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竹斬り

 

 竹を取るために茂さんの所有している竹林にやってきた。


「おお、ここが竹林! 竹がいっぱい生えているな!」


 見渡す限り生えている竹を見て、セラムが圧倒されたような顔をしていた。


「さすがに日陰が多いから涼しいな」


 ここにやってくるまでは干からびる勢いで汗をかいていたのだが、竹林に入ると太陽が遮られ、涼しげな空間へと変化していた。


 見上げると竹の隙間から覗き込む青空がとても綺麗だ。


 田舎では緑と青のコントラストなんてどこでも見られるが、竹の隙間から見えるこの小さな光景には趣があるように感じられた。


 風が吹く度に、笹の葉が揺れて潮騒のような音を奏でていた。


「さて、早速竹を切るか」


 今回の目的は竹林散策ではなく、竹取りだ。


 涼しくて居心地が良いのでゆっくりしたくなるが、のんびりしている場合じゃない。


 ここで時間をかければかけるほど流し素麺までの道が遠くなる。


「どの竹を切ればいいのだ?」


 素麺を流すためには細過ぎず、太過ぎないものがいい。


「このぐらいの太さのものでいいだろう」


「そうだな。そんくらいの太さでいいだろ」


 厚さにして二十センチくらいか。これくらいの太さであれば、流し素麺で使うにはちょうどいいだろう。


「そんじゃ俺はあっちの方で切ってくるわ」


「わかった。俺とセラムはこの辺りのものを切る」


 竹は長いので近くに人が居ると危険なので、互いに距離を取って竹を伐採することにする。


「よし、ゴム手袋とゴーグルは装着したな?」


「うむ、問題ない!」


「まずは竹の切り方を見せる」


 俺は手身近な竹に近づく。


「まずは竹がどちらに倒れたがっているのか重心を確認する。この場合だと奥に重心が偏っているので、切り口が開いていく手前にノコギリを差し込んで切っていくんだ。逆に裏から切ると、竹の重みでノコギリが挟まってしまうから注意が必要だ」


「なるほど」


 説明しながらノコギリを動かしていくと、セラムが納得したように頷く。


「あとは繊維に気を付けることだな。竹は割れやすいから繊維が飛び散ることがある。そのためにゴーグルで目を守ることは必須だ」


 ゴム手袋を装着している理由も同じだ。


「以上が気を付ける点だ。できそうか?」


「問題ない! 任せてくれ!」


 実にいい返事をするセラムに俺は竹伐採用のノコギリを手渡してやる。


 すると、セラムは俺から少し離れた竹を見つけ、ノコギリを差し込んだ。


 手慣れた動作でノコギリを操作すると、あっという間に竹を切断。


 バキバキと音を立てて、竹がゆっくりと倒れた。


「こんな感じだな?」


「ああ、それで問題ない」


 屋根瓦の修理作業の時と同じように実に手慣れた動きだったな。


 工兵としての訓練を受けていたらしいので、こういったノコギリ作業も慣れているのだろう。


 セラムが問題なく伐採できているのを確認すると、こちらもノコギリを動かす。


 ちょっとした竹ならすぐに切れるが、二十センチほどの厚さになると竹も固くなっており、中々すぐに切ることができないな。


 妙にしなりがあるせいか妙に動いてしまって切りづらい。


 そんな感じで悪戦苦闘すること五分。ようやく一本の竹を切り落とすことができた。


「……意外と時間がかかるな。こんなことならチェーンソーでも借りればよかったか」


 とはいえ、今さらそんな後悔をしたところで遅い。


 今から取りに戻って借りるより、このままノコギリでやった方が早いのだから。


 倒れた竹を引いて回収すると、セラムも三本ほど竹を持ってきた。


 この短時間で三本も伐採できるとは、相変わらず身体能力が高いな。


「なあ、ジン殿。提案があるのだが良いだろうか?」


「なんだ?」


「剣を使ってもいいだろうか?」


 竹を地面に置いたセラムが自らの腰に佩いたものに手を当てながら言う。


「それは剣で竹を斬るってことか?」


「その通りだ。おそらく、ノコギリで切るよりもずっと楽で時間も短縮できるだろう」


「そもそも剣で竹を斬れるのか?」


 名人が刀で竹を斬ったりするのはテレビで観たことはあるが、実際に斬れるのかどうか素人である俺にはわからない。


 そもそもセラムが佩いているのは刀じゃなくて剣だ。綺麗に竹を斬れるものなのだろうか?


「ジン殿、私の腕を疑っているな!? これでも私は王国に仕えていた騎士だ! 竹程度であれば、豆腐のように斬ってみせるぞ!」


 心外だと言わんばかりに激昂してみせるセラム。


 どうやら俺の疑問はセラムの騎士としての矜持を逆なでするものだったらしい。


 そこまで言うのであれば、やらせてやってもいいか。


 ここは茂さんの所有している竹林で、許可をもらった俺たち以外に誰かが入ってくることはない。


 唯一の懸念点である海斗は、俺たちから離れたところで竹を伐採しているし見られることもない。


「いいだろう。ならやってみろ」


「うむ。ジン殿は少し離れていてくれ」


 言われた通り、セラムから距離を取る。


 セラムは鞘に納められている剣をゆっくりと抜き放つ。


 シャランと金属が擦れるような音が鳴り、白銀の刀身が露わになった。


 普段は摸造刀をぶら下げているようにしか見えないが、こうやって抜いた姿を見ると迫力が段違いだ。


 思えば、セラムがこうやって剣を構えている姿を目にするのは初めてだな。


 前回は抜いてすぐに田んぼに倒れてしまったし。


 固唾を呑んで見守っていると、中段で剣を構えていたセラムが動いた。


 そう思った瞬間には、すでに剣が振り抜かれていた。


 一閃、二閃、三閃と光が走ったかと思うと、遅れるようにして三本の竹が斜めに落ちた。


「すげえ! 竹が一瞬で斬れた!」


 切り口を確認してみると、ノコギリで切ったものよりも遥かに綺麗に切断されている。


 ただ単に鋭利な刃物で斬りつけただけではない、きちんとした技量の証が断面にはあった。


「ふっ、これくらい騎士ならば当然だ」


 平静を装っているつもりだが、セラムの表情はどことなく緩んでいた。


 剣の技量を褒められて嬉しかったらしい。わかりやすい。


「それにしても、久しぶりに剣を振るうと気持ちがいいな」


 どこかサッパリとした顔をしながらセラムが剣を見つめる。


「お前、作業時間短縮は建前でただ剣を振りたかっただけだな?」


 ギクリと肩を震わせたセラムの反応を見て、俺は推測が正しかったことを確認した。


 セラムにしては妙に提案が理屈的だったのでおかしいと思っていたのだ。


「うっ、しょうがないではないか! ここにくるまでは毎日振っていたのだ。それがこっちでは銃刀法違反とやらのせいで満足に振ることができないのだぞ!? 私の気持ちにもなってみてほしい!」


 毎日、弓道や剣道をやっていた者が、急に修練できなくなったかのような感覚だろうか。


 俺にはそういった修練をやった経験がないので気持ちがわかるとはいえないが、今まで習慣化していたものを急に禁止されれば不満が溜まるのも仕方がないのかもしれない。


 明日から急に畑をいじるなとか言われたら、俺も途方に暮れてしまいそうだ。


 何とかしてセラムに息抜きをさせる方法を考えた方がいいのかもしれない。


「なんかすげえ音したが大丈夫か?」


 なんて考えていると、竹を抱えて海斗がこちらにやってきた。


「剣を仕舞え」


「あっ、ああ!」


 ボーッとしているセラムに言うと、彼女は慌てて剣を鞘に戻した。


 もう少し危機感を持ってもらいたい。


「同時に竹が倒れただけで問題はないぞ」


「そっか。おー、そっちは結構切ったなー」


「そっちは何本だ?」


「三本」


「これだけ切れば、茂さんに渡す分も十分だろう。そろそろ引き上げるか」


「だな!」


 流し素麺をするには予備も含めて二本もあれば十分だ。


 茂さんがお裾分けするために多めに切っただけなのでこれくらいで十分だ。


「ならば、これを車まで運べばいいのだな?」


「あはは、セラムさん。竹は結構重いから無理はしないで俺たちに任せればーーええっ?」


 へらへらと笑っていた海斗だが、セラムが一気に竹を三本担いだことで真顔になった。


「こう見えて力には自信がある。気持ちは嬉しいが、そこまで気を遣ってもらわなくて大丈夫だ」


 一方、セラムはそんな海斗の驚きには気づかずに、にっこりと笑って歩いていった。


 スタスタと歩いていくセラムの背中を呆然と見送る海斗。


「というわけで、セラムは力持ちだから気にしなくていい」


「……いや、力持ちってレベルじゃない気がすんだけど?」


 俺の言葉に納得がいかないのか、海斗が竹を三本まとめて担ごうとする。


 顔を真っ赤にしながら持ち上げようとするが、竹が持ち上がることはなかった。


「「…………」」


 無理をせず、俺たちは一本ずつ肩に担いで車に運び込んだ。



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