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「良かったな静香!夢に向かって一歩前進だな!」
こいつ、良いやつだな。
学校で会えるとは言え、好きな人なら近くにいて欲しいだろうに、なんの躊躇もなく応援して送り出せるんだ。
「海、応援してくれるの?」
「当たり前だろ、俺達は幼馴染なんだから!それにやっと自由になれたんだ。やりたい事やらないと」
「ありがとう海、大好き」
そう言って、静香が満面の笑みを花咲かせ、ニコリと笑った。
その笑みはなんの屈託もなく、綺麗で年相応とはとても言い難く、幼な気な少女を連想させる。
俺に向けられたものであったら、きっと、言われた言葉も相待ってデレデレになってしまう事間違いなし。
現に隣の海もニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を浮かべている。
これは?急展開の予感。
「お、おー、俺も静香の事大好きだぞ」
人の恋路を心配していた訳ではないが、なんだ、こいつらしっかり両思いだったんだな。
「海くんもたまには店に来てくれ、歓迎するぞ」
「あざぁっす!是非行かせてもらいます!」
『幼馴染ってシチュいいね(о´∀`о)キュンキュンしちゃう(//∇//)』
『まるでドラマ見てるみたいだな』
『私もこんな恋したいです!悠くん!』
麗奈の言葉に、麗奈のスマホを借りて麗奈と、涼夏とやり取りをする。
若干一名割り込んでいるものの、凄く良い雰囲気なので声に出しては話しづらいのだ。
『お姉さんもー!(*´◒`*)』
麗奈に恋人……だと!?
『悠くんは……そう言う意味じゃないと思うよʅ(◞‿◟)ʃ』
何だその顔文字、じゃあどう言う意味なんだ。
『はーいパパ(╹◡╹)♡』
やっぱうちの娘は可愛いや。
『麗奈さん可愛い!!ところで2人は付き合うのかな。静香と海くんの事ね』
『確かにそれは気になる(*゜▽゜*)悠太聞いてよ』
なるほど、君って言えないタイミングだと呼び捨てになるのね、ありだなそれも。
『任せろ』
たった今青春を謳歌しているであろう2人+余計な1人がわいわいと盛り上がっている所に、切り込むのには勇気がいるな。
「てことで、2人は付き合うって事でいいのか?」
ここは雪兄譲りのデリカシーのなさを存分に披露させていただくとするか。
当の本人は初めて見つけた同志に心躍るようで、この話題には興味はなさそうだが2人は違う。
決定的に付き合うなどは言っていない、がそう言う関係になりたいのだろう。俺がそう言うと、2人とも顔を真っ赤にして見つめ合っている。
「どどどどど、どうなんだ?静香!」
「ううううううう海こそ!わわ私のことどう思ってる?」
どもりに吃って、沈黙してしまった。
どうせ付き合うんだろこいつら、早く爆発しろ。
俺の家でお砂糖マックスみたいな空気撒き散らすな。
「俺は!幼い頃から辛い目にあってきた静香をこれからは俺が支えて行けたらと思ってる、勿論付き合えたら最高に嬉しい」
「私も、昔からずっと一緒に居てくれた海と……そういう、関係になれたら嬉しい」
「ふむふむ、てことは付き合うんですねぇ?」
両者の間にニヤついた涼夏が割って入り、テレビの司会者のように手をマイクのようにして海に向けた。
「は、はい!静香、俺と付き合ってください!!」
「おっと海くんの熱い告白!静香さんはどうですか!?」
続けて静香に向ける。
「よろしくお願いします」
ここにカップルが誕生した。
手を取り合って心底幸せそうな笑顔を浮かべている。
「おー、青春してんなあ。悠太、若いって良いな!」
「雪兄も二十歳だろ。まだ歳を感じるには早いよ」
「俺も……嫌、やめておこう」
わかってるよ。葉月姉ちゃんの事だろ?
だけど、葉月姉ちゃんが生きてたとしても雪兄には絶対やらん。俺の初恋だからな。
「じゃあ静香の住む場所は自宅or海の家ってことでいいな」
「えっ、なんで!」
マジかこいつ!と文句あり気に静香が目を見開いてこちらを睨んでいる。えっなんで?
「もしかして、お姉様を盗られるのが嫌?とんだシス太君だね」
「ちげーっつーの、彼女が男と同居なんて彼氏としては嫌だろ?」
「俺は悠太なら気にしないぞ、悠太は人の彼女に手を出す奴じゃないからな!」
俺は海の事も考えて言ったつもりだけど、なんて言うの?この子達純粋過ぎる、出会って1ヶ月経ってない俺の事を信用しすぎ。