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いつの間にか夜が明けた様で、目が覚めた俺は何故かギシギシと痛む首を揉み込んでいる。

隣では麗奈がスヤスヤと可愛らしく寝息を立てており、設置されている家具の配置から、ここが自分の家の寝室である事を確認する。


おかしいな、昨晩の記憶が全くない、晩飯をみんなで食った事までは覚えてるんだけど……。

体のベタつきも無い、風呂には入ったのか。

その場のノリで酒でも飲まされたのか?記憶がなくなるほど飲んだ割には頭痛や吐き気など二日酔いによく見られる症状はないのだが。


そう言えば2年前くらいにもこんな事があった気がする。

その日も、いつも通り外で喧嘩したり夜遊びしてたんだっけ。

その夜遊びの途中で、物すごい勢いで歩道に突っ込むトラックに遭遇したんだよな、その進行方向に金髪の女の子が居て姉ちゃんの教えに従ったらしい俺は女の子を助けて頭をアスファルトにぶつけて気絶したらしい。

幸い女の子も俺もトラックに轢かれずに済んだのだが。


らしいってのは後から医者に聞かされた話で、頭をぶつけた所為で今みたいに記憶が抜け落ちてたから。

あの金髪の女の子も病院に付き添ってくれてお礼を直接俺に言って去って行ったらしいんだけど、その事すら覚えてない。


あの顔も覚えていない女の子は元気でやっているのだろうか、まさか唯ってことは……ないか、唯は黒髪で、2年前に住んでいたのは県が違うしな。


「麗奈が寝てるうちにトイレでも行くか」


思考を中断し、催してきた朝の尿意を堪え立ち上がろうと、松葉杖を…ない?

松葉杖無しでは歩けないのに何故無いんだ。

きっと酒に酔った勢いで麗奈の肩を借りて帰ってきたんだな。

と、トイレどうする?実際ダムが決壊しそうなくらいには漏れそうなんだが。


背に腹はかえられん、麗奈を起こそう。


麗奈の肩を優しく揺すると、いつも通りパッチリと大きな目を開けて目を覚ました。

そして俺の顔を見るなり枕元に置いてあったスマホを操作し始めた。

『おはよう、痛むところはない?平気?』

心配されるほどに酔っていたのか、これは酔った拍子に頭でもぶつけたか?

「おはよう麗奈、首が少し痛むけど昨日なんかあったのか?記憶が無いんだ……そんなことより悪い、トイレに連れて行ってほしい」

コクリと頷いた麗奈の肩を借りて立ち上がり、ゆっくりとトイレへと急ぐ、言葉は矛盾しているが気持ちは急いでる。


そして麗奈とトイレに入り、光悦とした表情でこちらを見る変態を無視して用を足す。

この異常な状況も要は慣れだ、気にしなければいい、そのうち飽きるだろ。


『覚えてないみたいだけど本当に平気?君は美鈴ちゃんのパンチ貰って踏みつけられたんだよ』

すっごい気になる話だけど、流石に用を足してる時は話しかけんな、気が散る。

変態を無視して、排泄を終えた。と同時に麗奈が手を差し出してくれたので、それを掴んで立ち上がりトイレのレバーを倒して水を流す。


「マジかよ、記憶が無いから怒りようが無いんだけど」

話を戻し、トイレから出ようと足を一歩踏み出すが、麗奈が動いてくれない。


『じゃあ許してあげよ?美鈴ちゃんはめちゃくちゃ叱っておいたから』

怒った麗奈は見た事ないから気になる。

「麗奈が叱ってくれたなら許すか、ほら早くトイレからでようぜ」

許すと麗奈に告げ、トイレから出ようと促すが動いてくれない。

なんだ?トイレの神様にでもなりたいのか?


『交代だよ、お姉さんが居ないと動けないんだからちょっと待っててね、恥ずかしいけど我慢するね///』

スルスル、ガチャっ!バタン!


「トイレくらい1人でしろ!」

俺と場所を反転し、唖然とする俺を放置して、前屈みになりズボンに手をかけて太ももまで降りた所で、我に帰り壁を支えにしてトイレの外へと出た。心臓がバクバクとビートを刻んでいる、一気に目が覚めた。


この年上のお姉さんは何でこうも俺に対して無防備なんだ!俺じゃなきゃ襲われてるぞ!

前屈みだったお陰で所謂秘密の花園は見えなかったが、白いレースの下着がハッキリと見えた。


役得なんだけど、釈然としない。


このままでは部屋には戻れないから、麗奈が出て来るのを待つ事にしよう。


ピーンポーン。

インターフォンが鳴った、朝早くに誰だ?非常識なやつだ。

ピーンポーンピーンポーン。

うるせえ、一言でも文句を言ってやる為に壁伝いに玄関へと降りる。

その間にも来訪者はインターフォンを連打している。

さあ、どんなふざけた面した奴だ、正体を見せろ!

やっとの思いで玄関の扉前まで来た俺は、カギを開け、扉を開いた。


「おはよう、昨日は悪かったわね」

ふざけた面はしていないがふざけた態度を取る美鈴だ

手には松葉杖を持っていて、それを俺に握らせてくる。


「インターフォンは連打しちゃダメってママに教わらなかったのか?」

俺も無愛想に返す。


「その……今日は早く帰らないといけなくて……その、顔は痛くない?頭が痛いとか……本当にごめんなさい」


意外にも俺の体の心配をしてくれているようだ。

多分最初の高圧的な感じは誤り慣れていないから緊張していたのだろう。

それでも謝りに来てくれたのだからきっと反省はしてる、俺も覚えていない事だし、許してやるか。

「平気だ、頑丈なのが取り柄なんだ、気にするな」

自分より高い位置にある頭にポンと手を乗せ、撫でてやる。


みるみるうちに顔を赤くして、涼夏じゃないのに何で、とかぶつぶつと呟いている。

顔真っ赤だな、可愛いとこあるじゃん、と思ったのも束の間、後ろに飛ぶように離れた。

「自分より身長の低い男に撫でられるなんて不覚をとったわ!覚えてなさい!」


と吐き捨てて去っていく美鈴の背中を黙って見送る。

これをネタにしばらくいじってやろうと思う、決して身長のことを言われて怒っているわけではない。決して。

俺の身長が低いんじゃない、周りが成長しすぎなんだ。


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