。


 わくわくした様子のセラムを連れて階段を上がり、見学の許可をもらって中に入る。


 ここではたくさんのベルトコンベアが稼働しており、集荷されたコンテナがいくつも流れていた。


「すごい量のトマトだな」


「俺たち以外のトマトもあるからな」


 付近の農家たちが収穫したものが一気に集まっているので、トマトの数は膨大だ。


 しかし、これでも全国的に考えるとほんの一部でしかないのだからすごい。


「あっ、私たちのトマトだ!」


 見学していると、ちょうど俺たちの目の前をコンテナが通った。


 それを追いかけていくと、やがてコンテナからトマトが出され、仕分け員のところへと流れていく。


「あそこで形、色、大きさ、傷なんかを査定して秀品、優品、良品とランク分けされるんだ」


「私たちのトマトはどのランクなのだ?」


「今回は出来が良かったし、優品……が多いはずだ」


 仕分け員を凝視していると、優品へと仕分けられているものが多かった。


「うん、前よりも優品の割合は多いな」


「それはいいことだな」


 やがて仕分けされたトマトが仕分け員によって箱詰めされていく。


「さすがは俺の育てたトマト。めちゃくちゃ綺麗だな」


「うむ、他のトマトよりも輝いて見えるぞ」


 自分たちのトマトを自画自賛していると、仕分け員たちが苦笑する。


 自分の手で育てたトマトだ。一番可愛いに決まっている。


 やがて箱詰めされたトマトは機械によって梱包され、ベルトコンベアによって一階に運ばれる。


 傍には大型トラックが待機しており、フォークリフトが次々とトマトの箱を積み込んでいた。


「最後にああやってトラックに積まれて、全国に運ばれるってわけだ」


「おお、あの車はどこに行くのだ?」


「九州だって聞いたな」


「それは結構遠いのか?」


「車で行っても十五時間以上かかるな」


「ジン殿の車でそれくらいかかるのであれば、かなり遠いところなのだな。そんなところにまで運べるとは、組合所とはすごいのだな」


 飛行機や新幹線を使えば、行くだけならもっと短時間で済むのだが運ぶとなれば別だ。


 個人で販路を持つことは中々に現実的ではない。そういった場所に販売できるのも組合所のメリットだろうな。


「さて、そろそろ帰るとするか」


 俺たちのトマトは既にトラックへと積み込まれた。


 十分に施設も見学したし、これ以上の長居は迷惑だ。


 俺たちは組合所を出て、駐車場に停めた軽トラに乗り込んだ。


「出荷を見るのは面白かったか?」


「うむ、収穫した野菜がどのように運ばれていくのか見ることができて良かった。連れてきてくれて感謝する」


「そうか。また余裕のある時は連れて行ってやるよ」


「ぜひとも頼む!」



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