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お互いに照れあって、口をもごつかせ、 目線を逸らし合う。
そんな俺たち二人を交互に見てから、雪兄は大きく頷く。
「やっぱりこれ、もってけ」
「いや、受け取れねえって、なあ」
麗奈に同意を求める。
「悠太も、お姉さんも、これが自立できるチャンスなの、私は貧乏暮らしには慣れてる、いざとなったら生活の知恵もある」
麗奈が自信たっぷりに頷いた。うちに来るまで、月2万の生活費でやりくりをしていた。
そう、誰にも助けを求めることなく、少ない生活費をやりくりして生きてきたんだ。
の割には琥珀さんの差し入れを貰ったり、琥珀さんが俺ん家で引き取ってやってくれ、って言ってきた時は、すぐそれに乗っかったけど。
『同情なら要らない』
麗奈のために何かしたいって言った時、真っ先に返ってきた言葉だ。
だから、麗奈なら雪兄の申し出も断ってくれると思った。
「そのいざという時ってなんだ?」
「水を飲んで、塩を舐めていれば、5日は生きていられる」
麗奈は遠い目をしながら、自嘲気味に言った。黄色の瞳は濁っていて、過去を見ているようだ。
「大変だったんだな、麗奈ちゃんも」
「一人暮らし一ヶ月目の時はね、どのくらい使ってもいいか分からなかった、二万円なんて大金、使っても無くならないと思ったよ」
麗奈はその時の絶望感を顔に滲ませながら「それがね、食費を一日千円に抑えても、二十日しかもたない、計算したら分かるのにね」と続けた。
計算しなくてもわかる。十日を過ぎた辺りで気付けよって言いたいが俺も同じようなことをしそうだ。
子供なんてそんなもんだよな。
「だから、最後の十日間は意を決して、料理をしたよ……もやしと、お豆腐と、納豆、後はパスタ。安くて美味しい。ああ懐かしい……生活が立ち行かなくなったら、仲良く貧乏飯生活しようね」
麗奈となら、それはそれで楽しいとは思う。
だけど、そんなひもじい思いはさせたくない。
俺だけなら別に良いけど、麗奈と千秋に生活苦を強いるくらいなら、なんとしてでも俺が稼ぐ。
「大丈夫だ、俺が何とかする」
能力はわかんねえけど、人脈はある。
「頼りにしてるね」
麗奈は柔らかい表情で、手を伸ばして俺の両手を包み込んできた。
「……お前らぁ!これ持ってけ!」
雪兄は目に涙を浮かべて、断った筈の封筒を、押し付けてきた。
「いらねえって」
「俺の気持ちだから、気にせず受け取れ!」
慌てて返そうとするも、雪兄は腕を背中に隠して返却を拒否。
分厚い封筒、紙だから重みなんてないはずなのに、鉄の塊を持った時のように重みを感じる。
「それで可愛い服でも買いに行けばいいさ」
押し付けて満足したのか、雪兄は白い歯を見せて、爽やかに笑った。
服を買うにしても、こんな大金は要らねえだろ。
麗奈と目を見合わせる。ニヤリと笑う、背中に悪寒が。
「雪人、ありがとう。これで悠太の新しい服を買ってあげられる」
「ああ、そうか!今はそういう服しかないんだよな!とびきり良い奴を選んでやってくれ!」
雪兄が言う、そういう服とは、女性物の服のことだ。
「任せて、お姉さんがとびきり良い服を選ぶね、悠太にバッチリ似合うの」
「おう!任せた!」
麗奈が親指を立ててグッドサインを送り、雪兄も返した。
話しが食い違い続けていることを、俺は知ってる。




