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「じゃあ悠太くんお大事にー」

「うっす、ありがとうございます」

ガラガラと診察室の扉を閉め、深呼吸を一つ。

ギブスから解放された手を軽く動かそうとするが上手く力が伝わらない。

しばらく使ってなかったので、筋肉量が減って女の子みたいになっている。

診察をしてくれた女性の主治医が言うにはリハビリが必要らしい。


もう少し松葉杖の要る生活は続きそうだが、ギブスが外れた俺の気分は最高潮だ。

ちょっと松葉杖無しで歩いて見ちゃったりして〜。

スッと松葉杖を床から浮かしてみた。ガクンと左膝が折れ、慌てて立て直す。やっぱどれだけ気分が良くても駄目か。


診察室から少し歩いた所にあるベンチに同居人の麗奈れいなが白ワンピースに黒のカーディガンを羽織った清楚スタイルで姿勢良く腰掛けて読書をしている。


「麗奈ちゃんお待たせ、見てくれ!ギブスが外れたんだ!」

麗奈が本から目を離し、俺の方を向いたので、ギブスの外れた右腕を上げ、フリフリと手を振り自由になった事を証明する。

失声症により声を出して話せない麗奈だが、最近少し変わったことがある。


「…………ゅーた」


蚊の鳴くような声ではあるが短い返事や、俺を呼ぶ時だけ、声を出してくれるようになった。

笑顔の練習と声を出す練習の賜物だ、表情の方は表情筋が退化しきっていて、あまり成果は出せていないけど。

1ヶ月も一緒にいると何となくだが、表情の変化やスマホの文字が無くても、麗奈の気持ちがわかるようになってきた。

ちなみに今は、哀愁を撒き散らしている。なんで?


「おう、何で悲しそうなんだ?」


読んでいた本にしおりを挟むと膝の上に置いていたトートバッグにしまい、スマホを取り出した。

チラッと見えた本には『年下男の娘は年上クールなお姉さんに夢chu〜♡』という、何とも複雑な気持ちになるタイトルがついていた。

それが良いなら、海が差し入れで持ってきた例の本も許されてもよかったのでは?


「………………ぁぃ」

文字を打ち込み終わったのか、画面をこちらに向けて来たので、隣に腰掛けて画面を注視する。


『だって、トイレのお世話やお風呂のお世話がいらなくなってしまって……お姉さんの仕事が無くなってしまう(´;Д;`)』


風呂は別として、トイレの世話は要らないって断っていたのに強制的に手伝ってた気がするんだが。


「そんな大袈裟な。でも、1ヶ月も面倒見てくれてありがとうな」


『それはお姉さんが好きでやってた事だから良いんだよ(*´◒`*)これからもお姉さんに任せても良いんだよ?』


本当に、麗奈が好きでやっている事なので手に負えない。この美人なお姉さんは、男性恐怖症の筈なのだが、同じ事件の被害者という共通点を持っていて、女顔である俺だけはトラウマを発症する事なく接する事ができるようで。


骨折によって健常な生活を送れなくなった俺を面倒見るうちに、女顔の俺を羞恥に染める、何とも傍迷惑な性癖に目覚めてしまわれた……。

なので、風呂、トイレに至るまで着いてくるようになった。


相手は文字だけなので何の話か他人からはわからないが、ここは病院で、人通りがあるので、性癖歪みまくってますね。とツッコミたいのは山々だが、決して口には出さない。

「これからは自分でするから、もう麗奈には苦労掛けなくて済むな」

『これからもお姉さんに任せてもいいんだよ?』

「いやー、麗奈ちゃんには本当感謝してる。助かった、ありがとうな」


ハハッと麗奈の戯言を笑い飛ばして頭を撫でる。

『これからもお姉さんに任せなさい』

無視を続けた結果、選択肢が無くなった。

トイレをする時他人が一緒の個室に居ると落ち着かない。どうにかわかっては貰えないものか。麗奈が納得する言い分を思案してみる。


「俺も年頃の男だからさ、女性にそう言う事はさせたくないな、麗奈も俺に見られるのは恥ずかしいだろ?」

『私は別に気にしないよ。むしろ君が見るのを恥ずかしがってるのを見れそうだから興奮する(//∇//)』


変態さ加減が増してやがる。


「でもほら、もう1人でも大丈夫だから」

『約束』

「足が治るまでって言っただろ……。お互い約束は守ったでしょう」

『ううん、まだギブスが外れただけだよね(о´∀`о)じゃあまだ治ってないからお姉さんに任せてもいいよ』

ここで折れたらこの先なし崩し的に一生自分でトイレに行けなくなる気がする。

出来れば麗奈が悲しむ顔は見たくはないが、ここで心を鬼にして、突き放さなければ麗奈は、これがおかしい事だとは気付かないだろう。


「麗奈、己の欲の為に、相手の自由を阻害するのは良くないとおm」

『君がお風呂でお姉さんと涼夏ちゃんの名前を呟きながらしていた事、お姉さん誰にも言ってないんだけど。今日あたり口が軽くなっちゃいそうかも(๑>◡<๑)』

「分かった。これからもお姉さんにお願いします」


もちろん、名前を呟きながら……と言うのは麗奈の嘘で、出まかせだ。でもその時心の中で思い浮かべては居たので否定もできない。

罪悪感を燻るのがうまいやつだ。俺は今日も年上のお姉さんに翻弄されている。


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