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「うるせぇ!分別のつかないご腐人じゃなくて雪兄だから怒ってるんだろうが!」


「……えぇ、そんな風に思われていたなんてショックです〜」


 沙織さんは手で顔を覆い、およよと泣き真似をした。わざとらしすぎる。


「分別はつかないのは悠太じゃないか!見ろ!山本さんが泣いてるぞ!」

 引っかかるのは雪兄だけだよ、千秋なんて、沙織さんと雪兄を交互に見て、顔を引きつらせてる。


「沙織が泣いてようとどうでもいい。悠太のお尻を狙ってるなら諦めて、雪人」


 麗奈が言った。


「狙ってない!狙ってない!悠太より小さかったら傷付くから知りたかっただけだ!」


 口を滑らせたなコノヤロウ。


「おい、言っとくけど俺は、むー!むー!」

 デカイんだぞ!また麗奈に口を塞がれた。どういうことだと麗奈を睨む。

 

「君のサイズはお姉さんだけの秘密。沙織にも、千秋にも、教えてあげない。雪人にもね」

「せっかく悠太の口から聞けると期待してたのにー!お姉ちゃんケチです!」


 千秋は肩をいからせて、麗奈に抗議した。


「ケチで結構、雪人と悠太のカップリングを妄想する人には教えてあげません。時代はおねショタ、悠麗が正義」

 顔を斜め上に向け、表情をつけてのドヤ顔を披露した。

 前は無表情でドヤるから可愛さよりも、ウザさが目立ってた。

 今は顔面の良さをフルに活かしたニヤケ面でのドヤ顔、ぶっちゃけ可愛い。

 

 そしてなんという独占力、しかもどさくさに紛れて自分まで売り込んでくるとは、流石自称悠太くんのお姉さん。


「私も雪人で妄想なんてしませんよ、気持ち悪い――いいですか?お姉ちゃん。人の数だけ、その人が推すカップリングが存在するんです、未亡人、幼なじみ、同級生、男の娘同士、百合、ヤクザ、千秋と悠太。みんな違ってみんな良いんです」


「お姉さんは認めない。千秋と悠太は許す、幼なじみも許す、同級生も、ヤクザも、許す、それでも雪人だけは、駄目」


「お姉ちゃんも、麗奈と悠太のカップリング、ひいては師匠の小説を否定されたら傷つきませんか?」


 ガキに正論を突きつけられて、麗奈は途端にオロオロと視線が定まらなくなった。

 目の前に被害者がいる場合は別だろ。俺も支持するから、もっと戦ってもいいんだぞ。


「傷付くけど、雪人は、や!」


 いいぞ、何とか持ちこたえたな。


「と言うわけだ。雪兄、諦めてくれ、俺は男には興味無い」


「勝手にカップリング組まれて勝手にふられた!?」


「雪人、可哀想ですね……でも、ぶっちゃけ、私も性癖が歪んでる自認はありますけど、それでも悠太と雪人は無しです!」


 沙織さんと雪兄に味方なし。残念だったな、ご腐人よ。

「そんなぁ……最近悠太くんの守備範囲が広くなったので、イけると思ってましたのに〜」


「師匠、悠太は女好きですよ、しかも面食い」


「別に顔で好きになった訳じゃねえよ」


 好きになった人の顔面が良かっただけだ。

 いや。そう考えたらみんな顔が良い。麗奈も、涼夏も、唯も、美代子さんも、沙織さんも。


 顔で好きになった訳じゃないって、彼女達の魅力の一つを否定したことになるんじゃねえか?

 特に麗奈と涼夏は自分の顔面の良さを理解して、可愛い仕草で俺を魅了している節がある。


「だが、顔が良いのは否定しない。みんな綺麗だと思う」


 一応のフォローを入れた。


「女好きは否定しないんですね」


「否定しようが無いだろ。結果はどうあれ婚約者が沢山いるんだから」


「ぷぷ、子供の作り方も知らない癖にですね〜」


「沙織さんが教えてくれるんすか?」


 あれ?めちゃめちゃ顔が赤くなった。これってもしかして。


「沙織さんって大人の女性ぶってるけど、へぇ〜、知らないんだ〜」


 同じレベルの仲間を見つけて、ほくそ笑む。

「知らないわけないじゃないですか〜、子供の作り方なんて小学生でも知ってますよ〜」


 と取り繕う沙織さんに、俺は近づいて行った。

 俺の接近に表情を読まれないよう、牛乳瓶の底みたいなメガネをかけ直す沙織さん。

 目なんて見れなくたって、頬の赤みが強くなってんだ。恥をかくのを恐れてるんだろ。


「じゃあ教えてくれよ。どうしたら子供が出来んのかを」


「あはは〜、悠太くん、エロ小説の主人公みたいですね〜」


 足で椅子を回して、今度は体ごと俺の視線から逃れる。逃がすわけねえだろ。


 涼夏は言いました。女性にそう言うこと聞いたらセクハラだよ?と。

 麗奈も似たようなことを言いました。


 麗奈にチラと視線を送る。動きはない。

 むしろ沙織さんが押されている、この状況を楽しんでるようにも見える。


 散々セクハラめいたことをされてるんだ。ここで少し仕返ししてもいいだろ。


 沙織さんの肩を右手で掴む。もう反対の手を膝に当てる。

 グッと引っ張って正面を向かせた。相手が目を逸らすなら、力を持って制する麗奈式だ。


 もちろん顔を動かして逃げ出そうとしてきたから、手で挟んで、がっちりホールド。

 眉は八の字に垂れ、牛乳瓶の底みたいなメガネの隙間から覗く、少し光が足りてない黒い瞳は俺を映さまいと右の方を向いている。

 

 この人から、長らく好き放題カップリングを組まれてきた。今日こそ白黒つけてやる。


「沙織さん、ごめんなさい」


 頭に巻いた包帯から血が滲んでいた。

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