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「麗奈……涼夏達の所に連れてってくれ」

先程から浮かない表情の麗奈に声を掛ける、未だ抵抗をやめない女の心を折るためだ。

麗奈は無言のまま俺を支え、涼夏の元へと俺を連れて行ってくれた。

「離せ!離せえええ!」

「もういい加減大人しくしてよ!絶対逃がさないんだからぁ!」

「そうよ!貴女の夫が負けた時点で貴女達は詰みなのだから大人しくしなさい!」

うつ伏せの女を2人がかりで抑え込んでいるが、闘志は削がれていないようで、手足をジタバタと動かして抵抗している。

そんな女の前に立ち、見下しながら言ってやる。

「暴れても無駄だ、諦めろこれ以上抵抗を続けるなら……」

これは脅しではないと殺気を込め、包丁を女に向ける。

「――――っ、そんなコケ脅しが通用すると思っているの?ふふっあんたみたいな小娘が人を刺せるわけないわよ!」

女は包丁を見てビクッと肩を動かしたが、俺の事を舐めているのだろう、大人しくはなったが余裕ぶった表情で挑発をしてきた。

「そうか……ヤクザを松葉杖でやったのも、あんたの旦那に一撃を入れたのも俺だけど信用できないか。じゃあ死んで貰うしかないよな、涼夏、唯」


流石は昔から悪巧みをする時は必ず隣にいた俺の幼馴染、俺が言ったことの意図を理解したのか、涼夏が女からは見えない位置でニヤリと笑い、次の瞬間には神妙な面持ちに変わった。

「そんな!殺すのは流石に駄目だよ!」

「そ、そうよ……こんな奴の為に春日くんが刑務所に行くなんて駄目だわ!」

『そんなことをしたらお姉さんとの約束はどうなるの!?』

2人は気付いてないみたいだが、その方が返ってリアル感が増す。

その証拠に徐々に徐々に女の顔が引き攣っていき、汗をダラダラとかいている。

「でもよ、こいつら夫婦は生かしてたら必ず静香に会いに来るだろ?……それなら今のうちに殺しておこうぜ。幸い俺らは未成年だし、仮に捕まっても数年で出てこれる」


と俺が言うと、唯と麗奈は項垂れて黙り込んだ。


「静香ちゃんに危険が及ぶくらいなら……仕方ないね……私、悠くんが帰ってくるの待つよ」


涼夏の声を合図に俺は包丁を振りかざす。


「ま、待ちなさいよ!大人しくするから!頼むから殺さないで!!」

「必死に命乞いやってるけど、あんた……人の心を殺すような事は簡単にする癖に自分が殺されるのは嫌なんだな。自分がされて嫌な事はしちゃ駄目だって教わらなかったのか?涼夏、悪い狙いが外れないように頭を抑えてくれるか?」

「わかったよ……できるだけ苦しみたくないでしょ?暴れないでね?」

心底馬鹿にしたように話し、涼夏の馬鹿力で頭を地面に抑えてもらって慎重に狙いを定める。

女も完全に信じ切っているのか、ふーっふーっと息を荒げて涙を流している。

「誰だって死ぬのは嫌だろうが!やめて!殺さないで!」

「静香と海に地獄で詫びろや!!」

ぶん!!と思いきり包丁を振り下ろした。誰もが息を呑む。



ガイン!!



勢いよく振り下ろされた包丁は女の脳天に突き刺さる……事はない。

金属と地面が接触する嫌な音が響き、押さえ付けられた女の眼前に突き立てられた。

あっぶねえ!あと1センチで本当に殺っちゃうとこだった……。

つまりただの脅しだ。俺達の鬼気迫る演技に泡を吹いて気絶したので効果は絶大だ。


「はぁ……はぁっ、終わりだな!俺たちの勝ちだ!」

無事、とはとても言い難い辛勝ではあるが、俺以外は怪我を負っていないので概ね作戦成功だ。

安心感からか、全身から力が抜けた俺は地面に吸い寄せられるようにしてへたり込んだ。

そんな俺を見た唯と、麗奈も目を大きく見開いて混乱している。


「殺害ドッキリ大成功ってとこだね!ナイスコンビネーション!」

「は!?え?」

理解が追いつかないと言った感じの唯。

「涼夏が意図を読み取ってくれて助かったよ、代わりに殺しかねないし……いやー、それにしても相手が極悪人とは言え流石に殺しはしねえよ。麗奈との約束守れなくなるし。涼夏をまた1人にしちまう。せっかく出来た友達とも離れ離れになっちゃうしな!」


「折角春日くんと再会できたのに!また居なくなっちゃうのかと思ったわよ!もう少しわかりやすく演技するとかできないのかしら!?」

『馬鹿ー!!本当に殺すかと思った!!もう君なんて大っ嫌い!!』


しばらくの静寂の後俺達幼馴染コンビの連携に見事騙されてしまった2人が目尻に涙を浮かべ、口火を切ったように騒ぎ始めた。

「2人ともごめんって!謝るから麗奈も嫌いとか言わないでくれ……」

「こわっ……ひっく……かったんっだがらぁあ!」

『』

「いだだだだ!いてぇよ!」

慌てて謝ると俺に抱きついてガチ泣き、ギブスを嵌めた腕を巻き込んで。

「涼夏!なんとかs!」

「まぁまぁ、悠くん、女の子が泣いてるんだから、それくらいは甘んじて受けなよっ、私はこの悪党2人をあっちに引き攣ってくから、2人が落ち着いたら来てねー」

涼夏に助けを求めようと声を上げたが、俺の悲痛の声を遮り、現状の俺を助けられる唯一の存在はあっけらかんとした様子で男女の首元を掴んで引き摺りながら歩いて行った。


結局5分以上かけて、泣く2人の少女を宥め、ある約束をする事でお許しを得られることとなった。

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