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「ふえ、何がですか〜?」
「痛かったでしょ、本当にごめん」
「煽ったのは私で、わざと手を出されたのも私、それで〜、私の大事なひとに手を出したのは菜月さん。悠太くんの作戦を台無しにして私こそごめんなさいね〜」
「沙織さんは悪くねえよ」
荒事に対して理解があって、冷静沈着な沙織さんにしては鬼気迫る怖さがあった。
「あの場面、俺が出張るべきだったんだ」
「無駄ですよ、私は悠太くんの作戦には賛成でしたから〜、誰が悪いって決めるなら、家を出た癖に、ノコノコこんなところに出てきた菜月さんです」
そりゃあそうだ、つーか姉ちゃんはなんでここに来たんだ。
「雪兄、姉ちゃんと何を話したの?」
「ん、お前らが言われたこととそんなに変わらないな。悠太を担ぎあげるようなら、次は腕を折るって言われたくらいだ」
なんだそりゃ、雪兄の腕がどれだけ大切なものかって姉ちゃんなら理解してるはずだろ。
ぎりりと奥歯を噛む。
「ふざけやがって、いや、ふざけてねえからそんなことが言えたんだよな。雪兄は飯作ることしか脳がねえのによぉ。」
「山本組としましても、私に手を上げた時点で抗争勃発ですが、どうしましょう、今からでも軌道修正して、何もしない作戦に切り替えます〜?」
「何もしないなんて作戦は止めだ。積極的に攻めてやる」
「それでこそ悠太くんです、これから組員集めましょうか?」
「その必要はないよ。さっき麗奈とも話したけど、こっちから物理的に攻撃をしかけても、逃げられるのがオチだろ」
「あちらは少数、くわえて悠太くんのお父さんの秘書さんもいて、資金も潤沢、隠れ家を移すのも訳ないですもんね〜。でも、積極的に攻撃するのと矛盾してますけど」
口元を釣り上げ、ニヤリと笑った。沙織さんが一瞬たじろぐ。
姉ちゃん驚くだろうな。
「沙織さん。俺の婚約者になってよ」
姉ちゃんよ、これが俺の答えだ。
「あのですねぇ、君にはもう何人か婚約者がいてですね?」
「麗奈と、涼夏と、美代子さんだな」
手のひらを見ながら、1人ずつ名前を上げながら指折り数えた。
「私もですよ!」
と千秋が名乗り出た。なら四人か。
「神田さんまで!?凄いですね〜、そんなに素敵な女性が将来を誓っているのに、私なんて必要あります?綺麗も可愛いも揃ってて、私が割って入るような隙間はないでしょう〜」
長い言い訳の間、熱い視線をチラチラ挟みつつ、沙織さんは言った。
その割には嬉しそうな顔してるけど、そうか、説得力が足りないか。
「一体私のどこを好きになったんですかね〜。こんなメガネかけてますし、腐ってますし、ヤクザですよ?」
チラ?チラチラ?熱い視線は強くなる一方。これって好きになった理由を探りたいだけのやつだよな。
「胸ですね」
麗奈の目つきが鋭くなり、千秋がうんうんと頷く。
言われた本人は顔をやや赤くして、豊かに実ったそれを腕で抱いた。
見えないように隠しているのに、持ち上げられて強調されてる。
「胸……ですか?小さいのから大きいのまで制覇したくなっちゃったんですか」
微乳から美乳飛び越えて巨乳、いや、唯を加えたら全制覇も可能か。
そんな軽い男でもなければ、確固たる決意を持って、俺はこの場に望んでいる。
「んなわけないでしょ、もちろん姉ちゃんへの当てつけでもねえぞ?ほんとのとこ、沙織さんって俺じゃなきゃ幸せになれないでしょ」
そう、このプロポーズめいた告白は、予定調和。いつかはするものだから、今したまでだ。
「凄い自信満々のところ悪いんですけど、まるで私が弱い女の子みたいだって言われてる気がしてムカつきますね〜」
「まあ、そう捉えて貰っても構わねえよ。沙織さんもヤクザって仮面を剥がしたら、ただの女の子ってことに変わりはねえ」
「悠太、沙織は腐ってる」
胸ですね